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好きな音楽の話

そもそも好きなものを好きなように書いて良いんだから、とわざわざ前置きをおかなければ、たとえ自分のためだとしても文章が書けない。最近の自分はそのくらい、意味に対して慎重になってしまっている。
軸の置き所が変わることで、表出されるものが変わることを自覚したからかもしれない。現実の話なのか、思考したものの話なのか、調査したものなのか、とか。どこに軸を置くのかがはっきりしないと、どういうテンションで書いて/読んで良いのかわからない。そんな状態だけど、トライアンドエラーだと思って、エイヤッと書くことが大事!とか、これは黙らない練習だとか言い聞かせ、日記を書いてます。
とりあえずこれは、考えごとの記録、あるいはエッセイです。誰のためでもなく、自分のために書くこと。

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千原英喜(作曲家)のことをもっと知りたくて、YouTubeで演奏動画をちょびちょび漁っている。この文章の中では、宗教のことを、ある思想体系として捉えている。宗教とされるものの多くが、行事、儀礼など様々な側面を持つと思うが、その中には「教え」がある。

委嘱初演演奏「わたくしという現象は」


一応、Wikipediaで宗教の項目を調べてみた。(https://ja.wikipedia.org/wiki/宗教)この中に、「残りの人生に規範と力を与えてくれる、ある種の究極・超越なもの」と書いてあった。残りの人生に規範と力を与えてくれるもの、というところを自分なりに噛み砕くと、「人がどのようにして生きるべきか」の教え、といえると思う。

合唱音楽の中には、ジャンルとしての宗教曲があって、合唱音楽の中でも大きな割合を占めているように思う。突然の経験談になってしまうが、多くの合唱部員は、なぜか日本語とは別に、ラテン語の宗教音楽を歌わされる。全日本合唱コンクールとかを見ていると、小学生の部から中高大、社会人の部、とある。その中では、課題曲として、ヨーロッパの古典を、ラテン語で歌うことが求められる。キリスト教のお祈りの歌が、コンクールの課題曲という形で、ある「決まり事」として設定されていて、みんなで練習する。
(例えばこれは全日本合唱連盟のHPだが、課題曲のうちおよそ半分くらいが宗教音楽だということがわかる。ソースとして一部分的過ぎるかもしれないけど、とりあえず
https://jcanet.or.jp/Public/meikyoku/meikyoku-No49.htm)

宗教音楽の立ち位置を、《「人がどのようにして生きるべきか」を歌にすること》だと捉える。千原英喜がその歴史の延長線上の試みとして、思想家としての宮沢賢治の作品を楽曲化することは、日本で現代宗教音楽を作ることに対して、深いところからアプローチしているように思う。

(ちなみに宮沢賢治がなぜ「わたくし」のことを「現象」と読んだのかもとても興味深いと思うようになった。生成ではなくて、現象なのか。今読んでいる本の後半に、宮沢賢治について書かれた部分があるのだけど、じつはその本を読み始めてから2ヶ月以上経っていて、まだ辿り着けていない。遅)

そしてやっぱり、千原英喜の作る音楽が、実験精神に溢れていながらとても柔らかくて豊かなのが、素直に好きな理由だ。柔らかいとか豊かとか、形容してしまうこと自体もうどうなのとか、思いつつ…。

曲中でごく自然に語りが入る。音楽的に音階の付けられていない言葉だが、話し言葉はそれ自体ですでに語りとしてのメロディとリズムを含んでいる。千原英喜の他の曲にもそのような作り方はよくみられる。吐息や語りがそのままに、そして同時に音として用いられている。
物音や声と発音、歌声、そこらにある壁が、まるでなかったかのようにみせられてしまう。ガチガチにルールに守られた宗教声楽曲を解体して、その上に音以前の音みたいなものを混ぜ混ぜして、あたらしい折り畳み方を探しているような。
だから、好きだ、という話に過ぎないのですが。

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実際に歌える状況ではこんなことは文章に出来なかったなぁ、と思った。うまく歌えている時ほど、音楽をいっしょに抱いている喜びの中に浸って、ただただウルウルしてしまうから…。そもそもちゃんとした宗教曲なんて高校以来歌ってないのですが。

歌えないことが、かえって歌への気持ちを募らせる。合唱の生演奏を聴ける機会はとても少ない。ただでさえ少なかったのに、飛沫を飛ばさないようにマスクで口を塞がれた状況では、人が集まって大きな声を思いっきり出すことなど、アマチュアの世界ではありえないことになってしまった(ように思う。)
生で聴くことが一番豊かな音楽体験だと思う。合唱が大好きなので聴きたい。
そういう欲望を不完全燃焼させながら、日々YouTubeを漁り続けている。しばらく歌ってないのでへたっぴになってしまっているが、自分もけっこう、歌うことが恋しい。

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