見出し画像

ヒーローの名前

昔見た盗撮ヒーローの名前が出てこない。
キャラクターは浮かんでいるが画力がないから「こういうキャラクター」と描いて説明ができない。
大抵の古のヒーローものはなぜか主題歌を歌えるのに、このヒーローの主題歌は出てこない。
もうかれこれ3日は悩んでいる。
決して悩み続けてはいない。
それでも車の中とか、湯船に浸かっている時とか、布団の中とか、隙間時間は全てそのヒーローの名前を思い出すことで埋め尽くされている。
すごく小さい時に見たものだろう。エピソードひとつ思い出せない。
でも、チラリと頭に思い浮かんでしまったら最後、名前を思い出さないとすっきりしない。

3人組で、色は赤青黄ではなくて、ウルトラマンのように巨大怪獣と戦うけれども、彼らは巨大しなくって…。
「じゃあ、どうやって戦うの?」
一緒に休憩に入った大友くんがコーヒーの入ったカップをテーブルに置く。
「戦闘機があるんだ」
「はなっから巨大怪獣と戦うのに、なんでわざわざ変身して戦闘機?」
大友くんの指摘はご尤もだ。
「うーん。何か抜けているのかもしれない。その辺もすっきりさせたい」
大友くんは自分よりも10歳年下だから、大友くんに訊いたところで答えが返ってくることはないのはわかっていた。
「ネット検索はしました?」
「いや」
「先生が思いつくのを並べて検索するんです」
スマホを取り出す。
「ヒーロー、特撮、3人組…とりあえずこれで検索」
3人組の特撮ヒーローは結構あるんじゃないのか?そう思いながら大友くんのスマホの画面を覗き込む。
「あれ?またスマホ新しくなった?」
「ケースが変わっただけです」
検査技師の大友くんはこういうデジタル機械が好きらしく、いろいろ持っている。
「あ、これかも」
と指差すと、大友くんは再度その名前で画像検索した。
「あ、これだ」
出てきた画像に思わず声が出た。
「よかったです」
大友くんはスマホをこちらに渡すと、テーブルに置きっぱなしだったお弁当を食べ始めた。
なるほどこうして検索するといいのか…と思いながら写真と解説を見ていたら、なんだか少し思っていたのと違う感じがしてきた。
「本当にこれかなぁ」
そう言いながらスマホを返す。
「どうしました?」
「確かに自分がここ数日名前を思い出せないのは彼らだったけど、内容がなんか違うんだよなぁ。どう違うかはうまく言えないけど」
大友くんはスマホを受け取るとうんうんと頷いた。
「もうそれは先生の中で新しいヒーローになっているんですよ」と言った。
「先生、久しぶりに思い出した…って言ってたじゃないですか?今までも何度か思い出している中で先生なりのアレンジが加わっていたんじゃないですか?」
「そうかな?」
「だってそれもう30年くらい前のヒーローですよね。再放送でも見てない限りアレンジされても仕方ないですよ」
「再放送ないってよく言い切れるね」
「僕見たことないですから。ヒーロー物好きなんですよ。先生の世代のものも結構見てますよ」
「そうなんだ」
スッキリしたようなしないような気分で弁当を食べ始めた。

何かが一緒になっているんだ、と車を運転しながら考えていた。
何か別のヒーローとごちゃ混ぜになっている。
それは何だろう?
振り分けようにも元がちっとも思い浮かばない。
ヒーローなのに自分をちっとも救ってくれない。
自分を救ってくれるヒーローはどこにいるのだろう?
そんなことを考える自分に苦笑する。
いっそ新しいヒーローを見て上書きするしかなさそうだ。