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ラジオの時間

もうすっかり習慣になったラジオ。
かけっぱなしではない。昼前の11時半から30分。タイマーでラジオのスイッチが入る。
自分が高校生のあたりには深夜のラジオ番組を持っていた彼(一応、シンガーソングライターが肩書きの何でも屋)が平日の昼前と日曜日の午後にラジオ番組を持っている。平日のラジオはたまたま仕事で移動中に聞いて知っていたが、日曜日のラジオを知ったのは割と最近だった。
平日昼間のラジオはもう5年も続いているという。
今まで聞いていなかったことを残念に思うほど、ハマっている。
仕事柄ラジオを一日中流していてもいいけれども、好きじゃない番組もある。
いちいちラジオチャンネルを変えるてまで一日中聴いていたいというわけでもない。
早めの昼食を食べながらラジオを聞く。
独身男性の語る内容といえばそうかもしれないし、イメージじゃないと言われたらそれにも頷ける。
ひとり暮らしのささやかな疑問や自慢。リスナーからの質問の葉書に答えたり、自分の新曲の解説をしたり、毎日毎日、ネタは尽きない。

「あ、聞いててわかってると思うけど、このラジオは収録だからね。収録自体は週に一回だけど、その2日前に届いたハガキをもらって読んで…って。で、次の日にだいたい何を話すかノートにまとめて収録に挑むんだけど、ノートに書いているようにいった試しが正直あまりないんだよね」
ナハハハハ…とスタッフさん共々笑っている。
「ほら、あっちはゲスト呼んでのトークが多いじゃん。なんか自分も文化人気取っているからねぇ。案外と予定通りなんだけどこっちはなかなか」
再び、ナハハハハ…と笑う。

「あっち?」
日曜日のラジオを知ったのは、実はこの時だった。
ホームページで彼のレギュラー番組を調べる。
テレビでも不定期にトーク番組のMCをしたり、ドキュメンタリーのナレーションをしたりする中、今聴いている放送局とは別の局で、日曜日の午後に90分番組を持っていることを知った。

「あっちはね。基本生放送。ほら、あっちはお洒落なスタジオあるでしょ?窓からみんなが見える。うん。あそこで録ってるから、服装もここに来る時みたいなんじゃなく、小綺麗にしてるよ」
今度はムフフフと笑う。
「見られているのもあるけど、ゲストさんがいるからね。ほら、オレ、外面いいから」
ムハハハハハ〜と大爆笑している。

外面のラジオも一度聴いてみようか?
普段、その時間は自分は何をしているか考えた。
毎週毎週変わり映えのない休日を送ってきたし、在宅リモート勤務になってからは通勤時間がない分、買い物などわざわざ出かけなくてはならないとなると土曜日や日曜日にまとめて行う。
「そっか。出掛けてることが多いのか」
しばし悩む。
生活パターンを変更してまで聞く価値があるのか?

「今さ、ラジオのアプリとかあるじゃん。いつでもどこでも聞けるやつ。あれだとさ、生放送の意味あんまりなくない?」
ん?
「ライブツアーで遠くに行ってたりすると収録になるんだけど、生放送のうまみはハプニングだったりするわけじゃん。今、そこで起きていることがそのままオンエアされる。でもさ、それを後から聞いても楽しいのかな?え?聞いたことないよ。自分のラジオなんて。そうでしょ?一度こうやって話して聞いてるんだよ?なんでまた聞くの?」
スタッフさんが小声で「この番組は?」と訊ねる。
「基本的には聞いてない。でもたまに移動中の車の中で聞いちゃうことある。なんか変な感じって思いながら聴いてる。でもね、滅多にない。オレさ、基本車の中でしか聞かないから。しかも自分が運転してる時。つまり休みの日。休みの日は家から出ることそんなにないからね。だから自分のラジオ聞くのって本当にイレギュラーが重なった時だけなね」
スタッフの力ない笑い声が遠くに聞こえた。

アプリかぁ。
アプリねぇ。
無料かなぁ?有料でも聞く価値あるのか?

「さて今日もそろそろおしまいです。『おしまいです』と言っといて、すぐさま『こんにちは〜』って言うんだよね?これ水曜日だよね?あと2本!」

番組終了と同時にラジオの電源が切れ、食器を片付けるために立ち上がる。
「うーん。アプリねぇ、アプリ…。一度リアルタイムで聴いてからかなぁ」
月曜日も休みだと月曜日に買い物に出る。
それなら日曜日の午後にラジオを聴いてもいいんじゃない?
このラジオが面白いから、もうひとつも面白いとは限らない。
だって、外面良くしたラジオでしょ?

そんなことを考えて、いまだに日曜日のラジオは聴けないでいる。
ラジオの時間を作るって案外と難しいんだなぁ…なんて思っている。