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割れた卵と割れない卵

10時のお茶のお茶請けに冷やしておいた一口ゼリーをと、冷蔵庫を開けた。
「げ!」
パックごと仕舞ってある卵を見てギョッとする。
どうやらひとつ割れていたようだ。
昨日買った卵、冷蔵庫に入れる時点では気が付かなかった。
壊れていた卵はほとんど中身が出ていた。
殻を捨てながらため息をつく。
残った卵をパックから取り出し、冷蔵庫の卵入れに並べていく。
普段そこにいるわさび何度のチューブはタッパーに入れてさっきまで卵がいたスペースに置いた。
割れてた卵はひとつだけのようだった。
「せっかく安かったのに」
残念な気持ちのままお茶を啜り、メロンゼリーを食べた。

「いつも卵を買っているスーパーが改装でしばらくお休みなんです」

誰得?な情報から始まった定番ラジオ。
自分はさっきの卵の悲劇を引きずっていた。
たとえひとつでも割れていたのはショックだ。

「仕方がないので、そこよりも10円高い別のスーパーで卵を買ったんですが…ねぇ、卵の値段と殻の厚さが比例するとか、ある?」

へ?何を言っているだ?

「卵焼きを作るために卵を割るでしょ?で、いつものとおりに卵割り専用ワインボトルにカツッとぶつけて…」

ワインボトル?

「卵ってついボールの角とかにぶつけがちでしょ?確かに割れるけど、殻が入りやすくなるって教えてくれた人がいて、まな板の上のか平たいところにぶつけるのがいいって。でもね、平らだとヒビがやっぱり甘いんだよね。あ、僕個人の意見ね。で、どうしたらいいかな?と思っていたら、ワインのボトルがいいよ、と教えてくれた人がいて、試しにやってみたら調子いいんだよね」

なかなか洒落た真似を。ん?洒落ているのか?
よくわからないや。

「カンカン、パキ、ポタ。このリズム。それがさ、カンカン、パ…キ、ポタ。ヒビが入ってちょっと力を加えると殻が割れて、ボールに落ちる。パキが、パ…キ。1秒じゃないよ。コンマ数秒。その間がね、気になる。いや気になるのは間じゃないの。あれ、何ていうの?卵の膜?薄皮?あれがいつもの卵よりしっかりしてるの」

あ、ちょっとわかるかも。
殻の厚みもだけど、薄皮が妙にしっかりしているのある。

「昨夜でその卵焼くの3日目だったんだけどまだ慣れないんだよねぇ。慣れた頃にスーパーの改装終わるのかなぁ?それもなんだかなぁ?慣れちゃったら10円高くても今のスーパーで買っちゃうのかなぁ。買えなくはないけどなんか嫌だなぁ」

ラジオがCMに入ったので麦茶の補充にキッチンに行く。
ついでにシンクに置いていたパックの中の卵を水道の水で流した。
そしてパックを捨てた。

「卵を落として割っちゃった時はそりゃあショックだけど、割ったつもりが割れていないというのも地味〜にダメージあるんだよね」

落としたつもりはないが、割れた卵で受けたダメージを引きずっている自分としては頷いてしまう。

「反面上手に卵が割れたり、うまく卵焼きができただけで気分が上がる。そんな感じに人生は流れていくんだよね」

教訓チックにきれいにまとめたふうにしているけど…といつもだったら茶化したくなるけど、今日は激しく同意する。