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外資コンサルがいつも頭の片隅に置いているたったひとつのもの

「外資系コンサルタント」のイメージといえば...

・ニュース番組のコメンテーターとして、トピックの背景を端的に分かりやすく解説する

・数百人規模の業界セミナーで講壇に立ち、複雑な業界動向を時間内でシンプルかつ華々しくプレゼンをする

・上場企業の役員クラスが出席する会議を仕切り、的確にファシリテートして結論に導く

・チームメンバーにタスクを切りさばき、そのモチベーションを維持させながらプロジェクトをリードする

こんなところでしょうか。

上記のイメージに近いスキルセットを持つのは、パートナー/ディレクター(執行役員)〜マネジャー(管理職)レベルが主ですが、シニアコンサルタント(現場責任者)〜アナリスト(新人)レベルのいわゆる「スタッフ層」の職員も、そのイメージを追いかけて日々研鑽を積んでいます。

我々コンサルタントはなぜ、共通して上記のような「コンサル的な立ち振る舞い」ができるのでしょうか。実はそこには、知っているだけでコンサル未経験者であっても誰もが真似できる「コツ」があります。

常に「あるひとつのもの」を頭の片隅に思い浮かべる

これが「コツ」です。

新人コンサルタントは常に「それ」を頭に思い浮かべるよう叩き込まれ、そのため、ベテランコンサルタントになる頃には、「それ」を思い浮かべなくても無意識的にできるようになります。そうすると、聴衆の前で分かりやすいプレゼンをし、様々なテーマが飛び交うミーティングを的確に整理して結論まで導き、チームメンバーに作業を割り振ってプロジェクトを成功に導くことができるようになります。

では一体、何を頭に思い浮かべながら仕事をすればよいのでしょうか。答えはこれです。

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ピラミッドです。

ピラミッドを意識した思考法、すなわち、「ピラミッドストラクチャー」は、以前下記記事でご紹介したバーバラ・ミント著「考える技術・書く技術」や高田貴久著「ロジカル・プレゼンテーション」など、コンサルティング業界の古典に詳述されています。それほどまでに、コンサルタントにとっては基本中の基本であり、誰もが立ち返るべき原則です。

本記事はピラミッドストラクチャー自体を説明するのが目的ではないので詳述は省きます。ただし、便宜上簡単にご説明すると、ポイントは下記2点です。

◆ピラミッドの頂点が「結論」であり、その下層には結論を導くための「論点」があり、さらにその「論点」を言うための「サブ論点」があり...と、下層に行くにつれて論点の数が増えていく。(=論点が具体化する)
◆ピラミッドの縦関係において、上層には「So What?」で登り、下層には「Why So?」で降りる。横関係においては「MECE(漏れなくダブりなく)」でなくてはならない。

※コンサルティング業界特有のワードがいくつか出てきているので、さらに詳しく知りたい方はぜひ一度本を読んでみてください。

このピラミッドを頭に思い浮かべることができているコンサルタントと、まだ訓練が足りずピラミッドストラクチャーを意識できていない新人コンサルタントとでは、ひとりのコンサルタントとしての立ち振る舞いに大きな差が出ます。ではどのような違いがあるのでしょうか。具体的にイメージを持っていただけるよう、ケーススタディのような形でご説明します。

ケーススタディの前提


・外資系コンサルティングファーム「TDコンサルティング」のマネジャーは、好意にしている家電メーカー「Tody」の経営戦略室長より下記のプロジェクト依頼を受けた。

「e-sportsで新しくアジア市場に参入したいが、どの国が良いか分からない。一緒に考えてくれないか」

・そこでTDコンサルティングのマネジャーは依頼を受諾して社内でプロジェクトチームを組成。シニアコンサルタントとアナリストの2人を加えた3人で、2ヶ月間のプロジェクトをデリバリーすることとなった。

・Todyの経営戦略室長より依頼を受けた一向はその1週間後、プロジェクトのキックオフミーティングに臨んでいた。キックオフのゴールは、現状仮説として考えている結論の初期共有とプロジェクトの進め方の合意。

さて、A:ピラミッドストラクチャーを会得しているマネジャー、B:まだ研鑽途中のアナリストのそれぞれが、クライアントとのコミュニケーションを担当する例に分けて見ていきます。シーンとしては、持参した資料の説明を終え、クライアントとの質疑応答に臨む場面です。

ケーススタディ


A:ピラミッドが意識できているマネジャーの例

経営戦略室長「今時点で、どこの国が有望だと思うか?」

マネジャー「まだ仮説ベースですが、台湾かタイが良いと考えています。理由は市場、自社、競合の観点から3点です。
まず市場が...
次に自社として...
最後に競合企業を見ても...」

経営戦略室長「なるほど。台湾かタイね。確かに人口も多いし、親日の人たちが多いと聞くね。でも、特に台湾なんてうちは全く手を出したことがないんだよなあ。台湾はイマイチな気がするけどどうだろう?」

マネジャー「市場としては魅力的でも、自社のアセットを考えた時に、台湾は懸念ということと理解しました。市場は今後2週間で調査・深堀をしていきますが、概ね現状の仮説とズレない想定です。次回ミーティングでご報告させてください。

一方で、御社と市場の親和性については、中国支店を拠点に展開するのがよいと現状では考えていますが、御社から頂いた各国拠点の資料をまだ分析し切れていないので、次次回のミーティングでご報告させてください」

経営戦略室長「承知した。その進め方で問題ない」

続いて、ピラミッドが頭の片隅にない新人アナリストの例です。

B:ピラミッドを意識できていない新人アナリストに陥りがちな例

経営戦略室長「今時点で、どこの国が有望だと思うか?」

アナリスト「有望な市場の観点として、現状では、国としての経済規模、インターネットの普及度合いの点から調査・分析しています。その中でも、特に国としての人口やその成長率の観点、ならびに、インターネットやスマートフォンの普及率を見ても...」

経営戦略室長「(まだ説明が続くのか。結局どの国がいいのだろうか... あと、市場分析の観点はそれだけでいいのか?)」

アナリスト「あ、失礼いたしました。分析の観点として、国としての経済規模とインターネット普及度に加えて、インターネットゲームの市場規模・成長率もあります... やはりゲームが普及していない国ではe-sportsは根付かないし...」

経営戦略室長「(説明が分かりにくいし結局何が言いたいのか... この人で大丈夫かな...)。先ほど台湾かタイがいいとおっしゃっていたけど、例えば、台湾なんてうちは全く手を出したことがないんだよなあ。台湾はイマイチな気がするけどどうだろう?」

アナリスト「えーと... 台湾は人口も3000万人程度と比較的多いですし、インターネットも9割以上の人口に普及しているので、魅力的な市場かと我々は考えています

経営戦略室長「(私は自社の話をしているのだが...)」

ケーススタディのため、トピックは限りなくシンプルな例にしていますし、マネジャーとアナリストの発言も意図的に落差の大きい内容にしています。それでも、このような種のコミュニケーションスキルの違いやクライアントと一向に噛み合わないやりとりは、えてして見受けられます。

ピラミッドを意識できているか否か。たったそれだけで、これほどまでにスキルの見え方やその人自身への信頼性について大きな差が生まれてしまうのです。

ケーススタディの解説

今回のケーススタディのポイントは、以下の3点です。ピラミッドを意識することで、

①結論ファーストの端的で分かりやすいプレゼンが可能
②論点を意識したミーティングファシリテーションが可能
③プロジェクトの全体像を踏まえたタスク設計が可能

となります。つまり、冒頭でご紹介したコンサルタントのイメージに完全に合致する立ち振る舞いが可能になります。

それぞれ詳しく解説していきます。

①結論ファーストの端的で分かりやすいプレゼンが可能

先のケーススタディで、マネジャーは初めに、結論とその根拠として論点が3つあることを述べた上で、各論点の詳細説明に入りました。つまり、ピラミッドの頂点から順番に、かつ、ピラミッドの構造自体(ここでは結論の下層の論点は3つあること)を説明することで、聞き手にとって頭に入りやすいプレゼンをしていました。

ピラミッドを意識できているプレゼンテーション

一方で、アナリストは、(おそらく自分が担当したであろう)市場分析の話からスタートしてしまいました。ピラミッドの下層からボトムアップ的に説明をすると、頂点の結論までたどり着くのに時間がかかり、結局何が言いたいのか分からない説明になります。また、ピラミッドの構造自体の説明がないと、聞き手は「他に抜け漏れしている論点がないか」ばかりが気になり出し、説明が頭に入ってこなくなります。結果として「分かりにくい人」という残念な烙印を押されてしまうのです。

ピラミッドを意識できていないプレゼンテーション

②論点を意識したミーティングファシリテーションが可能

経営戦略室長の発言で「台湾かタイがいいとおっしゃっていたけど、例えば、台湾なんてうちは全く手を出したことがないんだよなあ。台湾はイマイチな気がするけどどうだろう?」というものがありました。これは議論のテーマが「市場」から「自社」に移り変わったことを意味しています。

マネジャーは話題の転換を抑えた発言ができている一方で、アナリストは話題の転換が理解できず「市場」の話を続けたがために、クライアントのニーズを満たすコミュニケーションをするに至りませんでした。

ピラミッドを意識できているファシリテーション

ピラミッドを意識できていないファシリテーション

ピラミッドは「議論のコンパス」として活用することができます。ピラミッドの構造においてどの部分が議論の対象になっているのかを地図のように思い浮かべれば、「クライアントはついさっきまで市場の話(ピラミッドの左側)をしていたけれど、いま懸念を持っているのは自社の話(ピラミッドの中央)なんだな」というような的確な理解ができます。

これは好き勝手な発言を繰り返す非論理的自由奔放型の人が会議で暴れだすのを防ぐのにも役立ちます。ピラミッドストラクチャーを紙に書いて見せてしまい、「◯◯さんがいまおっしゃったのはこのピラミッドの中央の話ですが、我々が今日のミーティングで合意したいのはピラミッドの左側の話です。ピラミッド中央の観点も後々大事なので次回話すことを提案しますが、今日は左側の話に時間を割かせてください」というような、議論の寄り道を防ぎ、最短で結論にたどり着くための秘密兵器にもなります。

③ プロジェクトの全体像を踏まえたタスク設計が可能

マネジャーはクライアントとのコミュニケーションにおいて「市場は次回ミーティング」にて、「自社は次次回ミーティング」にて、それぞれ報告することを明言しました。これはつまり、本キックオフ以降のプロジェクトの動き方として、当該週は市場調査・分析を続け、次週からはクライアントの自社分析へとタスクが切り替わることを意味します。

ピラミッドは「議論のコンパス」になることは前述の通りですが、同時に「プロジェクトデリバリーのコンパス」にもなります。

ピラミッドが意識できていると、最終的に言いたい結論を導くためには、全部でいくつの論点に答えを出さないといけないのか、プロジェクトの期限に鑑み各論点をクライアントとどのタイミングで合意しなければならないのか、そのためにはプロジェクトチームは何をいつまでに調査・分析できていればいいのか、など、タスクの全体設計が可能となります。そうすると、各回のクライアントミーティングに向けて、シニアコンサルタントには報告資料の全体構成と市場調査部分の取りまとめ・示唆出しを依頼、アナリストには台湾とタイの市場調査・分析を依頼、別途作業工数が足りなそうなので社内のリサーチチームにインドネシアとベトナムの調査を依頼、などのようなタスクの割り振りができます。当然、全体のタスクが見えていない人がチームメンバーに作業を割り振ることなどできません。チームメンバーにタスクを割り与え、プロジェクトをリードするのにもピラミッドは絶大な効果を発揮します。

以上、ケーススタディから体感していただいた通り、外資系コンサルタントのように分かりやすいプレゼンをし、クライアントミーティングを的確にファシリテートして結論に導き、チームメンバーをリードしてプロジェクトを成功させるには、頭の片隅にピラミッドを置いておくことが欠かせません。

コンサルティング業界では、このピラミッド型の論点構造は「イシューツリー」や「イシューアナリシス」などと呼ばれますが、専門用語を覚えずとも「常にピラミッドを意識したコミュニケーションを取る」ことは、誰もが明日から取り入れられる簡単なコツです。ぜひ、いつ何時もピラミッドを頭に思い浮かべながら会社の上司や同僚、家族や恋人とコミュニケーションを取っていただければ幸いです。(家族や恋人との会話に多用すると嫌われるかも...?)

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