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【79ペンキ】#100のシリーズ

悪戯か何かわからないが路上にペンキが撒かれてあった。
「黄色、白、赤、青…」
「あっち側には緑も」
杉白が指差す。
通報があったのは朝5時。なかなか人が通らない道だが、新聞配達員がこの惨状を見つけて通報してきた。
表通りと裏通りを結ぶ路地で市が管理する道路だった。
車が一台通れるか通れないかの道幅。
道の両側には民家の塀がある。その塀にもペンキが飛び散ったかのように付いていた。
いつからこの状態だったのかわからない。
ただ、昨夜遅くから明け方の4時頃まで、雨が強く降っていた。
「雨で流れていないとなると油性かぁ」
北條は交番勤務の巡査長。今の交番に来て半年になろうとしている。
その半年の間に何者かによって、様々な物の色がペンキで塗り替えられるという事件が2件起きていた。
最初は公園の遊具だった。古いゾウを模した滑り台がピンクに塗り替えられていた。
丁寧に「ペンキ塗りたて」と貼ってあった。
皆、市役所で塗り替えたものだと思っていた。
どうせ塗るなら他の遊具も塗ってほしいと市に要望を出したところ、「塗り替え作業は一切行っていない」という回答で、初めてペンキを塗ったのは誰だ?ということになった。
うらぶれた公園のピンクの滑り台は、余計公園を寂しく思わせた。
結局公園の遊具は新しく入れ替えられたり色を塗られたり、ついでというように外灯もLEDに交換されて明るくなった。
次に塗られたのは、駅前のロータリーの真ん中にある小便小僧だった。
パステルブルー塗り替えられた小便小僧。
それまでみんながその存在を忘れていた小便小僧が注目を浴びた。
誰かが青く塗られる前の姿をSNSにアップした。
うすら汚れている姿。
誰かが元の白さを取り戻してほしいと言った。
市が再び白く塗り替えようとして気がついた。
そのパステルブルーの色は簡単に剥がれ落ちる。
パステルブルーのペンキは汚れと共に剥がれ落ちた。
綺麗に磨かれた小便小僧の周囲も綺麗な花で飾られた。
その2件は防犯カメラのない場所だった。
ロータリーにはカメラがないわけではなかったが、車道を映すばかりで中央はほとんど映っていなかった。
「今回のは前の2件と種類が違うような気がする」北條は思った。
高い所からペンキを缶ごと落としたような現場。
しかし、高い所といってもどこからこれを落としたのか?
道路のほぼ中央で飛び散るペンキ。
唯一の共通点はその通路にも防犯カメラはないということだった。
「象の滑り台のも油性のものでしたが、それとは種類が違うそうです」
古くからある通路で、路面はアスファルトがひび割れていたり、陥没している箇所もあった。
それらの上にペンキは撒かれている。
「色を消すというより、新たに舗装し直しになるそうです」杉白が言う。
「ん?」
北條は気がついた。
「すべての現場はペンキが塗られたことで再生されている?」
事件後はむしろ市民にとってプラスになっている。
「ある意味、義賊だな」
北條はポツリと呟く。
市もそのことに気がつき始めたようだった。
市内各地で、整備補修が必要な箇所がないかのチェックが始まったという。
「できれば、市よりも先に補修箇所を見つけてもらいたものだ」
ペンキ塗りの犯人ペインターに期待している自分に気づき北條は苦笑した。


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