巻き物語
「たくさんのお葉書ありがとう」
お昼前の飯テロラジオ。
もっとも先週は延期になったライブツアーの代わりに、いつもより音楽多めのトークも音楽に関することを語ったアーティストっぽい一週間だった。
「斬新なレシピから、なんでこれに気が付かなかったんだろう?と思う盲点レシピまでいろいろあって、毎晩の飲みが進む進む」
いやいや。もう飲んでばかりじゃいられない年齢なので自重してくださいよ。
「でね。レシピ募集していてなんだけど、僕、新たなつまみに目覚めたの」
うわぁ〜、今週は再び飯テロウィークですか?
そう思いながら弁当箱を開ける。弁当箱にはおかずだけ入っていて、ご飯は茶碗に別によそうか、おにぎりにして準備しておくかのどちらか。
ラジオを聞きながらゆっくりお弁当を食べて、ラジオが終わったら、片付けて、コーヒー(時には紅茶)を淹れて午後の仕事に取り掛かる。
朝のうちにお弁当を詰めておくと「昼食の準備」に割かれる時間がなく、家で仕事をしていても会社と同じような時間配分で済む。
今日のお弁当のメインは長ネギを豚肉で巻いて焼いて塩ダレで味つけたもの。作り置きコールスローと、紅生姜入りの卵焼き。
ご飯は今日は塩おにぎり。
梅入りのほうじ茶と共にいただきます。
まずはメインに箸をつけた。
「肉巻きなんだけど」
口に運びかけて、思わず止まった。
「僕ね、今までも肉巻き作ってたんだよね。アスパラガスとか長ネギとか、あとピーマンを豚バラスライスで巻いて焼くの。味付けは塩胡椒でもいいし、焼き肉のタレでもいい。味付けせずに焼いて、後からネギ塩ダレで食べるのもいい」
今日の肉巻きは塩胡椒で味つけている。
気を取り直して肉巻きをパクリと食む。
ネギの甘みは冷めていても美味しい。
「でね、たっちゃんが…喫茶店の息子のベーシストのたっちゃんが『レタスを巻くのも美味しいですよ』って。焼き肉を巻くんだったらサンチェでいいじゃん、って言ったら、『いえいえ、レタスを肉で巻いて食べるんです』って。『特にロメインレタスがおすすめです』って言うんだよ」
昔はレタスはレタスでしかなくて、フリルレタスとか、サニーレタスとか、レタスに種類があるなんて知ったのはここ数年のことだ。ロメインレタス…なかなか見かけない。多分、彼もそうなんじゃないかな?
「ロメインレタスぅ?なんだぁ?ってなったのよ」
ほら、やっぱり。
「『シーザーサラダに使われているレタスです』って言うんだけど」
食べたことないって言うんじゃ…
「生野菜、サラダって苦手なんだよね」
小声で言う彼にプッと吹いた。
そしてふたつめの肉巻きを食べる。
そしてラジオでは本日の一曲目が流れる。
「あなたにサラダ」
世代だな、と思った。
「まぁ、せっかくおすすめしてくれたんだからと思って、スーパー行ってロメインレタス探したんだよね。僕が行くスーパーでちょっとお高いモノが売っている方にあったの」
彼の行きつけのスーパーはラジオ局の近くと、家の近くにそれぞれあるというのを以前話していた。どっちが「お高いスーパー」なのかはわからない。
「結論から言うと。美味しい。僕、レタスをみくびっていた。あのね、べちょべちょにならないの。美味しいの。レモン塩で食べた。あ、レモン塩もたっちゃんが教えてくれた」
実家が喫茶店というベーシストは彼の食生活を豊かにしてくれる。彼のファンはベーシスト・たっちゃんに感謝しかないとSNSで語られているのを見たことがあった。
「もう、そっからいろいろ肉巻きにしてるんだけど。肉巻き万能だよね。何を巻いても様になる。肉巻き優秀」
言われてみればそうかもしれない。
料理としてはほとんど技術を要することもないし、組み合わせの失敗もほとんどない。
「でね。世間の皆様はどのような肉巻きを食べているか?気になったのよ。うん」
スタッフに話しかけているのか、マイクから少し声が外れた。「ふん、へぇ」と小さな声がする。
「ゴボウのたたきってどうせキミが作っているんじゃないんでしょ?」
「ほら、やっぱり。でも、あとで作り方聞いてきて」
「と、いうわけで再びお葉書募集です。僕の食生活を豊かにしてください」
結局気にいるとそればかりになるんでしょ?
お弁当箱に最後に残った紅生姜入りの卵焼きを食べる。
自分のおすすめはネギだ。今日のお弁当の中身の肉巻き。太めの長ネギを輪切りにする。細くはしない。ネギの甘みを感じたいからだ。
多分、彼だってやっていると思うが、葉書を書こうか?と思った。
「ところでさ、焼き肉でお肉巻くサンチェってレタスの種類のひとつだって知ってた?僕、昨日知った」
へぇ…私は今知りましたよ。
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彼のラジオ、まとめました。