感想:新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙II:重大な問題のおざなりな解決。賢い人物がどこにもいないのが最大の欠点

この作品は重苦しい雰囲気の話が続きます。
特に2つの大きな問題が発生し、それをどう解決するかが本巻での山場です

1つは、コルのミューリへの裏切りをどのように汚名返上するか?
もう1つは、奴隷以外に売るもののない島をどのようにして救うか?

しかし、本巻で提示された解決方法は「えっ?そんなんでいいの?」と拍子抜けしてしまうようなものでした。
以下ネタバレになりますので、ご注意ください

作中で描かれた仲直りの仕方は、コルが溺れたところをミューリに助けてもらって、コルがお返しにミューリを救命するというもので、コルは特に汚名返上する特別なことを何もしていないと思いました。
裏切りを許してもらうためにコルが何かする前にミューリがコルを助けてしまっているので、「コルが何かをしたおかげて許してもらえた」という構図ではなく、「ミューリがコルの裏切りをウヤムヤにして許した」だけになってしまっています。

また、本巻の最大の見せ場である人外と対峙する場面においても、人外が決意を翻した理由がコルの説得ではなく、ミューリの魂を見たことだったので、結局コルはミューリを助けるために何もできておらず、コルの頼りなさと情けなさだけが目立つ展開になっていました

最後に提示された島を助ける手段も、知略を感じさせない力業です。
前作では賢狼のアイデアをロレンスが実現にこぎつけて、二人三脚で問題を解決していました。
ですが本巻には、特にアイデアを出さない子供とハッタリとその場しのぎのいい加減な解決をするコルしかいません。
本作には、賢い人物がどこにもいないのが最大の欠点だと思いました。
主人公であるコルは他人に振り回され、いちいち狼狽し、失敗ばかりして、問題解決は異形任せで、良い所を1つも見せないまま話が進んでいます。

一方で、舞台設定(おそらくカソリックとプロテスタントの対立をベースにしている)は面白く、人々の生活の描写は素晴らしかったです。

続巻において、主人公コンビが旅を通して成長し、もっと主人公らしい活躍をするようになれば、私の思う欠点も改善されるのではないかと期待しています