見出し画像

水戸芸術館『佐藤雅晴 尾行ー存在の不在/不在の存在』展感想

◇説明が付かない事象を、具象で説明し続けた人

私が高校生の時、美術の授業のアニメーション実習で作成したループのパラパラアニメは、You know me. ならぬ湯呑みを微妙にずらして重ねていった摩天楼を棒人間が見上げ、湯呑みから湯呑みへよじのぼり、ある程度登ったところで湯呑みの中の茶に浸かり、のぼせそうになったら茶からあがってまた摩天楼を見上げて登りはじめる、「agari(あがり)」という作品である(データ所在不明/不在の存在)。ドローイングの段階で気づいたのだが、湯呑みの縁によじのぼって茶に浸かるまでの動きと、茶からあがって湯飲みの縁から降りる動きが全く同じ静止画になり、トレースすれば原稿が完成してしまった。逆再生してみると、湯呑みを降っていきながら、途中で茶に浸かり、茶からあがる、という、タイトルを除いて破綻のない作品となった。(本展終盤の「うさくま⭐︎占い」の結果で、この主人公のピクトグラム的な棒人間と再開するとは思ってもいなかった。)

何が言いたかったかというと、これまでの人生で自分が気づいてしまった真実(タブーに触れた瞬間)が全部つながって、あの時のヤッホーが今返ってきたってこと。

1.霊感的予兆


前日、この展覧会最終日(2022年1月30日)の滑り込みに備えて早く寝ようと思い、居間の照明のスイッチを切ったものの、なぜかその時、電気が消えるスピードがいつもよりゆっくりで、部屋に溢れかえっているモノの色が失われていくのを見てしまった。
その後、この不穏な感じを払拭したかったのか、布団で目を閉じていると、太古の人類が寝床にしている洞穴に朝日が差し込むシーンが浮かんだ。
日が沈んでいくとまず万物が夕日色を湛えてから、その後だんだんとモノが無彩色になっていき、闇に包まれる。日が昇ると今度はまず万物が朝日色に内側から光りはじめ、それぞれの色になるのでは、と考え、モノの存在の危うさに気づいた。

すべては夜になると消えてるのかもしれない。

≪Hands≫2017
≪Hands≫2017


2.理論的連想(展覧会を見る前の水戸行きの特急の中でのメモ書き)


佐藤さんが制作に用いた、実写をなぞるロトスコープという技法名を聞いた時、デュシャンの≪アネミック・シネマ≫(1926年)の素材であるロトレリーフ(同心円の中心をずらしたような図形が描かれた円盤。レコードプレーヤーの上に置くと、円の中心が身をよじらせながら手前に飛び出てきたり奥に引っ込んでいったりするように見える。)を思い出した。
ロト(roto)=ローターやロータリー等の接頭辞で、回転を表す。ロトスコープという技法は、まわりまわって天体の回転や地球の自転、引力、月の光を感じさせる。

手でなぞって描くこと、については、プリニウス(23〜79年)が『博物誌』で書いた絵画の起源、コリントスの娘が戦争に行く恋人の影をなぞったことを想起させる。

3.作品について


個々の作品に関しては、感想ではなく会場で撮った少しの写真と、水戸芸術館公式YouTubeで紹介する。

≪東京尾行≫2015-2016
≪東京尾行≫2015-2016
≪東京尾行≫2015-2016

このような、実写の一部をアニメーションで再現した後期の作品群は、特にコンセプトが明確で、前回の記事「佐藤雅晴展に行く前に考えたこと ◇"再現"との遭遇が引き起こす『認知のドップラー効果』」で書いた、作品を観る前の印象そのものであった。さらに、場面の構成要素が「祈り」「いのち」「未来」を想起させるものであり、ガンで闘病しながら制作を続け2019年3月に他界するこのアーティストが、残された時間を永遠のループアニメに閉じ込めた痕跡を目の当たりにした。

彼はもういない。
でも、すべてはこの展覧会に行ったことから始まった。この"歴史の天使"(タルトが教えてくれた、ベンヤミンの概念。東京都写真美術館「メメント・モリと写真」展の章パネルで、時間軸を反対方向から見ている存在として紹介されていた)は、私がこの生を通り抜ける間、ずっと尾行させてくれるのだろう。(「うさくま⭐︎占い」の結果と、前稿「アピチャッポン『メモリア』感想」でのジェーン・シベリー歌詞引用部分等参照)

水戸芸術館展覧会ページ(記録映像あり)


おまけ


最後のほうのコーナーにあった、このガチャマシーンは、スタッフが作成したらしいのだが、どうやって補充してるんだろう・・・

画像:「DOMANI・明日展」サイトより引用

一緒に行った主人によると、この雨樋にびっしりカプセルが並んでたらしいが、一番上の雨樋はフェイクのようだ。一番上に補充したら、下の樋に落ちた時に溢れますもん。「(われわれは/運命は)ここからやって来た」という設定かもしれない。どこまでも深淵な展覧会であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?