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たてよこのあれこれ #03

夜の雰囲気が好きだ。しーんと静けさの漂うまち、ぽつぽつと明かりがついている住居、車通りの少ない道を駆け抜けていく代行の車。お店の前の道路は日中は車の往来が激しいため、夜にしかこの感覚は味わえない。現在の営業時間は13時から21時。日が落ちた16時、17時以降の時間帯のお店が好きだ。

とある日の夜、閉店ギリギリの時間に一人のお客さんがやってきた。話を聞くと、飲み会終わりの帰り道らしい。「お酒はあまり得意ではないが会社の送別会ということで、行ってきた。みんなはそのまま2次会に行ったが自分は抜けてきた」と話してくれた。それから好きな本の話やその他諸々の雑談を交わした。僕はどちらかというと、わかりやすく起承転結が構成されている物語が好きではないのだけれど、彼はそういったお話が好きでよく読むそうだ。そんな価値観の違いなども否定することなく話し込める良い夜の時間だった。たまにお店の前を通る車の音に声をかき消されながらも、40分くらいは話していたのだろうか。彼は「じゃあ帰ります」とカバンを持って入口に向かう。閉店ギリギリの来店で、おぉこのタイミングか…と思ったりもしたが、結果的にはすごく豊かで、心地よい時間を過ごすことができた。帰り際にドアを開けて、「最高の2次会でした、ありがとうございました」と言って帰っていった。

別の日、日中に1人で来たお客さん。ぐるっと本棚を眺めた後に、3冊の本を手に取ってどれを買おうか悩んでいた。パラパラとページをめくり、時折その手を止めてじっくり読み、またパラパラとめくっていく。数分後、ようやく決心がついたようで、3冊のうち2冊を会計に持ってきた。僕も本屋さんが好きで、棚を眺めているといつの間にか買いたい本がどんどん出てきて、迷い続けるということが多い。いつもは自分が当事者なのでどの本を買おうか悩んでいる人を本屋さんという立場から見るのは新鮮だった。数分後、ガラガラと入口の扉が開いたので目をやると、そこには少し前にどれを買おうか迷っていたお客さんがいた。「やっぱりあの本も買います。」と言って、先ほど会計には持ってこなかった残りの1冊を指差した。少し照れくさそうに笑う姿がやけに頭に残っている。

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