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中論ー25

第二十五章 ニルヴァーナの考察

1.反対者曰く.もしも此の一切のものが空であるならば.何ものかが生起する事もなく.また消滅する事もない筈である…何ものを断ずるが故に.また何ものを滅するが故に.ニルヴァーナ(涅槃)が得られると考えるのか…
2.中観派が答えて曰く.もしも此の一切のものが不空であるならば.何ものかが生起する事もないし.また消滅する事もない筈である…何ものかを断ずるが故に.また何ものを滅するが故に.ニルヴァーナ(涅槃)が得られると考えるのか…
3.捨てられる事なく.新たに得る事もなく.不断.不常.不滅.不生である…これがニルヴァーナ(涅槃)であると説かれる…ニルヴァーナを説明する為には.否定的言辞を以ってするよりも他に仕方がない…
4.先ず.ニルヴァーナは有(存在するもの)ではない…もしそうではなくてニルヴァーナが有であるならば.ニルヴァーナは老いて死するという特質を持っているという事になってしまうであろう…何となれば.老いて死するという特質を離れては有(存在するもの)は存在しないからである…
5.また.もしもニルヴァーナが有(存在するもの)であるならば.ニルヴァーナは造られたもの(有為)となるであろう…何となれば無為である有は決して何処にも存在しないからである…
6.また.もしもニルヴァーナが有(存在するもの)であるならば.ニルヴァーナはどうして他のものに依らずに存するであろうか…然らばニルヴァーナは他のものに拠って存する事となる…何となれば如何なる有も他のものに依らないでは存在しないからである…
7.もしもニルヴァーナが有(存在するもの)でないならば.どうして非有(無)がニルヴァーナであろうか…有が存在しない処には.非有(無)は存在しない…
8.また.もしもニルヴァーナが無であるならば.どうしてそのニルヴァーナは他のものに依らないで在り得ようか…何となれば他のものに依らないで存在する無は存在しないからである…
9.もしも五蘊(個人存在を構成する五種の要素)を取って.或いは因縁に縁って生死往来する状態が.縁らず取らざる時は.これがニルヴァーナであると説かれる…
10.師(釈迦尊)は生存と非生存とを捨て去る事を説かれた…それ故に[ニルヴァーナは有に非ず.無に非ず]と言うのが正しい…
11.もしもニルヴァーナが有と無との両者(有にして且つ無)であるならば.それでは解脱は無であり.また有であると言うことになるであろう…しかしそれは正しくない…
12.もしもニルヴァーナが有と無との両者(有にして且つ無)であるならば.それではニルヴァーナは他のものに依存しないで成立しているのではない事になってしまうであろう…何となれば有と無との両者は他のものに依存して成立しているからである…
13.ニルヴァーナがどうして有と無との両者で在り得ようか…ニルヴァーナは造られたのではないもの(無為)であるが.有と無とは造られたもの(有為)であるからである…
14.ニルヴァーナの内に.どうして有と無との両者が在り得ようか…この両者は同一の処には存在し得ない…それは光明と暗黒とが同一の処に存在し得ないようなものである…
15.ニルヴァーナは無でもなく.有でもないと言う想定は.無と有とが成立してこそ成立し得るのである…
16.ニルヴァーナは無でもなく.有でもないと言う事が成立するならば.無でもなく.有でもないと言う事が何によって表示されるのか…17.尊師(仏陀)は死滅した後でも存在していると解する事は出来ない…尊師は死後に存在しないとも.存在し且つ存在しないとも.また両者でもない(存在し且つ存在しないのでもない)と解する事も出来ない…
18.①尊師は今.現に存在しつつあると解する事も出来ない②尊師は今.現に存在しているのではないとか③尊師は今.現に存在しつつあり且つ存在していると言う両者であるとか④またその両者でもない.解する事も出来ない…
19.輪廻はニルヴァーナに対して如何なる区別もなく.ニルヴァーナは輪廻に対して如何なる区別もない…
20.ニルヴァーナの究極なるものは.則ち輪廻の究極である…両者の間には最も微細なる如何なる区別もない…
21.如来(仏陀)は死後に存在するかどうか.世界は有限なものであるかどうかなど.世界は世界は常恒なるものであるかどうか.などと言う諸々の見解は.ニルヴァーナと.死後の世界と.生まれる前の未来の世界とに依存して述べられている…
22.一切のものは空なのであるから.何ものが無限なのであろうか.何ものが有限なのであろうか.何ものが無限でもなく有限でもないのであろうか…
23.何が同一なのであるか.また何ものが別異なのであろうか.何が常恒であるのか.何ものが無常なのであるか.また何ものが無常にして而も常恒なのであるか.また何がその両者(無常と常恒)ではないのか…
24.ニルヴァーナとは.一切の認め知る事(有所得)が滅し.戯言が滅して.めでたい境地である.如何なる教えも.何処に於いてでも.誰の為にも.仏陀は説かなかったのである…

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