感想:これ描いて死ね(3):楽しむ人間が悩む人間を感化していく話

本作はマンガ大好きな主人公の安海さんが、自分の学校の手島先生が憧れのマンガ家であることを知ったのをきっかけに、仲間と一緒に創作の世界にハマっていくという話です。

本作には様々な創作者が出てきますが、彼らの何人かはめんどくさい悩み方をしています。
本巻では、創作を楽しむ人間のエネルギーが、そんなめんどうな人達を感化していく話が幾つもありました。

まず、手島先生もそんなめんどくさい人の1人です。
手島先生は巻末のオマケマンガを見れば 本来は感情豊かな人間だと分かりますが、今はその顔を見せないようにしています。
ですが、本巻ではそんな手島先生が明らかに変化していることが分かりました。

作中で手島先生は、自分の白紙のアイデアノートを安海さんにプレゼントします、それは先生が創作の世界から決別したことを意味しています。
アイデアノートに何も書けなくなった手島先生は、自分がこのノートを持つ意味がないと信じているわけです。

ですが安海さんがノートに溢れんばかりのアイデアを書き込んでいるのを見た後、先生は友人から同じノートをプレゼントされて、それを受け取ります。
安海さんのノートの書き込みを見ていなければ、先生は友人からのプレゼントを受け取るのを拒否したに違いありません。
ですが、先生は「創作者の証」であるアイデアノートを再び受け取ったのです!
その話のラストで、手島先生がそのノートに書き込んだ文章を見て、私は泣けてきました。

(手島先生がそのノートを受け取ると確信して渡した友人も良い仕事をしています。
あの高級ノートは購入までに時間がかかるものなので、前から用意していたに違いありません。
手島先生がそのノートを受け取る気持ちになるのを、先生のことを観察しながら、ずっと待ち構えていたのでしょう)

藤森さんの創作がお姉さんの心を動かしたのも良い話でした。
ですが 他人を感化するのは創作者だけではありません。誰かが創作したものを、そして毎日の生活を全力で楽しむ人物である赤福さんも石龍さんを変えていきます。

石龍さんは自立した人物に見えて、母親の顔色をうかがって友人や他人に冷たくしてしまう幼さのある人物であることが本巻で明らかになりました。
彼女はその自分の欠点を自覚しており、母親を超えたいと願っていますが、どうしたらいいか分からずに悩んでいます。

ですが赤福さんのある言葉が母親を脅かすのを見て、彼女の中で新しい道標ができたようです。
この話のラストでの石龍さんの赤福さんの呼び方の変化も実に素晴らしいので、是非とも本作を読んでご確認ください。

(フィクションでの行動に文句をつけるのは野暮なことですが、局所プロテクターをつけているとはいえ、石龍さんが水着でバイクに乗るのは自殺行為なので止めた方がいいと思いました。
転ぶと露出部の皮膚がズル剥けになりますので…
私の深読みに過ぎないかもしれませんが、彼女がそういう自暴自棄な行動を取るところも、彼女の幼稚さを表現していると感じました)

最後になりますが、作者さんにおかれましては、本作のマンガ大賞2023の1位受賞をお祝い申し上げます。
本巻を読んで、本作は大賞受賞にふさわしい素晴らしい作品であると改めて思いました

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