アスフレ観戦記『23-24季へのオフシーズン』
アースフレンズ東京Z(アスフレ)の22-23シーズンは、14勝46敗でB2最下位。残念ながら降格が決まり、B3の舞台から再建を始めることになりました。今回は、このオフシーズンを振り返りながら、アスフレが描いた再建プランを探ってみます。
1.GM変更
再建にあたり最も重要な役職は、チームビルディングの構想・主導を行うゼネラルマネージャー(GM)です。アスフレでは、クラブの代表取締役社長である山野勝行が、その役職を長年担ってきました。
GMとしての山野代表は、過程よりも結果を重視する、いわゆる勝利至上主義者です。良いプロセスを踏んでいたとしても、すぐに良い結果を出せない体制は、容赦なく解体されてきました。
但し、それで成績が上向くことはなかったです。それどころか、闇雲に解体を繰り返すアスフレと、着実に歩みを進める他クラブとの差は開く一方。ここ数年は、最下位争いがすっかり定位置になっていました。
そこで、降格制度が復活した昨シーズンは、衛藤晃平がアスフレ史上初の専任GMに就任。山野代表によるチームビルディングを外部の目で見直し、根本的な考え方から変革を始めました。
しかし、その変革は上手くいきませんでした。外国籍選手の入国が遅れたり、山野代表が編成に口を出したり、外的要因による方針変更があまりにも多すぎたからです。
一向に揃わないロスター。一向に定まらないバスケスタイル。オンコートには何度も繰り返された方針変更が色濃く反映され、ざっくり見積もってシーズンの半分は、チームでまともにバスケができていなかったです。一部の選手からは、フロントに対して不満や批判の声が上がっていました。
その責任からか、衛藤GMはここで退任。新たなGMには、アシスタントGMとして働いていた廣瀬幹が就任。再建は、廣瀬GMの手腕に託されることになりました。
2.育成
廣瀬GMは、もともと育成に尽力されてきた方です。具体的に言うと、多くの日本人選手やコーチに、バスケの本場アメリカで学ぶ機会を提供してきました。
実は、以前からアスフレと関係があったのをご存知でしょうか。2015年、当時アシスタントコーチだった斎藤卓が、コーチングの勉強でアメリカのプロ・アマリーグに派遣されたのは、廣瀬GMのアテンドです。
ちなみに、アスフレのユースが今夏にアメリカでトレーニングキャンプを実施したのも、廣瀬GMによるアテンドです。どうやら育成には、廣瀬GMの独自性が出てきそうな気配があります。ユースの動向も含めて、チェックしていきましょう。
3.資金難の匂い
それでは、廣瀬GMによるチームビルディングを見ていきます。まずはトップチームの方針です。
ファンの中では、1年で昇格を狙って欲しいという意見だけでなく、一度じっくり土台づくりをして欲しいという意見も出ていました。廣瀬GMは、一体どのように考えているのでしょうか。
参考になるのは、アスフレ公式youtubeで公開された山野代表と廣瀬GMの対談です。
明確な方針は特に示されていませんが、「勝たなければならない」「1年で昇格」「勝ちが命題」といった印象的なワードが会話の端々に出てきます。トップチームは、育成ではなく、是が非でも昇格を狙っていくのだと推測していました。
しかし、蓋を開けてみると、ロスターの大半は大卒ルーキーか実績のない若手。B2基準では下位カテゴリーにあたるB3とはいえ、1年で昇格できるイメージは全く沸かなかったです。正直に言うと、B3を舐めているのかと思ったこともあります。
但し、1年で昇格を狙っている前情報を頭から外すと、見え方はだいぶ変わってきます。
日本人選手だけでなく、外国籍選手にもルーキー。さらに、選手だけでなく、スタッフにもルーキー。これだけ多くのルーキーを集めているのは、B3を舐めているというよりも、資金難の匂いがぶんぶんしてきます。
B2にいた頃のクラブ収入は、大きい順に一番がスポンサーの支援、二番がリーグ配分金です。B2という看板がなくなった以上、Bリーグからの配分金はもう貰えません。今後は、B3リーグから貰うことになります。
ただ、B3リーグには、Bリーグほどの収入源(放映権、スポンサー)がありません。今シーズンのリーグ配分金は、下手したら数千万円の減収です。人件費は、昨シーズンよりも減らさざるを得ないでしょう。
降格が掛かっていたこともあって、昨シーズンのロスターは大半が中堅やベテラン。彼らの年俸は、規約で上限が定められているルーキーよりも確実に高いです。継続契約が誰もいなく、その代わりに多くのルーキーと契約しているのは、やはり資金難が関係していると考えられます。
継続契約が誰もいないこと。特に生え抜きがいなくなったことには、思うところが多々あります。でも、降格による資金難は、避けるが極めて困難です。もともと大きな債務超過を抱えていた事情もありますし、今は身の丈に合った戦い方をしていくしかありません。
幸いなことに、育成に尽力されてきた廣瀬GMのおかけで、限られた人件費でも磨けば光るルーキーを発掘できています。これからは彼らをしっかり育成し、ヤングコア(Young Core)やフランチャイズプレーヤーと呼べるような選手を確立して欲しいです。
5.育成の価値
そういえば育成の話をすると、『育成は意味がない』という否定的な意見が出てきます。
まぁ、分からなくはないです。単年契約がベースになっている現状では、育成したクラブにノーリターンの移籍が発生してしまいます。育成にあまりうまみがないのは確かです。
ただ、現時点ではそうかもしれませんが、未来に向けてはどうでしょうか。26-27シーズンから始まる新リーグに向けては、育成補償金の制度が検討されているそうです。
これが導入されると、育成した選手が下位カテゴリー(新B2、新B3)から最上位カテゴリー(新B1)へ移籍した場合、移籍先のクラブから育成元クラブへお金が支払われます。
どの程度のお金が動くのかにも依りますが、ノーリターンの移籍はなくなります。育成の価値は、今よりもかなり高くなるでしょう。やる前から意味がないと切り捨てるのは、ちょっと勿体ないです。
というか、B3でさえ資金的に下位クラスなのが透けて見えている以上、他所から選手を獲得しての強化にはもう期待できません。年俸を抑えられる選手をどれだけ育成できるか。それが、今後のアスフレの生命線になる筈です。
6.地域活動
ちなみに、新リーグの構想が発表された当時、山野代表は”初年度”から新B1に所属することを目標に掲げていました。
しかし、アリーナ、入場者数、売り上げといった審査基準が、アスフレには厳しすぎたようです。このオフシーズン、目標を新B1から新B2に変更しています。
新B2の審査基準と現状を比較すると、アリーナは大田区総合体育館でOK。 売り上げは足りていないですが、山野代表なら何とかしてくれるでしょう(根拠は特になし)。
最大の問題は、入場者数です。審査基準が平均2400人であるのに対し、昨シーズンの平均は850人。初回審査は2025年4月なので、残り2シーズンで平均1150人増やす必要があります。成績同様に人気(集客)も右肩下がりの現状では、達成できる見込みがないです。
もちろん、山野代表は既に手を打っています。このオフシーズンは、新型コロナで自粛していた地域活動を本格的に再開。選手たちが、学校訪問で子供たちと交流したり、JR蒲田駅でビラ配りをしたり、地元住民にクラブの存在を積極的にアピールしてくれています。
ファンとしては、バスケに専念させてあげたい気持ちもありますが、客を呼べることもプロに求められる能力の一つです。選手たちには、自身の価値を高めるためにも、ぜひ頑張ってほしいです。
7.未来へ向けて
すみません、ちょっと補足させて下さい。ここまでは、育成を強調した話をしてきました。そのため、今シーズンのトップチームには、勝利を期待できないと思わせてしまったかもしれません。
でも、決してそんなことはないです。即戦力と言える選手も揃っています。特に、井手、パーカー、近藤は、相手に対してアドバンテージを確実に取れる存在です。
井手は、昨シーズンに在籍していた井手優希の弟。直線的にリムへ迫っていくことに優れたお兄ちゃんとは違って、相手を前後左右に揺さぶれるハンドラーです。
大学での活躍が認められ、B1のクラブに所属していたものの、なかなか活躍の場を貰えていませんでした。B3の舞台では、如何に自分がスペシャルな存在であるかを証明してくれるでしょう。
キャメロン・パーカーは、先にも話した外国籍の大卒ルーキーです。とはいえ、プレップスクールに通っていたり、新型コロナによって大学期間を延長していたりするので、年齢はちょっと高めです。
選手としては、1試合24アシストのNCAA記録を持っており、コートビジョンの広さと優れたパス能力を多くのメディアで褒められていました。彼にプレーメイクを委ねれば、確実に良いショットを創出してくれる筈です。
近藤は、今やB1の長崎ヴェルカに所属していた選手です。B3優勝で昇格、B2準優勝で昇格。このチームの日本人選手の中では、誰よりも多く勝ちの経験を積んでいます。
選手としてのタイプは、いわゆる3&Dです。外国籍ハンドラーにも対応できるディフェンス。高確率で綺麗に決められる3Pショット。攻守でたくさんの見せ場をつくってくれるでしょう。
井手、パーカー、近藤。この3人に、外国籍選手のニックとジェイコブ、帰化枠のサンバ、ルーキーの諸田を加えた7人が、今のところの主力です。
プレシーズンに行った2試合は、ほぼほぼ7人ローテで1勝1敗。それなりの結果と内容を示してくれてました。主力であれば、少なくとも勝敗を競う展開にはなる筈です。
但し、勝敗を競えるとはいえ、1年で昇格はまた別の話です。福井ブローウィンズを筆頭としたB3上位クラブの戦力は、B1クラブに勝てるほど充実しています。彼らを倒して昇格できるとは、今のところ考えられません。
ただ、少なくとも衛藤HCは、色々と足りていない現実をありのままに受け入れ、育成やカルチャー形成といった土台づくりに注力することを示唆しています。それがうまく進めば、今はだめでもそう遠くない未来には、B3上位クラブを倒せるかも知れません。現体制の評価は、もう少し待った方がいいでしょう。
8.原点回帰
以上がオフシーズンの振り返りです。皆さんの目には、再建へ向けた取り組みがどのように映りましたか。
中堅やベテランを中心とした『Win now』の編成を、若手を中心とした育成の編成に方針変更したこと。離れた客を呼び戻すため、地域活動に立ち返ったこと。オフシーズンの大きなトピックを並べてみると、再建のために新しい道を選んだというよりも、原点回帰とでも言いましょうか、アスフレは昔に戻る道を選んだように見えます。
私がアスフレを見始めたのは、だいたい5年前です。過去のアスフレを全て知っている訳ではありません。ただ、少なくとも私が見始めた当時は、将来有望な若手がロスターに沢山いたり、積極的な地域活動で1000人を軽く超える入場者数がいたり、未来への希望がたくさんありました。再建として過去に戻る道を選んだことに、異論はありません。
但し、あの頃も決して強いチームではなかったです。そのうえ、ワールドカップや大資本の参入といった追い風によって、リーグ及び他クラブは凄まじい速さで発展しています。原点回帰だけでは、彼らに追い付けません。
重要なのは、ここからです。現場が頑張ることはもちろん、周りが成果を待ってあげることも必要になるでしょう。特にここ数年は、山野代表の勝利至上主義が暴走し、アスフレは待つことができないクラブになっています。
2シーズン前、育成型クラブを目指すと宣言したものの、勝てないからという理由でシーズン途中に方針変更。昨シーズン、衛藤GMに編成の権限を全て渡すと宣言したものの、勝てないからという理由でシーズン途中に方針変更。このように短期的な結果だけで方針を変えてしまったら、実るものも実りません。
当然ながら、それは山野代表だけだなく、自分自身にもいえます。短期的な結果で一喜一憂することはあっても、廣瀬GMの人選を信じて、衛藤HCのチームビルディングを信じて、選手たちの努力を信じて、開幕前のワクワクを信じて、彼らの戦いをできるだけ近くで見届ける所存です。
では、現体制のご健勝とご活躍を願って。
Go Win Z ! ! !
この記事が参加している募集
よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは全てアスフレ観戦費用やグッズ購入費用に使います。