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【46枯れ木】#100のシリーズ

「枯れ木に花を咲かせましょう」
爺さんその木は枯れちゃいねぇぜ。
「枯れ木に花を咲かせましょう」
爺さん…聞いちゃいねぇか。いや、聞こえないのか。すまないなぁ爺さん。すっかり痴れ者になっちまったようだな。まさか、爺さんがそこまで俺を好いていたとは知らなかったぜ。知らなかったといえば、まさか隣に神殺しが住んでいたとはな。
俺はこのとおり、肉体がなくなっても存在し得る神だ。隣の神殺しの元にあの刀がなかったのが幸いだった。あの刀で斬られたら、肉体を失うどころかこうして爺さんに話しかける力すら残っていなかった。
爺さんには本当に世話になった。せめて最後は婆さんとふたり何不自由なく穏やかに暮らしてほしいと思っているんだ。
だから爺さん。いいかい?殿様が来たらその灰を桜の木にかけるんだ。
今から撒くんじゃねえぞ。
おい。爺さん。爺さん!
隣の神殺しに爺さん同様桜の木に登って、その灰を撒いてもらわなくては。
知ってるか?爺さん。
海を渡った西の方の国では「目には目を」って言葉があるらしい。
他人の目をつぶしたものは、罰として自分の目も潰させろと。
だから爺さん。隣の神殺しには神殺しをぶつけるのさ。
殿様も隣同様神殺しの末裔なんてな。ここはもともと俺には住みにくい土地だったようだ。
おっと、爺さん。向こうから殿様たちが来た。灰はまだあるかい?今だ。今、撒くんだ。
「枯れ木に花を咲かせましょう」
そうだ。その調子。
「枯れ木に花を咲かせましょう」
俺の血肉を吸って育った木だ。焼けて灰になったぐらいでのその力は失われちゃいない。
ほら、爺さん。綺麗だろう。桜が咲いたぜ。
ほら、爺さん。向こうで婆さんも見て喜んでいる。
ほら、爺さん。下で殿様が何か言っているぞ。
ほら、爺さん。俺の声が聞こえるだろう。俺はいつでも爺さんのそばにいるぜ。

「これはこれは見事な桜だ。殿が褒美を取らせると言っておられる」

爺さん、よかったなぁ。
俺も取り敢えず一安心だ。
あとは隣の神殺しが出てくるのを待つだけだ。
いいかい、爺さん。その灰を全部渡すんじゃないよ。
籠の隙間にほんの少しでも残っていりゃ、俺はいつまでも爺さんの側で爺さんと婆さんを守ってやれるから。
そうそう。婆さんは賢いな。そっくりな籠に灰を移し替えて。そうそう。そっちを隣の神殺しに渡すんだ。
いやいや。俺は何もしていない。
神殺しの力が勝手に神の恵みを逆転させるだけだ。
ほらほら、爺さん見てみなよ。隣の神殺しが殿様の家来たちにふん縛られているぜ。
何てったって殿様だ。
直接神殺し同士がやり合うこともなく、家来どもに命じて、あっさり相手をやっつけたようだ。
あぁ、これで俺も本当に安心できるってもんだ。
爺さん、婆さんが生きている間はこの地で戦も起きやしない。
大丈夫。俺がついているからな。


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