感想:路傍のフジイ(1):理想的なボッチ
本作は、一人でも充足できる精神的に自立した人物を描いた作品です。
主人公のフジイは、職場では上司から軽んじられ、いつも一人で行動しているような人物ですが、本人は様々な趣味を自由に楽しんでおり充実した生活をしています。
つまり、フジイは精神的に自立しており、承認欲求に振り回されない人物です。
他人からどう見られるかばかり気にすることに疲れたフジイの同僚や人間関係に疲れた人達が、フジイの生き方に惹かれていきます。
そして、それは私達読者も同じです。
私にとっても、フジイのような生き方には憧れるものがあります。
ちなみに、私は本書を読んで「シゾイドパーソナリティー」という性質を思い出しました。
岡田尊司氏の「パーソナリティ障害 」という本には、この性質は以下のように説明されています
他人と親密な関係を持ちたいとは思わない
ほとんどいつも孤立した行動をしている
他人と性体験を持つことに興味があまりない
親しい友人がいない
他人の称賛や批判に対して無関心
情緒的に冷たい、よそよそしい、
喜怒哀楽が分かりにくい
喜びを感じるような活動が少ししかない
内面性は意外に豊かで、自分の世界を究めている
他人と親しくなることを怖れている
他人に期待して、思い通りにいかないと激しく反発する
フジイに当てはまる点もあれば、違う点もありますが、ここで私は面白いことに気がつきました。
上記の中で長所もしくは欠点とは言えない性質を抜き出すと、全てフジイに当てはまっていると思えます
他人と親密な関係を持ちたいとは思わない
ほとんどいつも孤立した行動をしている
他人と性体験を持つことに興味があまりない
他人の称賛や批判に対して無関心
喜怒哀楽が分かりにくい
内面性は意外に豊かで、自分の世界を究めている
一方、明らかな欠点と思われる性質は持たず、むしろ逆の傾向があります
親しい友人がいない(同僚と親しくなる)
情緒的に冷たい、よそよそしい(意外と面倒見がよく、他人に対して親切)
喜びを感じるような活動が少ししかない(様々な活動に心からの喜びを感じている)
他人と親しくなることを怖れている(他人と成り行きで気軽に親しくなるだけの余裕がある)
他人に期待して、思い通りにいかないと激しく反発する(自分の勝手な願望や期待を他人に押し付けない)
フジイは一見は「シゾイドパーソナリティー」とは似ていても、実際はその気質の良い所取りをしています。
つまり、フジイは理想化されたボッチを体現した人物なのであります。
そして理想化されたボッチからは程遠い、私のような中途半端なボッチはフジイに憧れるわけです