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第19回「書類書類って、それでどうやって人を救えって言うんですか」消防署員

<まえがき>連絡する機会はそれほど多くないけれど、緊急時に電話をかければ365日・24時間、迅速に対応してくれる心強い存在。それが私にとっての消防士・救急隊員さんのイメージです。そんな救急隊員・消防士さんを含む消防署員さんは、今回のコロナ下で何を体験し、何を感じたのか。現場で活躍する生の声を伺いました。

●消防署員にとっても「対岸の火事」だったコロナ
●感染した可能性のある人からの119番通報。怖くないですか?
●第2波、第3波に向けた備え

―どんなお仕事をされていますか。
地方自治体の消防本部で働いています。以前は、火災や救急にも対応していましたが、今年度の人事異動で総務を担当する事務職になりました。災害などの緊急事態の際には出動要請がかかるため今まで通り訓練は欠かせませんが、基本的には署内での事務方勤務です。備品の購入や職員への支払い、外部の業者さん応対をメインに、署内から消防隊員をサポートする役割を担っています。

―最初にコロナを意識したのはどのタイミングでしたか。
私の所属する地域は首都圏近郊とはいえ、比較的のんびりとした地域です。2月・3月の段階では国や県からの特別な指示・情報もほぼありませんでした。最初は「もしかしたら、そのうち患者さんの搬送があるかもしれないねー」ぐらいで、まさに対岸の火事を眺めるような具合でした。「なんだか感染力の強いウイルスみたいだけれど、インフルエンザと同じような対応でいいんだよね?」みたいな…。今考えると本当にのんきな話なのですが、他地域の消防署も大体同じような雰囲気だったのではないでしょうか。それが一変したのが、横浜のクルーズ船でクラスター感染が発生した時です。日に日に感染者数が増え、テレビのニュースでは消防車・救急車がフル稼働で搬送を行っている場面が連日放送されました。「どうやら、これはインフルエンザとは違う。もしかするととんでもないことになるかもしれないぞ」…ここでようやく消防署内に焦りが生まれました。

―怖くはなかったですか。どのようにして対策していったのですか。
怖かったのは、マニュアルもない、経験もない、そんな状況下でも、患者さんが出たら対応しなければならなかったことです。クルーズ船以降、感染者の数は倍々に増えていきました。しかし、どんな症状があって、どんな対処が必要なのか、情報は一向に入ってきません。現場の生命線とされる周囲への感染予防対策が「結核」と最上級レベルの対応で良いのか、それすらも分からない状態なのです。保健所も右往左往するばかりで、国・県からの具体的な指示もなかなか出されません(ちなみにようやく国からの指示が出たのは、緊急事態宣言直前の頃でした)。「○○ではこう対応したらしい」など情報を収集しながら手探りで対策を練っていた時、ついに私たちの署内にも高熱が続いているという方からの救急要請が…。患者さんはその数日前にクラスター感染が発表されていた関西のライブハウスにいた方でした。後に、PCR検査の結果が陰性だったことが分かったのですが、搬送に当たった救急隊員は全員検査して隔離。この時の緊張感は、今も忘れることができません。その後はとにかく慌ただしい毎日でした。陽性の患者さんを搬送したら、隊員の隔離が必須になるため、その都度、分隊が1つ動けなくなってしまいます。その場合、私達事務方からのサポートが入ることになりますが、事務も事務で「密」を避け、分散して業務を行っているため、人手が足りません。追い打ちをかけるように「さっき、救急車が来てたけどコロナか?」「熱があるが病院に受け入れてもらえるだろうか」などの問い合わせもひっきりなしにかかってきます。緊急事態宣言が解除され、今は少しずつ落ち着いてきましたが、これから来ると言われている“第二波”に備え、マスク・防護服などの備品管理もすでに始まっています。

―これを機に、どんな風に変わっていくと思いますか。
あくまでも個人的な意見ですが、今回の騒動を通して、消防も救急も今までのようなお役所的なマニュアル対応ではいけないと痛感しました。新型コロナウィルスという今までに例を見ない緊急事態下では、国や県など自治体からの指示を待って動くのでは遅すぎることが多いのです。まだ鎮静したとは言えない今だからこそ、医療機関や保健所との連携の強化や、自治体の壁をこえて消防署同士がスムーズに情報を共有できる環境を、すぐにでも整えることが必要だと考えています。また、私たちの仕事は皆さんの税金で賄われていることもあり、一般企業のように自由に備品を購入することもできません。たとえば、外部業者の出入りが多い署内に「透明シートを設置したい」と思っても、いくつもの書類を書いて、それを稟議に通し、判をついてもらわなければ、購入することができません。もちろん通常時であれば、それでまったく問題はないのですが…。書類で人は救えません。現場の判断力を活かし、1人でも多くの方に安心していただける救急対応ができる組織にならなければいけない。心からそう感じています。(Sさん/首都圏近郊エリアの消防署員)

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コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、「あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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