見出し画像

ウェイクアップ・クロノス epilogue #刻命クロノ

刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」

▶︎はじめから読む
▶︎目次

- エピローグ -

'--3日後 8:31PM
 --都内某所'

「にいに、ここ?」

「うーん……そのはず、なんだけど……」

 ユーリの言葉に答えながら、僕は重いリュックを背負い直した。

 眼前にあるのは、二階建ての日本家屋だった。小さな庭もついていて、夜風に雑草がそよそよと揺れている。

 僕は再び視線を落とし、ノゾミさんからもらった住所で改めて地図検索する。曰く、目的地まであと3メートル。そのまま前へ。……やっぱり、間違ってはいないらしい。

「ほんとに? にぃに間違ってない?」

 ユーリは眼前に佇むその家を指さして、言葉を続けた。

「ここ、ぜったい誰も住んでないよ?」

「……だよねぇ」

 そう。その家は、どう見ても廃墟だった。

 白い壁には多数のひびが入り、窓はその殆どが割れ果て、腐ってズタズタになった雨戸が庭に無残に転がっている。

 完膚なきまでに廃墟だ。仮に日の光があったとしても、絶対に近寄りたくない。が……

「でも、ノゾミさんからもらった住所はここ──」

「やぁお前たち! 大荷物だな!」

「うわぁっ!?」

「ひぇぃぁっ!?」

 後ろから唐突に声をかけられて、僕とユーリは同時に飛びあがった。

「ようこそ我らが秘密基地へ! おお少年、革ジャン良く似合っているな。夏彦とは違ってまた新鮮だ!」

 目を白黒させる僕らのことはスルーして、声の主──モヨコちゃんは楽しそうに言葉を続ける。

「それにしても、どうだこの廃墟は! どこからどう見てもただの廃墟にしか見えないだろう!」

「え、あ、うん……うん?」

 首を傾げる僕らを見て、モヨコちゃんはニヤリと笑った。そのまま彼女は門扉を押して中に入り、「まぁついてきたまえ!」と声をあげる。

「あ、ちょっと」

 廃墟とはいえ、勝手に入っていいんだろうか。というかさっき秘密基地と言っていたけど、もしかしてここに勝手に住み着いてるんだろうか……などという僕の思いをよそに、モヨコちゃんはずんずんと進んでいく。

 小さな庭を抜け、ボロボロの扉の前に立ち止まり、彼女はドヤ顔を浮かべて僕らに振り返った。

「なにをぼさっとしてる! こっちだこっち!」

 そうして手招きする彼女のそばに、金色のプレートが掛けられている。

 彫り込まれて曰く、『天才 明野モヨコ様の研究室』

「……え、ここが研究室?」

「ふふふふふ。さぁ見さらせ、この大天才明野モヨコ様が総力を結集したカモフラージュ・システムの力を!」

 そんな言葉と共に、モヨコちゃんは廃墟の戸を開けて。

 同時に、光が僕らを照らした。

「な、え?」

 外から見たときは真っ暗な廃墟だったはずのそこは、光にあふれていた。

「わー! 旅館みたい!」

 戸惑う僕の隣で、ユーリが声をあげた。

 そこは、田舎の地主さんのお宅といった佇まいの、立派な一軒家だった。広い玄関には衝立が置かれ(ユーリの言う「旅館」要素はこれだろう)、その向こうには廊下と階段が並んでいる。

 外観とは真逆の、清潔感に溢れた光あふれる内装。理解が追いつかず、僕は何度か外と中を見比べた。

「ふははは、良い反応だ! 特に少年のほうはサイレント・リアクションの才があるな!」

 僕らの反応を満足げに眺め、モヨコちゃんは土間から玄関にあがり、腕組みしたままこちらへと向き直る。そして同時に、奥からどたどたと足音が聞こえてきた。

「おい柚木、せめてエプロンは外せ」

「あっ、そうだった」

「てーか、いいじゃねぇか出迎えなんて」

「なーに言ってんの、嬉しいくせにー」

 わやわやと話しながら姿を現したのは、もちろんクロノソルジャーの面々だ。彼らは、ちょうど病院で初めて会ったときと同じように、モヨコちゃんの傍に立ち並つ。そして。

「歓迎するぞ、暁イッキ少年。新たなる、クロノレッドよ!」

 その猫のような瞳を爛々と輝かせ、モヨコちゃんは笑ってみせた。その楽しそうな笑顔と、そして他のメンバーの視線を一身に浴び、僕は少しだけ息を吸い込んで。

「よ……よろしくお願いします!」

 拳を握って、頭を下げた。と──

「ユーリはー!?」

「おお、そうだったなユーリ隊員!」

「隊員! ユーリ隊員?」

「ああそうさ! その証にこれをやろう!」

 言いながら、モヨコちゃんはユーリに五百円玉くらいの大きさの缶バッジを投げ寄越す。

「ここの入館証だ! それを持って扉を開ければここに来れる。少年はクロノスバンドがあるからそっちで対応だ」

「な、なるほど?」

「それと、この家の仕組みだが──」

 モヨコちゃんがそう言いかけた時、ノゾミさんがパンッと手を叩いた。

「その辺は、ご飯食べながら話しましょ?」

「む、確かにそうだな」

「いや、とりまリュック置いてきたほうがよくない?」

 挿し込んだのはカオルさんだ。

「案内したげなよハル」

「は!? 俺かよ!?」

「そうだな。少年は葉山に任せよう。ユーリはこっちへ」

「はい! おじゃましまーす!」

「おおユーリ、ちゃんと挨拶できて偉いな!」

「えへへー!」

 ユーリが靴を脱いで上がり込む。人見知りのユーリがこれだけ元気なのは僕としては嬉しいのだけど──

「あ、おい、ちょっと!」

 ハルさんが声をあげるのも虚しく、僕らを置き去りにして彼らはリビングへと消えていく。そしてハルさんはひとつため息をついて、僕に向き直って手を伸ばした。

「荷物」

「えっ?」

「重いだろそれ。持つから寄越せ」

「あ、は、はい……」

 僕はおずおずとリュックを降ろし、靴を脱ぐ。

「どっこいせ……うわっ!? 重てぇなこれ!?」

「あの……ハルさん」

「あん?」

 ハルさんは面倒くさそうな顔で、僕に視線を遣る。その目は、病室で僕に向けたものと同じような思いが籠っていた。

「こいつのせいで、夏彦さんが死んだんだ」 

「……夏彦さんのこと、ごめんなさい。確かに、僕がいなければ──」

「いいから上がれよ。飯、冷めちまうぞ」

 僕の言葉を遮って、ハルさんはふいと視線をそらして言葉を続けた。

「あんときは俺も言い過ぎた。悪りぃ」

 そして彼は僕を……というか、僕の着ている革ジャンを一瞥すると、ぶっきらぼうに言葉を投げた。

「おめーが夏彦さんの分まで気張れ。それが手向けってやつだ。多分な」

「はい……頑張ります」

 僕の言葉に頷いて、ハルさんは歩き出す。

「んじゃ行こうぜ、”イッキ”」

「! は、はい!」

 ──こうして、クロノソルジャーとしての戦いと、そして僕らの共同生活が幕を開けた。

 左手首のクロノスバンドは、僕を勇気づけるように熱を帯びていた。

***


'--同日 時刻不明 
 --とある工場跡地'

「報告は以上っすネー」

 適当な荷箱に腰かけて、リューズは足を組んだまま言葉を投げる。眼前の空中には、ホログラムのような質感でひとりの男が浮かんでいた。

 豪奢な黒いローブを纏った、大柄な男だ。柱時計のような形状の大剣を背負っている。倉庫の照明の下においても、その顔は深い闇に覆われており判然としない。

 彼こそ、リューズたちヤミヨの王。<刻王>クォーツである。

 王はなにやら思案するような仕草と共に、リューズに問いかける。

「ふむ。ビジョウとユーカクの腕は、治るのか?」

「んー。どーっすかねぇ」

 ステッキをくるくると弄びながら、リューズは言葉を続ける。

「ビジョウのほう、あれは多分大丈夫じゃないっすかねー。なんせ、特殊ですし。ユーカクは機械義手になるそうで、今頃ベゼルとダイヤルが図画工作中。まぁ、ご心配されるほどの戦力減はないっすねー」

「なるほど。なら良い。……して、リューズ。お前、背が低くなったか?」

「あ、わかりますー? いやーあの少年、えげつないっすよねぇ。おかげであの身体はオシャカになっちゃいました。気に入ってたんだけどなぁ」

「新しいクロノレッド……か」

「ええ。せっかく全滅まで行けると思ったんすけどねー」

「くく、そうだな。だが、まぁ良い」

 クォーツは愉快そうに肩を揺らし、言葉を続けた。

「まだまだ、面白くなりそうだ」

「ええ、ほんとに」

 無人の工場に、二者の笑い声が響く。

 ただ夜の闇のみが、その邪悪な声を聴いていた。

刻命戦隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」
【完】

 本作の好き好きツイートや桃之字の褒め褒めコメントはハッシュタグ #刻命クロノ でお待ちしてます。
◆宣伝◆
制作本舗ていたらく】では、ていたらくヒーロータイムと銘打ってオリジナルヒーロー小説を多数お届けしております。
更にサークル【桃之字さんちのていたらく】にて、執筆に際して桃之字が苦しんだりのたうち回ったりしている様子を観察できるプランをご用意しています。しようチェック!



🍑いただいたドネートはたぶん日本酒に化けます 🍑感想等はお気軽に質問箱にどうぞ!   https://peing.net/ja/tate_ala_arc 🍑なお現物支給も受け付けています。   http://amzn.asia/f1QZoXz