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【祈願上手】#毎週ショートショートnote

「祈願上手?おねだり上手とは違うのか?」
「そうだな…似て非なるもの。かな?」
西本はあたりめを炙りながら言う。
「上手に祈り願うのさ」
「何?お前の彼女って巫女さん?」
「造り酒屋のひとり娘」
そうだ。今飲んでいる酒も西本の彼女の家の酒だ。
「彼女が願うがままに世界は回っている」
「まさか」
「今時男ばかりの4人兄弟の3番目で、実家が農業でもないのに興味本位で農業大学で糀の研究をしていた彼氏をごく自然な出会いでゲットしたのも彼女が願ったシナリオだからだ」
「まさか」
西本は十分炙ったあたりめをこちらに寄越した。
西本はその彼女と来週結婚する。
婿養子ではなく所謂マスオさんなのも彼女が望んだことだ。
「つまり、彼女が僕との幸せを願ってくれているうちは僕も幸せでいられるということだよ」西本は言う。
「いいね」
「本当に?そう思う?」
「え?」
「いつまで願ってくれているか?僕は怖いよ」
西本はそう言ってまたあたりめを炙る。
俺はただあたりめを齧った。