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<まえがき>自粛期間中、外食ができないため、家で料理する機会も多くなりました。スーパーなどの小売店で見かけた野菜などの食材。エリアや商品により、多少の在庫切れはあったものの、概ね途切れることなく供給されていましたよね。今回は、それを影で支えていた地方の農業団体職員にコロナ前後でどのような変化があったのか話しをお聞きしました。

飲食店の休業により、仕入れ先を失った玉ねぎの相場が半額~3分の1へ。

―どんなお仕事をされていますか。
地方の農業団体に所属し、生産者のサポートに取り組んでいます。
農業をするためには様々な要素が必要です。たとえば、収穫すればそれで終わりではなく、その後、サイズや形に応じて選果(せんか)しなければなりません。そのための専用の機材・資材も必要です。その後も「どこの市場に卸すか」「そこまでどうやって運ぶか」「いくらで売るか」など対応しなければいけないことがたくさんあります。生産者一人ひとりがそれに対処するのは困難です。そのために、とりまとめをする農協などが地域ごとに存在するのですが、私達が取り組んでいるのは、その農協を通じた生産者へのサポートです。収穫期に段ボールや資材を用意したり、選果のために何億円もする設備の導入を手伝ったり、新たな作物を作る際には販路の相談に乗ったり、相談内容は様々。イメージとしては「便利屋」に近いと思います。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
5割出勤。パソコンがないため、家で携帯とにらめっこ(笑)。
私の住むエリアでは、早期にクラスターが発生したため、早い段階から、感染対策が敷かれました。午前と午後で出社を分けたり、在宅勤務をしたり。残念ながらパソコンの台数に限りがあったため、私は支給してもらえず、家で携帯電話とにらめっこしている毎日(笑)。また4~5月は毎年のことですが、入札案件の仕切りをしなければなりません。一時は延期することも考えましたが、入札は国の補助金を利用する年度単位の事業のため、必ず年度内に工事を完了させなければならないという縛りがあります。冬になると雪が降って工事に遅れが出ることを考えると、ここで入札を遅らせるわけにはいきません。入札者には車で待機してもらい、結果発表は携帯電話で行うなど、できるだけ人の接触を断って強行しました。初めての試みで不安も多かったですが、何とか上手くいってほっと安心しています。

玉ねぎの相場が半額~3分の1へ。生産者も大打撃。
コロナの影響で、飲食店が苦境に立たされているのはよく知られていることですが、その余波は農業にも及んでいます。私が担当するエリアは玉ねぎが名産品なのですが、コロナの影響で相場が半分から3分の1に下がっています。自粛により飲食店が休業して、消費が落ち込んだせいです。一般家庭での消費量が上がっているとはいえ、全体では限られた量のため、かなり厳しいものがあります。たとえコロナが終息しても、「距離をとる」という新しい生活様式のもと、どれだけ飲食店の需要が戻ってくるか…。8月の収穫期までに今からみんな気を揉んでいる状況です。同じようなことは給食に使われていた牛乳、ポテトサラダに使われている馬鈴しょにも当てはまります。その一方、コロナの影響で海外産の農産物が入ってこなくなったため、新しいニーズも生まれてきています。たとえば、中国産の「ムキタマ(皮をむいた玉ねぎ)」という商品があります。生産工場にとっては効率がいいため人気の商品でしたが、コロナを契機に入ってこなくなりました。

―これから業界(世界)は、どう変わっていくと思いますか。
無人トラックなど、IT化・ロボット化が更に進行。
どこの業界もそうですが、コロナを機に、一層効率化が進むと思います。農業はもともと後継者不足、高齢化などに悩まされてきました。若い人に参入してもらえるのが一番ですが、そうも言ってられません。改革は待ったなしの状況です。あまり知られていないことですが、農業は作物を収穫するだけでなく、その周辺にも多くの労力を必要とします。たとえば、収穫したものを工場まで運ぶのも、その一つです。畑から工場へ運ぶだけと思われるかもしれませんが、農業はとにかくスケールが大きいので大変なのです。残念なことに、その物流業界も、農業と同じく人材不足に悩まされています。国の政策をただ待っているわけにはいかないということで、私達の農業団体でも最近、無人トラックを試験的に走らせるための支援を始めました。心がけているのはIT化をゴールにしないことです。あくまでもスタートと位置づけ、その後どうなったか、しっかり評価しながら次につなげていきたいです。

国も、本腰を入れて取り組まないといけないと思います。
先に挙げた通り、農業と物流は切っても切り離せない関係です。私がいるエリアでは、最近、採算が取れないのを理由にJRの廃線が検討されています。しかし、電車は農産物を輸送するのには欠かせません。廃線になれば、すべての輸送をトラックに頼らなければならなくなります。しかし、そのトラックもドライバーが不足しているわけです。これは今に始まった問題ではありません。日本は目の前のお客様のことは大切にするけれど、見えない部分についてはあまり深く考えてこなかったような気がします。たとえば、スーパーの売り場には、キレイな形の揃った野菜が並んでいます。そうした方が訪れたお客様が喜ぶからです。でも、これからの時代、本当にそれは必要でしょうか。そうするためにはコストがかかります。色・形・サイズなどを均質化するためだけに何十億円という機材が導入され、多くの手間と時間が費やされています。そのお金や時間があったら、失われかけている流通を確保すべきではないでしょうか。海外で言うと、ドイツなどはその辺をしっかり考えています。たとえば、流通に欠かせないパレットやプラスチックコンテナー。日本は現場によってバラバラですが、ドイツではすべて同じ規格に統一されています。日本もコロナをきっかけに「流通をどうするのか」「農業をどうするのか」本腰入れて取り組んでほしいですね。

マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
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可能な限り取材いたします(オンライン・1時間程度)。
※対象者の氏名等、個人情報は基本匿名にします。
【連絡先】
masukunomukougawa-2020@yahoo.co.jp
コロナ前後で大きく世界は変わると思います。1年後、5年後、10年後、あの時、何があったのか」をしっかり振り返ることができるように書き残していきたいと考えています。フォローしてもらえるとすごく嬉しいです。twitterもやっています。

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