見出し画像

粥を炊く

「炊飯器が壊れました」

ラジオからの声に、思わず「あら一緒」と声が出た。

「いつもご飯食べるわけではないけど、だからってパックご飯もなぁ…って。まだ、お米あるし。で、以前『便利だよ』ってもらっていた、電子レンジでご飯が炊けるのを使ってみたんです」
「結果で言うと、炊けました。そこそこ美味しい」

へぇ…ネットの口コミサイトにもあったけど。

「でも、やっぱり、炊飯器と違う。僕ね、そこそこいい・・炊飯器使ってたから」
「で、炊飯器買いました。少量でも美味しく炊けるヤツ」
「やっぱり炊飯器の方が美味しい。炊飯器も日々進化しているからね。いろんな機能がついていたりしているのもあったけど、僕はとにかく1合でも美味しい。これに尽きたわけですよ」

先週、炊飯器が壊れた。
どうやら蓋がきちんとはまらなくなったようだ。
ご飯が美味しくなくなった。
10年近く使っていたものだった。
家で仕事をする日は朝と昼の分ご飯を炊く。
1合で十分。
だから、ラジオの彼ではないけれど、『少量炊きでも美味しい』を謳っていた炊飯器を使っていた。マックスで3合炊ける炊飯器だった。
昼をお弁当にしているから、ご飯はほしい。
やはり炊飯器は必需品だ…と思って家電量販店に行った。
そこで興味深い物を見つけた。
お粥専門の炊飯器。
マックスで2合。白粥だけでなく卵粥も炊ける…とあった。
「これだ」思わず呟いた。
かねてよりお粥生活に興味があった。
元自分は元来ご飯は少し硬い方が好きだ。だけど、少し前に同僚に誘われてお粥の専門店に行って食べて、それまでのお粥に対しての偏見を払拭された…と言ってもいい美味しさを体験した。
お店は隠れ家的なもので、ランチの時間だけほんの数組だけのお客様を受け入れている店だった。
お店のオーナーさんがお粥や、薬味の説明をしてくれる。
食べた後も食後のお茶を出しながら、少しお話しをしてくれる。
確かにお店の粥はゆっくりと時間をかけて炊いているものだった。
「付きっきりとか無理だわ」と自分が言うと、「ここだけの話」オーナーさんは背を屈め小声で言った。
「お粥専門の炊飯器も、かなり美味しいお粥を炊いてくれますよ」
「え?」
「試してみました。間違いないです」
オーナーさんはにっこりと笑った。
店からの帰り道、同僚と「お粥を家で食べたいね」という話になった。
リモートワークが主体になって、すっかり運動不足になったのと、食事に気をつけたい年齢になってきたことなど、自分たちをお粥に駆り立てる要素がそこかしこに転がっている。
加えて、思っていた以上に「お粥が美味しい」がとどめを刺した。
というわけで私は粥炊飯器の前で腕を組み、悩んでいた。
いろいろ機能のついているタイプもあった。
でも純粋に『お粥を炊く』に特化したものがいい。そう思った。
今まで通り、朝の支度と一緒に昼の分をおかず入れに詰める。
今までは朝ご飯を炊いて、お昼の分はお弁当に詰めていたけど、今はその都度お粥を炊く。
朝食べたら、昼の分を炊飯器にセットして、頃合いを見てスイッチを入れる。
それはいつもの昼前のラジオを聴く前がちょうどいい。

「炊飯器。調理機能は付いていないけど、お粥も炊けるんだよね。お粥。お腹の調子が悪い時とかお世話になるかもしれない」
「レトルトお粥は当たり外れ大きいんだよね」

おや?彼もお粥ですか?

炊飯器が「炊けたよ」と知らせてくれた。
さて。ランチの時間と致しましょうか。