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#建築をスキになった話

建物を見るのが好きな友人から、アール・ヌーヴォー、アール・デコのビエンナーレ行こうゼ!と誘われたのが2015年の秋。場所はブリュッセル。わたくしはそのころ建築にはまだ特に興味がなかったので、じゃ、おいしいベルギービール飲みながらのんびり建物でも見てみるか、と、どちらかというとビール主目的な軽い感じで行ってみることにしたのでした。

数日後その友人から、ビエンナーレのプログラムのリンクがメールで送られてきました。ブリュッセル市内のいくつかの建物がガイド付きで見て回れるらしい。普段、中を見学できない建物にも期間中は入ることができるとのこと。どんな建物をめぐるのかしら。せっかくわざわざブリュッセルまで行くのだから予習くらいはちょっとしておこうと思って、リンク先のビエンナーレ公式サイトを覗いてみました。

タッセル邸。おー。何かかっこいい。もう少し調べてみると、中もうつくしー。これが噂に名高いアール・ヌーヴォーというやつか。
パレ・ドゥ・ラ・フォル・シャンソン。変な名前のマンションだな。あんまりヨーロッパぽくないな。これはアール・デコ。
オトレ邸。かわいい家だな。これはアール・ヌーヴォー。さっきのタッセル邸から近いところにある。かわいい家がたくさんある界隈なのかな。オトレ邸は、オクターヴ・ファン・レイセルベルヘという建築家の作か。この人は他にどんな建物を造っているのだろう。えっ、こういう建物も造っているのか。趣がずいぶん変わるな。等々。 (↓オトレ邸。)

わたくしは元々、何かひとつのことに興味が湧いたら熱心にその対象について調べ続ける傾向が多少あって、この度はアール・ヌーヴォー、アール・デコ建築がその対象になったのでした。気付いたらすっかり本業(学業。博士論文執筆。)そっちのけ。来る日も来る日も、ブリュッセルの建築についてネットで調べ続ける始末。だって素敵住宅建築がほんとにたくさんあるんだもん。

なので建築を好きになったきっかけはブリュッセルのアール・ヌーヴォー、アール・デコのビエンナーレ、の予習、ということになります。実際に建物を現場で目の当たりにする前に建築好きになってしまった、いわば倒錯野郎です。きっかけは以上なんですが、ここで、建築に対するわたくしの転倒した嗜好性に拍車をかけたひとつのサイトに言及したいです。

ブリュッセル建築データベースサイトの存在

そのサイトというのは『ブリュッセル首都圏地域、建築遺産データベース』« Région de Bruxelles-Capitale : Inventaire du patrimoine architectural »。↓

ブリュッセルのアール・ヌーヴォー、アール・デコ、その他の歴史的建築についてアルファベットで調べていると十中八九、このサイトに一度は行き当たると思います。それくらい網羅的で膨大な数の物件と写真データが収蔵されているサイトです(市中心部は手薄ですが)。こういうサイトをそれなりに巡回できるのだから、フランス語を勉強しといてよかったなあ、とすら思います(←違う)。

地区や通りごと、建築家ごと、様式ごとに建築作品を検索できる、というのは建築アーカイヴサイトの機能としてはたぶん基本的なことなのだろうと思います。そういう意味では上記サイトに目新しい点はないです。が、それにしてもそういう基本が手堅く守られたサイトにて、整理整頓体系化された情報や写真イメージの上をサーフィンするのはとても楽しい。しかも、いくつかの建築用語には下線が引かれていて、そこにカーソルを合わせると用語の意味が表示されるという教育的配慮付き。やさしみが深い。

こうしてわたくしはこのサイトに何時間も入り浸っては、
気になる建築家の作品リストを見る
 → この建物見てみたい!と思った作品を見つける
  → ブリュッセル滞在中に訪れるべき建築作品(私的)リストに加える
   → 今度はそれと同じ通りにある建物たちに目を通す
    → 気になる建物を見つける
     → 今度はその建物を造った建築家の作品リストを見る……、
という無限ループに吸い込まれていったのでした。

集めたくなるおうちたち


ブリュッセルの街、特にイクセル地区やサン=ジル地区のような住宅街は、通りの両側に縦長の家が軒を接してずらっと並んでいることが多いです。そして一軒一軒の背格好や間口はどの家もおおむね似たようなものになっているのですが、というよりむしろそうなっているがゆえに、各家各様に個性的なデザインが施され通りをたのしく彩る、という街並みになっています。

そういう、与えられた条件のなかで意匠的ヴァリエーションが展開される家々って、何かイメージ蒐集癖に異様に訴えかけてくるというか、例が適当か分かりませんが、ベッヒャーの給水塔写真を見るときに感じるあのむずむずわくわくする感じを煽り立ててくるものがあるように思います。そうした、楽しくてついコレクションしたくなってしまう写真の数々が上記建築サイト上にて几帳面に陳列されているのですから、いずくんぞイメージ渉猟せずんばあらざらんや。

このサイトを作ったのはブリュッセル首都圏地域行政機関の、文化財・遺産管理部門。つまり、ブリュッセルの街は多彩ですてきな建築遺産が目白押しになっていてこれらを情報整理して開示しておけば、たとえばわたくしのような門外漢にも建築に開眼させるくらいの影響をもたらすこともあるかもしれない、と考える役人が同市の行政組織に少なからず存在するということなのでしょう。現代建築に関してもブリュッセルには『ワロニ=ブリュッセル建築』« Wallonie-Bruxelles Architectures » というサイト(こちらはワロニ=ブリュッセル建築協会の運営ですが)などがあり、しっかりしているなという印象。

長くなりましたが要するに、ブリュッセルのアール・ヌーヴォー、アール・デコのビエンナーレをきっかけにわたくしは建築に興味を持つようになって、同市の建築データベースサイトを徘徊しまくっていたら、元に戻ってこられなくなったのです。まずパソコンの画面を通して建築に親しみを持ったので、最初は視覚イメージとしての建築に自分のアンテナが反応したのだと思います。アール・ヌーヴォー建築には、むしろ一枚の絵画イメージのように建築作品を鑑賞、コレクションできる側面もあることですし。

それで何を申し上げたいかと申しますと人を建築好きにさせるに、建築データ・イメージをたくさん集めて分類、整理、紹介するアーカイヴサイトの存在って、もんのすごく、とまではゆかずともけっこう重要な気がします。
ブリュッセルから帰還して後、自分も建築データベースみたいなものを作ってみたいなあ、と、当地で撮った大量の写真を見返しながら思い、『TATÉ-MONO』というブログ(↓)を始めたのでした。質、量ともに上記アーカイヴサイトに比べれば取るに足らない水準ですが……。

なお、予習した建築をブリュッセルにて実際になまで見たら、やっぱりネット上で見るのよりはるかにいいわ~~。となって、建築熱に火に油。同行の友人は、わたくしがまさかこんなに建築が好きになるとは思っておらず(自分でも思ってなかったけれど)、ぽかーんとしてました。

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