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<まえがき>コロナ前後で世界はどう変わるのか。みんなが気にかけていることだと思います。でも、残念ながら、どこのメディアを見ても「どこそこの大手が…」「〇〇市場が…」など高所から見た大局的な話ばかりです。一口にコロナの影響と言っても、業種・規模・エリアなど、個々の現場によって変わってきます。中には、大っぴらには言いずらいこともあるはず。そこで現場の方一人ひとりにインタビューして「コロナ下で何が起こっているのか」聞いてみることにしました。感染症対策だけでなく、今後の経済を考える上で一助になればと思います。(舘澤史岳)

―どんなお仕事をされていますか。
ネット事案を専門に取り扱う「サイバー弁護士」です。
都内に個人事務所を構えて、主にインターネット上の誹謗中傷など、ネット事案専門に取り組んでいます。たとえば、「クチコミサイトへの誹謗中傷で店の売上に影響が出ている」「掲示板でプライバシーを暴露されたので損害賠償したい」など。インターネットにまつわる事件は今でこそ社会的な問題として広く認知されるようになりましたが、私は今ほど注目されなかった頃から専門的に取り組んできたこともあり、この領域ではパイオニアと位置付けられています。

―コロナ以前と比べて、どんな変化がありましたか。
依頼は減少していますが、攻撃的な書き込みが増え、懸念も大きいです。
今は命の危険もさることながら、収入・仕事・学校など様々な面で「この先どうなるか分からない…」という不安が社会全体に溢れています。自粛期間中、スマホに触れる時間が多くなったこともあり、感染者を特定するようなデマ情報が流れたり、営業している店舗に対して過激な営業自粛を求める書き込みがされたり、SNSでは攻撃的な書き込みが増えているような気がします。そう考えると、依頼や相談がもっと増えても良さそうですが、むしろそれとは逆に5月に入ってからは減少傾向にあります。他の同業者の間でも同じ傾向です。これはコロナ下で大きな影響を受けた経済的事情が絡んでいると思われます。多少問題があったとしても「弁護士に依頼してお金を払うくらいなら、我慢しよう」という意識が働いているのかもしれません。

裁判はすべて延期。打ち合わせも電話・チャットのみ。
以前は、裁判の弁論や弁論準備手続のため、少なくとも週に2度ほど裁判所に通っていましたが、緊急事態宣言が出てからは一切足を運んでいません。指定されていた期日はすべて取り消され、延期になりました。今、対処しなければ証拠が失われてしまう、もしくは被害が大きくなってしまう、そんな場合に行われるDV保護命令や仮処分手続など緊急性のある事案を除いて、裁判所機能はストップしている状況です。私も今はほとんど外に出ない生活を送っています。と言っても、以前から打ち合わせは電子メールをメインに利用していたので、裁判所に行かなくなったという点を除けば、それほど変わりはないかもしれません。コロナが社会にどのような影響をもたらすのかは、ある程度、時間が経ってみないと分からない部分もありませんが、今後も柔軟に取り組んでいきたいと思います。

―これから業界は、どう変わっていくと思いますか。
裁判所の業務効率化につながることを期待しています。
日本の法曹界は形式にこだわる、とても保守的な場所です。たとえば、裁判所宛の書類は、原則として、インターネットで提出することができません。未だにFAXを使っています。そのため、たとえば、裁判所からの連絡書面をFAXで受信し、それをPDF化して、パソコンで署名・押印等をし、再度FAXで返信するという無駄なことをしています。また、訴状など一部の重要書類はFAXすら許されず、裁判所の窓口に直接持っていくか、さもなければ郵送しなければなりません。裁判に関しても同様で、民事事件については、書面で主張・説明が尽くされているにもかかわらず、それを手続に乗せるために、わざわざ裁判所に出向くことを強いられます。当日の発言は「(書面に記載した通りに)陳述します」だけで、後は次回の日程を決めて終わり。5分で終わる裁判も珍しくありません。でも、そのためだけに裁判官、双方の弁護士が出廷しなければならないのが現実です。今後、仮にコロナが終息したとして、元通りのやり方に戻すべきなのか。私は一度しっかり考えるべきだと思います。

一部では先行して「新しいやり方」も進んでいます。
以前から改革を求める声がありつつもなかなか進みませんでしたが、今回のコロナ危機を機に、様々な点から見直しが進んでいます。たとえば、仮処分の審尋手続きです。ネットの誹謗中傷は放置しておくと拡散して取返しのつかない被害を及ぼします。そこで違法性が明らかなものについては、裁判を待たずに仮処分の決定を申し立て、早急に削除することができるようになっています。以前はその手続きのために、裁判所に双方の代理人が集まり、裁判官を交えて審尋を行っていたのですが、今は感染リスクを避けるため、電話で行うようになりました。裁判所独自の電話会議システムを利用して行われるのですが、今のところ不都合は感じません。このような運用は、特に遠隔地の裁判所が管轄となる場合、大きな効率化になっています。一時的なものということですが、コロナが終息した後も、できれば続けてほしいですね。そして、これに限らず、コロナを契機に様々な点で改革が進み、当事者にとっても関係者にとっても利用しやすい裁判となることを期待しています。(Tさん/サイバー弁護士)

マスクの向こう側では取材対象者を募集しています。
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