第3話「マーベラス・スピリッツ」 #hk_amgs
碧空戦士アマガサ 第3話
(再放送/約2.9万文字)
(前回までのあらすじ)
雨狐殲滅のために<時雨>との協力体制を敷くことに決めた湊斗は、晴香の勧めで<時雨>へと入隊することとなった。
ショッピングモールの事件から一夜明け、湊斗の初出勤が迫っているが──?
第3話「マーベラス・スピリッツ」
- プロローグ -
何事かを極めるということは、他のものを捨てることに繋がってしまいがちだ。私は武を極めんとして、偶然にもその武で身を立てることができている。だが息子は運が悪かった。(中略)また揃って食卓を囲みたいものだ。……ここに書くことではなかったな。最近は書くことが少なくて困る。
────超常事件対策特殊機動部隊"時雨"活動日報より抜粋
「湊斗、醤油とってくれ」
「はーい」
『サッパリテレビ! 本日のゲストはー!?』
ずんちゃんずんちゃん。
朝の情報番組の賑やかな音声がダイニングを満たす。『この後ろ姿は!?』『バレバレじゃん!』『ワハハ!』湊斗たちは朝食を口に運びながら、そんな勿体ぶったやりとりを聞き流す。
『50手前で再ブレイク! 今最注目の"サバイバル系"ピン芸人!』
「ヴェホッ!」
そんな時、味噌汁を啜っていたタキがいきなりむせた。
「うっわ汚ねぇなお前!?」
晴香がキレて、光晴が笑いながら布巾を渡す。タキはなにやら訴えているようだったが、とにかく早く拭けと晴香が声をあげる。
賑やかな朝餉の席。まだほんの2,3日だが、これがこの家の日常のようだ。賑やかで、微笑ましくて──眩しい。湊斗はそんな様子を眺めて、ぽそりと呟いた。
「……家族、か」
「あん? なんか言ったか湊斗?」
「いやなんでも。晴香さん頬にご飯粒ついてる」
「マジか」
晴香が口元をぬぐった、そんな時だった。
『自著《アラフィフがライター1本で山籠りしてみた》が大ヒット!』
テレビからその言葉が流れて。
「──────…………」
ぴたりと。
場の空気が、凍りついた。
「……?」
『??』
湊斗の側で傘のフリをしていたカラカサも目を開けて辺りを確認している。どうやら気のせいではないらしい。
『ここまで言えばおわかりですよね!』
テレビの音がやけに大きく感じる中、湊斗は食卓の各自に視線を巡らせる。
タキと光晴はなにやら気まずそうな顔で晴香に視線を遣っている。そんな晴香の表情は伺い知れないが──なにやら殺気めいたものを纏っている気がする。
『これ生だから! 時間ないから早くして!』『ワハハ』『ではご紹介!』
そんなお茶の間の不穏な空気など露知らず、テレビは賑やかしくゲストの紹介を続ける。
『本日のゲストはこの方! マーベラス河本さん──』
ぶつん。
タレントがすべて言い終わるより早く、晴香は電撃的な速度でリモコンを掴み、叩きつけるようにボタンを押して、テレビを消した。
「ちょっ──」
「タキ、おかわり」
「あ、はい!」
湊斗の言葉を遮って、晴香は有無を言わせぬ迫力と共に告げる。タキは慌てて立ち上がって、炊飯器へ。
晴香はご飯がよそわれたお椀を無言で受け取って、それを三口で平らげた。
「おかわり」
「はい!」
「おかわり」
「は、はいっ……!」
「おかわり」
ぽかんとした湊斗を置いてけぼりに、晴香は怒涛の早食いで5杯分の米を平らげた。「ふぅ」と息を吐きながら箸と碗を雑に置き、彼女は口を開く。
「ごちそうさん。タキ、私は今日バイクで行く。湊斗共々遅刻するなよ。爺ちゃんもな。それじゃ」
「あ、えーっと──」
口を挟む暇も有らばこそ。
一息に言った晴香は荒々しく立ち上がり、ジャケットを羽織りながら部屋を出ていった。
がちゃん、ばたん、ぶろろろろろ…………
「……………………」
一同は無言で、遠ざかる晴香を窓から見送って。
「……え、俺なんかした?」
ようやくまともに発言できた湊斗は、タキたちへと問いかけた。
「ああいや……湊斗くんのせいじゃないよ」
炊飯器の前で立ち尽くしていたタキは自分の席に戻りながら、「えーと……」と言葉を続ける。
「なんていうか……姐さん、さっきのあのマーベラス河本って芸人さんが大っ嫌いなんだよね……」
「なんか……相当な嫌いっぷりだね」
湊斗の言葉に、タキは「まぁ、うん……」と曖昧な返事をする。湊斗が首を傾げたとき、光晴が湯呑みを置いて立ち上がった。
「さて、我々もそろそろ行くとしよう。初日から遅刻だと格好もつかんしな」
「は、はぁ……」
その言葉に静かな圧を感じ、湊斗は釈然としないまま、茶碗に残った米を頬張るのだった。
- 1 -
超常事件対策特別機動隊、通称<時雨>。
警視庁の武術顧問である晴香の祖父・河崎光晴を隊長として組織され、雨狐の引き起こす超常事件の調査・解明を使命とする部隊である。隊長の光晴、副隊長の晴香を筆頭に、少数精鋭での活動を行っているらしい。
事前に聞いていた情報を頭の中で反芻しつつ、湊斗は目の前の<時雨>本部を仰ぎ見る。
そして、誰にともなく呟いた。
「……てっきり警視庁の本庁にあるんだと思ってた」
『ボッロいビルだねぇ』
湊斗の手元で、カラカサが小さく応えた。
そこは東京都霞が関・警視庁本庁舎とは似ても似つかない、5階建ての雑居ビルだった。カラカサの言う通りかなり年季の入ったビルで、1階部分はガレージになっている。2階部分の窓ガラスには"Coffee LUPO"と書かれているので、喫茶店かなにかだろう。なんであれ、そのビルはどちらかというと「特殊部隊の本部」というよりも「潰れかけの有限会社」といった趣だ。
湊斗がぽかんとしたままビルを眺めていると、後ろから光晴が声をかけてきた。
「ここの3階から上が、うちの本部だ」
「え、あ、本当にここなんですね……」
視線を戻して応えた湊斗の言葉に、光晴は呵々と笑う。
「たしかに小汚いが、良いとこだよ」
「てっきり警察署内にあるものだと……」
「あー。あっちはビルの出入りが面倒だし、渋滞も多いし、やりづらくてな。こういうところの方が気楽で良い」
「なるほど……」
……機密とか防犯とか、そういうのは大丈夫なんだろうか。
そんな心配をよそに、光晴は気楽な様子でビルの階段を昇り始めた。ちなみにタキはガレージに車を入れるのに四苦八苦している。湊斗はひとまず、光晴についていくことにした。
人がギリギリすれ違える程度の狭い階段を昇りながら、光晴は湊斗に声を投げてくる。
「この階段は3階まででおしまい。4階が晴香たちの執務エリア、5階は倉庫と会議室。そっちは内階段で昇れる」
階段を昇りきった先──3階の壁には一枚の扉があり、<時雨>と雑な字で書かれた表札が下がっている。その前で立ち止まると、光晴は振り返って説明を続ける。
「入ってすぐにオペレーションルームがあって、現場や本庁との連絡は全部そこでやっとる。泊まり込みの際は5階で寝ること。オーケー?」
「泊まり込み……? ま、まぁ、とりあえずOKです」
「よし。じゃ、中でメンバー紹介といこう」
そう言って光晴が扉に手をかけると、それはギギギと鈍い音と共に内向きに開いた。湊斗は<時雨>本部へと足を踏み入れて辺りを見回し、呟く。
「あ、中は思ったより綺麗だ」
「だろ?」
笑いながら、光晴もまたオペレーションルームに入ってきた。
ビルの外観とは裏腹に、中は近代的なオフィス然とした内装をしていた。広さは学校の教室くらいの空間で、大型のディスプレイが3つと作戦卓がひとつ置かれている。壁の一面はホワイトボード化されていて、大きな地図や現場写真が貼られていたり、あれこれと殴り書きされたり。日頃の忙しさが目に見えるようだ。
壁に貼られたうちのひとつ、この街の地図と思しきものの前に、3人の男女が立っている。光晴は気楽な様子でそちらへと歩み寄った。
「おはよう。みんな揃っておるな」
「あ、おはようございます隊長」
「おはようございます!」「はざーす」
口々に挨拶を返す隊員たち。その中で最初に湊斗と目があったのは、メガネをかけた背の高い男だった。
「あ。そちらが例の?」
「そう。天野湊斗くんだ」
メガネ男の問いかけに、光晴は頷いてみせる。湊斗も軽く会釈をして、挨拶をした。
「どうも、はじめまして」
男は手にしたタブレットPCを畳んで抱え込むように持つと、会釈を返して口を開く。
「はじめまして。乾 慎之介(イヌイ・シンノスケ)です。ここのオペレーションのまとめと、情報収集を担当しています」
年の頃は30前後だろうか。黒髪短髪の、こざっぱりした男だ。彼は四角い眼鏡をクイとあげ、落ち着いたトーンで言葉を続ける。
「<アマガサ>。君のことについては、晴香さんとタキさんから聞いています。正直、調査に結構行き詰まっててね……色々と情報交換したい。よろしく」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
湊斗が返事をすると、乾は目の前にいる男女の背を押した。
「そしてこの二人が僕の部下。ソーマと凛だ」
「えっと、雪村 宗馬(ユキムラ・ソウマ)っす。ソーマって呼ばれてます。デバイス作りと、後方支援が担当っす。よろしゃす」
先に雑な口調で自己紹介したのは、ツンツン頭が特徴的な、目つきの悪い青年だ。手には基盤丸出しの謎のデバイス。タキや晴香よりもだいぶ若そうに見える。
続いて、女の方が一歩出て、頭を下げた。
「佐倉凛(サクラ・リン)です。お気軽に凛とお呼びください。オペレーターと、救護、あと総務全般を担当しています。よろしくお願いします」
ソーマとは対局のハキハキした挨拶の後、凛はぺこりと美しいお辞儀をする。ショートカットの黒髪がサラサラと揺れた。
最後に統括するように、光晴が口を開く。
「この3人が、まぁ後方支援ってやつだ。オペレーション、救護、たまに援護。あとは……おっと」
光晴はそこまで言ったところで、一旦言葉を切った。湊斗が首を傾げたところで部屋の扉がガチャリと開き、車を停め終えたタキが入ってくる。
「で、そこのタキは前衛」
「あ、ども、おはようございます」
一同の視線がタキに集まったところで、光晴が言葉を続けた。
「前衛チームは現場に出て身体を張ってもらう役割だな……まぁ、タキにはついでにIT顧問もやってもらっとるが」
「いや隊長、俺ITが本業っすよ!?」
「おや、そうだったかの」
とぼけた様子で笑いながら光晴は隊員たちを見回し、湊斗へと再び視線を戻した。
「こいつらと、晴香。それがうちのメンバーだ。では湊斗くんからも自己紹介を──」
そんな光晴の言葉を遮って。
バァン!
突如、派手な音と共に扉が開かれた。湊斗とタキはほぼ同時に、拳を構えながらそちらを振り向く。そして。
「とーうっ!」
素っ頓狂な叫び声と共に、オペレーションルームにスーツのオッさんが飛び込んできた。
「くるくるシュタット!」
水泳の飛び込みのようなポーズで、文字通り"頭から"飛び込んできたオッさんは、謎の呪文を唱えながらゴロゴロと前回り受身を取る。そして、体操選手のようなポーズで立ち上がって。
「ハイッ! 10点満点の着地!」
叫んだ。
「……………………」
沈黙。
無限にも思える15秒ほどの空白の後、年長者である乾がおずおずと口を開く。
「……あ、あのー……すみません、部外者の方は……」
「あれェ? 面白くなかった?」
乾の言葉を受け、オッさんは大げさに首を傾げながらおどけてみせて──
「……あれ?」
湊斗は思わず声を漏らす。どこかで見覚えがあるような……?
湊斗が記憶を探り始めるより先に、後ろにいた凛が「も、もしかして!」と声をあげた。
「マーベラス河本さんですか!?」
その言葉を受けて、大袈裟に凛を指さしながら、いちいちオーバーなオッさん──お笑い芸人・マーベラス河本は叫んだ。
「ンざっつらいと! マーベラスだよお嬢さん!」
湊斗は思わずタキに視線を投げる。その顔全体に「勘弁してくれ」という文字が浮かんでいた。それもそうだ。今朝の晴香の様子を考えれば、湊斗ですら同じ気持ちになる。ここに晴香が居ないことが唯一の救いだ。
「そう! 私こそ! スーパーミラクルハイッパーサバイバル芸ッッッ人!」
ゲンナリした湊斗たちを差し置いて、その男は無駄に洗練された無駄のない無駄な動きと共に、名乗りを上げる。
「んマーベルァス! 河・本・です!」
「うるさいぞモトハル。ここはオフィスだ」
それをバッサリと切り捨てたのは他でもない光晴だった。が──その言葉に、湊斗が眉をひそめる。
「……モトハル?」
「いいじゃないの父ちゃん。俺の芸風なんだから」
「やかましい。それよりなんの用だ」
「……父ちゃん?」
湊斗の呟きには気付かず、二人は普通に会話を続行する。
「やだなぁ、テレビ観てない? 今日は警視庁の一日署長で──」
「あ、あの、ちょっと」
長話を始めたマーベラス河本の言葉を、乾が遮った。
「ちょっと待ってください、今なんかすごく気になる言葉が聞こえたんですけど」
「ん?」
光晴が振り返り、マーベラス河本との会話が止まった、その時。
がちゃり、と。
オペレーションルームの扉が再び開いた。
「うっわ、最悪……」
横でタキが全力のため息をつくのを聞きながら、湊斗も暗澹たる心持ちで入り口を見た。
「……ったく誰だよ表に路駐してんの。しょっぴくぞ」
愚痴をこぼしながら入ってきたのは、河崎晴香。
今、最もこの場に居てほしくない人物だ。
タキも同様の心地らしく、湊斗の後ろで盛大な溜息をついた。
「はぁ……姐さん、バイク飛ばして機嫌治るかなぁとか思ってたけどこれは無理だなぁ……」
「タキ、湊斗。今日は……あ?」
なにかを言おうとした晴香は、とうとうその"来客"に気付いて言葉を止め。その手の中で、フルフェイスヘルメットがメキメキッと音を立てる。
「…………てめぇ」
ハトくらいなら殺せそうな勢いの殺気を放ちながら、晴香はマーベラス河本を睨みつける。そして再び口を開き──
「おい、なにしに──」
「晴香ァァァッ! 会いたかったよォォォォ!」
マーベラス河本は奇声とともにその場で飛び上がり、晴香にルパンダイブする。
「なっ……!?」
狼狽える晴香に飛びかかりながら、マーベラス河本はこう叫んだ。
「久しぶりィ! パパだヨォ!」
「「……………………」」
オペレーションルームに、沈黙が落ちて。
「「「パパ!?」」」
湊斗と隊員たちの声が、オペレーションルームにこだました。
***
都内某所、サラリーマンでごった返す駅前広場。蒸気機関車の等身大モニュメントの上に、2体の異形の姿があった。
ひとつは、血のように赤き鎧の武者。現在は蒸気機関車の上に胡座をかき、肘をついて空を見上げている。もうひとつは、夜色の袍に身を包む宮司。こちらは鎧武者の側に佇み、広場の人間たちを見つめている。
両者ともその顔は狐の面と同化しており、垣間見える肌は漆黒の鱗に覆われている──怪人"雨狐"。彼らは自らをそう呼称する。
「……おい、紫陽花」
「はい」
鎧武者/イナリに名を呼ばれ、宮司/紫陽花は返事をしながら顔を向けた。イナリは退屈そうに空を見上げた姿勢のまま、言葉を続ける。
「なんか妙に人の気配が多いが、こりゃなんだ? 昼間ッから祭りでもやってんのか?」
「いえ、この地は普段から人が多いのです」
「へえ」
イナリは返事をしたまま、引き続き空を眺める。紫陽花は人間観察を再開し──ぽそりと呟いた。
「……それにしても、多いな」
駅前広場には数えきれないほどの人間がいる。それはいつものことなのだが、今日は普段よりも人の流れが悪い。まるでなにかを待っているようだ。イナリの言うように、本当に祭りでもあるのかもしれない。
……などと考える紫陽花の側で、イナリが突然ごろんと大の字になって。
「アー! 暇だーッ!」
地が揺れんばかりの声量で、叫んだ。
ビリビリと空気が震え、紫陽花の耳がキンと痛む。周囲の建物に反響して、残響音はいつまでも周囲を満たす……しかし、人間たちはそれを意に介さない──否。
それがどれほどの大音量でも、"聞こえていない"。何者も彼らを咎めず、見咎めず、認めない。
「…………」
紫陽花は小さく溜め息をついた。そこに込められた感情は、急に大声を出したイナリに対する苛立ちだけではない。"天気雨なしでは現世に干渉できない"という事実に対する、幾分か複雑な感情であった。
「にしてもよォ、羽音(ハノン)のやつァどこで油売ってんだ……」
ぶつくさと文句を言うイナリの腹に、一羽の鳩が降りてきた。それはイナリの身体を通り抜けて、モニュメントの上に着地した。
全ての生あるものは同様だ。雨狐に触れることも、その姿を見ることも能わない。"天気雨"なしでは。
イナリの腹から顔を出したり引っ込めたりする鳩を眺め、紫陽花は目を細めると空を見上げた。晴れ晴れとした空は青く澄み渡っている。
天気雨さえ降ればこの場で王の"暇つぶし"も実現できようが、雨が降る気配は微塵もない。そもそも都会では天然の天気雨は希少だ。
先日のように妖力で無理矢理雨を喚ぶにはまだ負荷が──
「アー……」
紫陽花の思考を遮ったのは、イナリの大欠伸だった。鎧兜のようなその面の口元が獣のように大きく開いている。そのままたっぷり10秒ほどの大欠伸を終えると、イナリは紫陽花へと視線を遣った。
「……暇だ。なんかないのか。紫陽花が爆発するとか」
「それは痛いので嫌です」
「いいじゃねぇかちょっとくらい」
あまりの無茶振りに紫陽花がため息をついた時、傍に二つの気配が生まれた。
「お待たせー。連れてきたよー」
気楽なトーンで話しかけてきたのは、花魁衣装の雨狐・羽音(ハノン)である。その側には、若草色の甚兵衛を纏った小柄な雨狐が立っている。そちらは紫陽花の知らぬ顔だ。
「遅せェぞ羽音。危うく紫陽花が爆発するとこだ」
イナリが起き上がり、羽音を睨む。彼女はそれを受け流し、クスクスと笑った。
「だめだよ王様。紫陽花が居ないと色々困るでしょ?」
そんなやりとりをよそに、紫陽花は小柄な雨狐を一瞥すると羽音に問いかける。
「…………此奴、子供ですか?」
「あら、よくわかったわね? ちょっと大きめの子を選んだのだけど」
その言葉にピクリと反応したイナリは、座したままその子供を見据えた。
「へぇ、子供の狐か。おもしれぇな」
「はじめまして、王様」
それは少年のような声でそう言うと、ぺこりと頭を下げた。その様子を横目に、羽音は紫陽花に問い返す。
「それで紫陽花、場所の検討はついたの?」
「ええ。標的の場所はここから程近いですが……イナリ様。どうやら本当に祭りがあるようです」
「あん?」
不意に水を向けられ、イナリが首を傾げる。紫陽花は付近のビルに据え付けられた大型ビジョンを見上げた。
映し出されているのは人間の男だ。その上に派手な文字で『交通安全月間啓蒙パレード開催! 本日12時から!』『一日署長! 今大注目のピン芸人! マーベラス河本!!!』などと記されている。
「面倒なことに、多くの人間がそこに居る可能性が──」
「あらあら。でも人がたくさんいても関係ないわ」
紫陽花の進言に口を挟んだのは、羽音であった。彼女は子供の頭を撫でながら笑う。
「この子の"雨"は、人が多い方がいいのよん」
──これだから脳筋は。
紫陽花は苛立ちもあらわに、羽音へと詰め寄る。
「あのですね、天気雨を喚ぶにもアマヤドリを喚ぶにも、対価というものが──」
「まぁまぁ、紫陽花。そんくらいにしとけ」
説教を始めた紫陽花を、イナリが諌めた。そして有無を言わせぬ声音で、言葉を続ける。
「面白そうじゃねぇか。やらせてやれ」
「……御意」
紫陽花が口を閉ざしたのを確認し、イナリはおもむろに立ち上がると、小狐を見下ろした。
「目的はわかってんな? ちゃんと"回収"してこい。そんで──」
イナリはそう言いながら小狐の元へと歩み寄ると、地獄のような殺意と共に言い放った。
「──ついでに、その祭りとやらをぶっ壊してこい」
「はい。お任せください」
その小狐は、イナリの殺意を浴びてなお平然と頷く。
──同時に、先ほどの鳩が突如として絶命し、蒸気機関車から転がり落ちた。
- 2 -
マーベラス! マーベラス! マベマベマーベラース(A-Ha!)
マーベラス! マーベラス! マベマベマーベラース(Oh-Yeah!)
その胡乱な歌は、突如として<時雨>本部に響きはじめた。書類に目を通していた光晴は、側にいた部下たちと顔を見合わせ、音の出元を睨む。
「……うるさいな」
「で、電話……ですかね?」
「自分の歌を着メロにすンの、すげーな……」
光晴はため息とともに立ち上がるとソファへと歩み寄る。そしてそこで眠る男──マーベラス河本を小突いた。
「おい、電話鳴っとるぞ。いい加減起きんか」
ぺちぺちと頬を叩くと、そいつは鬱陶しそうに顔をずらしながら呻く。
「うーん、晴香ァ……」
「おーい……むっ?」
光晴は言葉を止めた。頬を叩いていたその手が、不意にガシッと捕まれたのだ。そして──
「パパぁそんなに食べられないよォ……」
マーベラス河本は光晴の腕を抱きしめながら、ベタな寝言を垂れた。
「………………せりャッ」
どがっしゃん。
光晴はそいつをソファごとひっくり返した。
──時は、1時間ほど遡る。
愛する娘に向かってルパンダイブしたマーベラス河本は、しっかりと晴香に受け止められた。
しかし晴香は、そのまま勢いを殺さずその場で横回転。同時に流れるように河本の身体を上下逆さまに持ち替え、頭から地面に叩きつけた。
伝説のプロレス技、パワーボムである。
ルパンダイブの勢い、回転のパワー、そして河本の体重。その相乗効果による衝撃は、河本の意識を途絶えさせるには十分だった。
完全に沈黙した河本を放置して、晴香はタキと湊斗を連れてパトロールへと出かけてしまった。光晴は仕方なく、彼をソファに寝かせておいたのだった。
「痛ててて……」
光晴が思い返す間に、ソファとともにひっくり返ったマーベラス河本は自力で這い出し、父に向かって非難の声をあげた。
「ちょっと父ちゃん? 流石に乱暴すぎない?」
「やかましい。それより、ケータイ鳴っとるぞ」
件の騒がしい着信メロディは相変わらず鳴り続けていて、ちょうど1番のサビが終わったところだ。
「ん、おお……えっ!? もうこんな時間!? も、もももしもし!? ご、ごごごごめんよみさきち! いやはいすみません! はい! い、今すぐ向かいます! あ、はい、え、んと、30分くらいで! はい!!」
「お前は本当に落ち着かないというか……」
慌ただしく身なりを整えるマーベラス河本を見て、光晴は盛大なため息をついた。その後ろから凛が顔を出す。
「今の、マネージャーさんとかですか?」
「そ、そうなんだよレディ! パレードに出席しなきゃなのに集合時間30分もすぎちゃって!」
「いつまでも起きんお前が悪い」
冷たく言い放つ光晴に、今度はソーマがツッコんだ。
「いや隊長、流石にパワーボムした人が悪いと思うんスけど」
「…………」
その言葉に光晴は頭を掻き、なにやらしばし考えて、頷いた。
「……一理あるな」
***
『──というわけでソーマは送迎のためしばらく動けん。そのつもりでな』
<時雨>所有のミニバンの中。通信機から聞こえる光晴の声に応えたのは、マーベラス河本の寝坊の元凶・晴香だった。
「いや、あいつ車で来てたろ。うんこ色のスポーツカー」
『そりゃそうだがな。白バイの方が速かろう?』
「……いいんですか、それ?」
ツッコミを入れたのは湊斗だ。光晴はケラケラと笑ってみせた後、言葉を続けた。
『ちなみに、そっちは今どこにおるんだ?』
「湊斗のために、これまでの事件現場を回ってるところだ」
『なるほど。なにかわかったら連絡をくれ』
「へいよ」
回線が閉じる。同時に、晴香は助手席で大きな溜息をついた。
「本当になにしにきたんだ、アイツは。迷惑なやつだな……」
「いやパワーボムはやりすぎですよ……」
「条件反射だ。仕方ないだろう」
タキと晴香のそんなやり取りを、後部座席の湊斗はしばし所在なさげに見ていた。視線を感じて振り返ると、湊斗はおずおずと口を開いた。
「えっと……なにがあったか、聞いても良い?」
「……まぁ、気になるよな」
晴香は湊斗に複雑な表情を向ける。目的地まではあと数分。触りだけ話すか、と晴香は居住まいを正す。
「マーベラス河本、本名・河崎本晴。爺ちゃんにとっての長男で、不本意ながら私の元・父親だ」
『元?』
口を挟んだのは湊斗の手元の番傘──付喪神・カラカサだ。本部では傘に擬態していたが、晴香とタキしかいない今、彼も普通に喋ることができる。
「そう。売れない芸人でさ。全然家には帰ってこねーし、あんな芸風だから私は河本の娘だってイジメられるし、そんな中で母親は身体壊すし。……まぁ、そこら辺はよくある話──」
「ちなみにイジメっ子は姐さんがボッコボコにしてたよ」
「余計なことを言うなバカ」
話を遮ったタキの肩をはたき、晴香は言葉を続ける。
「決定打は、母さんが死んだときだ。死にかけた母さんの顔すら見に来ず、電話にも出なかった。そんで忘れたころにひょっこりでてきて、墓参りだけして……それだけだ。それを見て、あいつはもう家族じゃねぇって思った」
晴香は遠くを見ながら語る。湊斗も、カラカサも、タキも、なにも言わない。気まずい沈黙の中、車が目的地に到着し、晴香は手を叩いて話を締めた。
「とまぁそんな感じで、私はあいつの顔も見たくない。……ンなことより、着いたぜ」
「あ、うん……」
晴香は湊斗と共に車を降り、目的地へと歩を進めた。ちなみにタキは車を停めるのに四苦八苦している。
そこは一見すると工事現場のような、防護壁が張り巡らされた空間だった。内部の様子は伺い知れないが、少なくとも工事をやっているような音はしない。
晴香はスタッフ用の出入り口へと歩み寄り、鍵の制御盤を開く。
──湊斗が口を開いたのは、そんなときだった。
「……でもさ」
「ん」
暗証番号を入力して扉を解錠しつつ、晴香は振り返った。
「会えるなら、会っておいたほうがいいよ。……会えるうちに」
「…………」
普段なら、綺麗ごとを並べるなと睨むところだ。だが、晴香はそうできなかった。
その時の湊斗の目は、まるで人形のようだった。膨大な感情が渦巻き、溶け合い、そして塗りつぶされたような。
「……どういう意味だ?」
少しの沈黙の後、ようやく晴香は問い返す。湊斗はふっと息を吐き、いつもの人当たりの良い雰囲気に戻った。
「どうもこうも、そのままの意味。……あ、タキくんきた。行こう」
湊斗はそう言い残し、さっさと晴香の傍を抜けて扉を潜ってしまった。彼の言う通り、後ろからタキが駆けてくる。
「お待たせしました! ……どしたンか、突っ立って?」
「いや……なんでもない」
言いながら、晴香もまた、防護壁の内側へと足を踏み入れ──すぐに、湊斗の背中にぶつかった。
「おい、入り口で立ち止まるな」
「あ、ごめん……ちょっと、びっくりして」
『ひゃー……これは、想像以上だねぇ……』
湊斗とカラカサの言葉を受けて、晴香もまたその光景を見渡した。
初めて見たときも今も変わらず、壮絶なものだ。
防護壁の内側に広がるのは、クレーターのように抉れた地面。その中には滑らかな凹凸があり、所々に無骨な鉄骨やら車やらビルの破片やらが形を残しているが──そのすべてが、白い"なにか"にコーティングされている。身近なものに例えるとするならば、お好み焼きの"タネ"に近いだろうか。
その白い”なにか”は、一見したところでは正体がわからない。だが──
「……半年前まで、ここには3棟のビルが建っていた。そしてあの日、初めての超常事件が発生した」
立ち尽くす湊斗の傍に並びながら、晴香は説明をはじめる。それは、出際に見返した調査資料に記載のあった話。そのファイルのタイトルを、湊斗はぽそりと呟いた。
「ケース01……<溶解するビル>」
「そう。3棟のビルは瞬く間に姿を消し、あとに残ったのはこの白いクレーターのみ。つまり、ここにある白いものはすべてビルだったもの……いや、違うな」
言葉を切った晴香に、湊斗が視線を向ける。その目は先ほどと同様、人形のような目であったが──同時に、煮えたぎる怒りも見て取れた。それを見据え、晴香は言葉を続ける。
「この事件の死者は15名。そして、行方不明者は192名──おそらく、そのすべては溶解したものと思われる。つまり白いのはビルだけじゃない。それ以外も含んでいる」
晴香の言葉に湊斗は目を細める。そして、手にした番傘を宙に投げた。
それは回りながらひとりでに開き、一瞬のうちにカラカサお化けへと変貌した。そのまま空中で制止するカラカサに、湊斗は語り掛ける。
「カラカサ。なにか感じる?」
『特別なものはなにも。ただ、ひとつわかったことがある』
「なに?」
『"天気雨予報"で、オイラはいくつかの妖気の塊みたいなものを起点に探索してたんだけど……その起点となる妖気の塊のひとつが、ここみたい』
天気雨予報。
その言葉に、晴香は車の中で聞いた話を思い出す。それは、妖気の流れや大気の状態をもとにその日の"天気雨"──雨狐の出現予測をするという。
回想する晴香の横で、湊斗が補足するように口を開いた。
「要するに、ここには雨狐の匂いみたいなものがめちゃめちゃ残っていて……他にも、そういう場所があるってこと」
「てことはなんだ、おい」
その言葉に、晴香の中で最悪の可能性が頭をもたげた。
「……私らが知らないだけで、こういう溶けた場所や溶けた人が、他にも──」
晴香がそれを言いかけた、その時だった。
『ザッ……晴香さん、タキさん、天野さん! 天気雨発生の連絡がきました! 場所送ります!』
タキの肩口で通信機が叫んだ。同時にカラカサが叫ぶ。
『えっ!? 今日は全然気配なかったんだけど!?』
その言葉を受けた晴香は、湊斗に視線を移す。彼自身も驚いた様子で、嘘ではないらしい。
「原因究明はあとだ。タキ、場所は」
「ここから近いです……って、あれ、ここって──」
タキは、自分の端末に届いたGPS情報を見て目を見開く。そして両手でスマホを掴み、なにやら慌ただしく操作しはじめた。
「どうした?」
「やっぱりそうだ……!」
先を促す晴香に向かい、タキはバッと顔をあげて、叫んだ。
「現場、ここ、今日マーベラス河本がパレードやるトコです!」
- 3 -
「雨、雨、降れ、降れ、母さんが──」
小狐は歌いながら、その広場に近づいていく。
ぽつり、ぽつりと落ちてきた雨滴に、広場にいる人々は怪訝な顔で青空を見上げている。
彼らはまだその雨狐を知覚できず、雨狐もまた触れることができない。雨狐は速度を落とさず人込みへと入り込み、人々の身体をすり抜けながら歩みゆく。
「蛇の目で、お迎え、嬉しいな──」
はじめは1,2滴だったその雨は徐々に強くなり、連続的な小雨となって人々を濡らす。雨足が安定していくのに合わせ、雨狐の身体の透明度が下がり、具現化してゆく。
「ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん──わっ!?」
「うっわ冷てぇっ!?」
小雨が安定したことによりとうとう現世に顕現したそれは、ついに観客のひとりと激突した。
ジュースのカップを持った大柄な男だ。反動で零れたジュースがシャツを濡らし、男は怒鳴りながら振り返る。
「おい、どこ見てんだ──」
振り返った男はしかし、その場で硬直した。怒鳴り声を聞いた周囲の人々が顔をおろし、その視線が男と雨狐に集まる。
男も、周囲の人々も皆同様に、その背にじわりと冷や汗が浮かぶのを感じていた。彼らは、眼前のそれが明らかに人ではないことを肌で理解した。
そして──その雨狐は男に一歩踏み出すと、小首をかしげて挨拶をした。
「こんにちわ。人間のひと」
「ひっ……」
その瞬間、男はただならぬ恐怖を覚えた。それは本能的な恐怖。超常の力を持つ雨狐を前にした、死の恐怖であった。そして──
次の瞬間、周囲の人々が一斉に恐慌状態に陥った。
あるものは頭を庇いながらその場に蹲り、またあるものは人混みを掻き分けて走り出した。その場で泣き叫ぶ者、崩れ落ちる者──恐慌の輪は瞬く間に広がっていく。
「掛けましょ、鞄を、かあさんの──」
恐慌状態の人々には目もくれず、その雨狐は歌いながら広場の中央──現在ステージが据えられた場所へ向かって悠然と歩みを進める。人々は狂乱し、誰もそれを見てはいない。
「あとから、行こ、行こ、鐘が鳴る。ぴっちぴっち──おっと」
不意に、雨狐は飛び上がった。
直後、一瞬前まで立っていた地面を、白い光弾が抉る。
「あぶない、あぶない……よっ」
そいつは呟きと共に着地し、同時にその場で四つん這いに伏せた。その上を何者かの蹴りが通過する。
「チッ」
蹴りの主──晴香は、舌打ちと共に着地した。この場にあって"狂乱していない人間"という特異点に対し、雨狐は首を傾げる。
「あれ? 効いてない──む」
伏せたまま呟く最中に、雨狐はゴロゴロと横に転がった。地面が爆ぜる。湊斗の光弾だ。
しばし地面を転がったそれは、その勢いのままフリップジャンプして着地すると、湊斗と晴香を見据えて呟いた。
「邪魔しないでよ」
「湊斗……こいつ、なんか小さくないか?」
「……たしかに」
雨狐の言葉は無視し、晴香は周囲で狂乱状態にある人々を見回す。明らかに異常だ。先日の<殴り合いの街>のような精神汚染か、それとも別のなにかか──そこまで晴香が思案したときだった。
二人の背後で、異様な気配が膨れ上がった。
「「ツ!?」」
湊斗と晴香は同時に飛び退く。同時に、二人が一瞬前まで居た空間を鉄扇が薙いだ。
「あらあらー。思ったより早かったわね」
そいつは二人を追うことはせず、小さな雨狐に向かって歩み寄った。ガラン、ゴロン……と厚底の下駄の音が響く。湊斗は着地しながらその名を呼んだ。
「"ハノン"……!」
「覚えててくれて嬉しいわぁ、アマノミナト」
左手に鉄扇を持った花魁装束の雨狐は怪しく微笑むと、小さい雨狐の頭を撫でた。ふたりめの怪人の出現に人々の恐慌は一層強まり、周囲の狂乱はますます強まっていく。その中に子供たちも居るのを見て取り、晴香は唇をかんだ。
「……止めるぞ、湊斗」
子供への被害だけではない。狂乱の輪は広がっていく。先日の<殴り合いの町>の被害者たちのように取り返しのつかないことになる前に、対処せねば。
晴香は湊斗と共に敵を睨み、構える。
ハノンはそんな二人の様子を見てクスリクスリと笑いながら、子狐の背中を押した。
「この子は<つたう>。見ての通りの子狐だけど、面白いチカラを持ってるの」
「ひっ……ヒィィ……!」
その足元で悲鳴をあげるは、はじめに<つたう>がぶつかった大柄な男だ。ハノンと<つたう>、そして湊斗たちの姿を忙しなく見回しながら、彼は異常なほどガタガタと震えている。
「あらあらあら可哀想。怖いわよねぇ。私も、この子も、そっちで暴れてるニンゲン二人も」
「ひっ……ひぃっ……ひひっ……」
ハノンは悠然と、過呼吸気味のその男の顔を覗き込む。異形の双眸に射竦められ、その男は引きつった呼吸音をあげる。
「なっ……てめぇ、なにしてやがる!?」
「ヒアアッッ……ヒァ……ッ──」
「あらあらあら。怖い顔で大きな声を出すから気絶しちゃったじゃない。ああ、怖い怖い」
クスクスと笑いながら、ハノンは顔を上げる。その言葉を聞いて、湊斗は目を細めた。
「……恐怖を、増幅させるのか?」
「大当たりー!」
キャハハと笑いながら、ハノンは踊るようにその場で回りながら<つたう>の肩に手を置く。
「この子の力は珍しいのよー。紫陽花ちゃんの力と似ているけれど、こっちは人を操るんじゃなくて恐怖で壊しちゃうの。面白いでしょお?」
「こいつ……!」
「だーかーらー、そんな怖い顔しちゃだーめ」
拳を握った晴香に言いながら、ハノンはすいと手を上げ、手にした鉄扇で自分たちを取り囲む被害者たちを指し示す。
「この人間たちが恐れているのは、雨狐だけじゃないわよ?」
「なに……?」
確かに、被害者たちの視線の半数近くは晴香と湊斗に向いていた。
それは怪人と相対して臆さぬ者に対する畏怖か、それとも、これから晴香たちがズタボロにされるという想像からか──なにはともあれ、彼らは明らかに晴香たちに自分たちとは違うなにかを感じ取り、恐怖していた。
「そういうわけだから、あなたたちは動いちゃだーめ。まぁ、ここにいる人間たちが壊れても良いというなら、別にいいけどねぇ?」
「っ……!」
「私たちはただ歩くだけ。ちょっとそこまで、歩くだけ。さぁ道を開けなさい?」
自身を睨む晴香を嘲笑い、ハノンは再び歩みを進める。
晴香は、苦悩していた。確かに、晴香のせいで人々が苦しむのは本意ではない。しかし、雨狐の存在もまた恐怖の対象だ。なんの目的があってここに出現したかわからぬ以上、野ばなしには──
「そんなの、関係ない」
晴香の思案を遮ったのは、湊斗だった。
「なっ……湊斗!?」
声をあげる晴香に構わず、湊斗はカラカサの先端を敵へと向ける。カランと下駄の音と共に、ハノンと<つたう>が歩みを止める。
「あらあらあら? 良いのかしら? それを撃った音でびっくりして、誰かが死んじゃうかもしれないのよ?」
「構わない。お前らはここで倒す。それだけだ」
「ちょっ……湊斗、落ち着け!」
晴香が声を上げた、その時だった。
キィーーーンッッ!
「!?」
突如として、ステージから、ハウリング音が響く。晴香たちのみならず、狂乱状態の人々もその音に一瞬動きを止め、ステージを見た。その時。
『ンみなっっっっっさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!』
大音量で鳴り響いたのは、マーベラス河本の声だった。
「……は?」
その言葉を漏らしたのは誰だったか。
湊斗も、カラカサも、ハノンも、<つたう>も、そしてその場で狂乱していた人々も──ステージの上を見て唖然とした。
『皆さま皆さま静粛に! これからは僕のショーッッッターーーイム!』
ステージに、マーベラス河本が立っていた。
──ふんどし姿で。
齢50を超えても衰えぬその筋肉は雨を浴びてテラテラと輝き、マイクを片手にフレディ・マーキュリーのように拳を突き上げ、その男は──
全力で、歌い始めた。
『ずんっちゃっずんちゃっずんっちゃっずんちゃっ』
「……アカペラかよ」
晴香が無表情で言い放つ中、河本の歌声が広場に響く。
『なんだかすっごく怖いけどー! オイラは全! 然! こわくない!(Why~?)』
「な、なんで……? あの人間のひと怖くないの……?」
合いの手すら自力でこなすマーベラス河本。
それを見て不安げな声をあげたのは、それまで黙っていた<つたう>であった。
周囲の人々は河本のエネルギーに圧倒されているのか、立ち尽くしている。
『だって真夜中の山でクマさんと遭遇したときのほうが一億倍怖かった。なんたってなんたっておいらは全裸だったから! 全裸・だっ・たー・かーらー♪』
──……こいつはなにを言っているんだ。
河本が素晴らしいビブラートと共に歌い切ったその瞬間、広場全体の意識がひとつになった。雨狐の二人ですらポカンとして、ステージを見上げている。
『ずんっちゃっずんちゃっ! マーベラス! マーベラス! マベマベマーベラース(A-Ha!) マーベラス! マーベラス! マベマベマーベラース(Oh-Yeah!)』
すべてアカペラである。合いの手も自力である。そのメンタリティを目の当たりにして、人々は笑うことこそできなかったが──ほんの一時的に、恐怖を忘れた。
──そうしてできた空白を、湊斗は見逃さなかった。
「晴香さん、その人たちをお願い!」
「あ、おい!?」
白いレインコートを翻し、湊斗は二体の雨狐に向かって地を蹴る。先に反応したのはハノンのほうだった。
「あらあら、だめよぉアマノミナト?」
速度を乗せた蹴りを、ハノンはいとも容易く打ち払う。湊斗は姿勢を崩すことなく連続攻撃を繰り出し、ハノンを、そしてそのそばの<つたう>を狙う。
「ずんっちゃちゃずんっちゃ! ずんっちゃちゃずんっちゃ! なんか怖いと思った時にはおいらのことを見ると良い! 見て見てこの完璧な肉体腹筋シックスパーック!」
湊斗とハノンの攻防の最中、マーベラス河本の楽曲はラップ調のものへと変化していた。大音量で響く河本の声。人々は縫い止められたかのように、ステージから目を離さない。
「あらあらあら? おかしいわね、この状況で恐怖が動かないなんて──」
「知らねぇよ!」
怒鳴り声と共に、湊斗の蹴りがハノンへと繰り出される。それをバックフリップで回避し、ハノンは湊斗と距離をとり──その裾を、<つたう>が掴む。
「……あら?」
「……!?」
湊斗は目を見開いた。攻防の最中、<つたう>の気配を感じなかったのだ。ハノンもそれは同様だったようで、自身を縋るように握る<つたう>に驚きの表情を向ける。
湊斗とハノンの視線を受けながら、<つたう>はぽそりと声を漏らした。
「……は、ハノン様。こわい。あいつ怖い」
湊斗が眉を潜める。<つたう>が指さしているのは、ステージでコブシの効いた演歌を歌っているマーベラス河本その人である。
「……あら。あらあら」
その時、ハノンの顔から表情が失せた。彼女は冷ややかな目でステージ上の河本を、そして小狐へと視線を遣って。
手にした鉄扇で<つたう>を殴り飛ばした。
周囲の人々を薙ぎ倒しながら、<つたう>の身体が吹き飛ぶ。その様を見ながら、ハノンは言葉を続ける。
「あらあらあら……なんだかおかしいと思ったらそういうことだったのね」
「お、おい……!?」
驚きの声を上げたのは晴香だ。仲間……というか、子分を殴り飛ばしたハノンを、信じられないといった表情で見つめている。
「……!」
一方で、湊斗は迷わなかった。即座に傘銃を抜き、その先端を吹き飛んだ<つたう>へと向け、光弾を放つ!
「あらあらダメよぉアマノミナト」
光弾はしかし、射線上に出現したハノンによってあっさりと弾かれる。湊斗は再び間合いを詰める。ハノンはそんな湊斗に向かって鉄扇を振り下ろした。
「今は、私が、お説教中なんだから」
「うるせぇ!」
紙一重でそれを回避し、言い返しながらの渾身の蹴り。ハノンの側面に、湊斗の蹴りが突き刺さり──そのまま、すり抜けた。
「……!?」
「あら……?」
ハノンは空を見上げる。湊斗も、晴香も同じくだ。マーベラス河本の声が響く中、天気雨が弱まっていく。
「あーあ……強く殴りすぎちゃったみたい」
気だるげに呟いたハノンの身体は、みるみる内に透明になっていく。
「……まぁいいわ。またね、アマノミナト」
「っ──おい待て! 逃げるな!」
湊斗の叫びも虚しく、ハノンの姿は完全に透明になった。
──天気雨が止む。
観客たちが、バタバタと倒れ始める。ステージ上のマーベラス河本も、マイク越しに『あらぁ……?』と呟いたきり崩れ落ちた。
広場には、湊斗と晴香だけが立ち尽くしていた。
- 4 -
静かな病室に鳴り響くバイタルサインを聞きながら、晴香はベットに横たわる父親を──お笑い芸人・マーベラス河本を見下ろした。
「…………親父」
広場での超常事件発生から、2時間ほどが経つ。天気雨による強制的な"感情の共有"により、現場にいた多くの人々が病院に担ぎ込まれた。8割ほどの被害者はすぐに目を覚ましたが──マーベラス河本をはじめとした何名かは未だに昏睡状態にある。
晴香は、昏睡状態にある河本の顔を見つめていた。
──まともに顔を見るのは、7,8年ぶりだろうか。
「……顔の皺、増えたな」
しかし、以前と違い肌ツヤは良くなっている。凛が「最近かなり売れてる」と言っていたが、本当にそうなのだろう。なんせ以前はどん底のどん底で、光晴に金を借りにきては追い返されていたのだから。
思い返せば、昔は父が好きだった。子供のころ、道場で稽古をつけてくれたのは父だった。よく笑い、よく笑わせてくれた。母親と三人の食卓はとても幸せだった。それなのに──
「……なんでお前は──」
晴香の言葉は、ノックの音に遮られた。慌てて「おう」と答えると、扉が開く。入ってきたのはタキだ。
「被害者の状況確認、ひと通り終わりました」
「サンキュ。悪いな、丸投げしちまって」
「いいんスよ」
タキは昏睡する河本に目線を遣ったあと、被害状況の報告を始めた。
「ご存知の通り、担ぎ込まれた人のうちの9割はすぐに回復してます。ただ、現場で起きた出来事の記憶がある人は誰も居ませんでした」
「あん? ……湊斗か?」
「いや、湊斗くんはやってないそうで……雨狐の副作用な可能性が高いです。で、今も昏睡している人は35名。顔写真撮らせてもらいましたんで、見てもらえません?」
そうしてタキは、手にしたタブレットを晴香に示した。そこには被害者の顔写真が表示されているが──
「……なんか見たことある顔ぶれだな」
昏睡者の一覧を観て、晴香が呟いた。例えば雨狐に向けた敵意が雨を介して"伝わった"ことにより、尋常でなく怯えていた男など、表示されているのはあのとき晴香たちの周囲に居た者たちばかりだ。
「要は、あの子狐の近く居た奴がでかいダメージ喰らってるってことか」
雨狐が近いほど精神ダメージが大きい。わかりやすい話だ。湊斗や晴香は九十九神の加護を受けていたので被害がなかったのだろう。
納得した晴香に、タキが疑問を投げる。
「んー、でもそうするとわかんないのは河本さんなんスよね……あの時ステージに居たって話でしたよね?」
その言葉を受けて、晴香はベッドの上へと視線を移した。そこで眠るマーベラス河本のあの時の行動を思い返し──呟く。
「……全員の注目を集めたから?」
あの時、会場中がステージを……その上に立つ褌一丁の河本を見ていた。お笑い芸人といえど、その視線は怖かっただろう。その恐怖に耐えて、パフォーマンスをしていたのだ。
「なんだかすっごく怖いけどー! オイラは全! 然! こわくない!」
晴香たちの頭をよぎるのは、あの時河本が歌った謎の歌。その行動は、確かに事態を収束させたが──あの時彼は震えていたし、その顔は真っ青だった。
「……無茶しやがって。馬鹿野郎」
晴香の言葉を受けても、マーベラス河本は動かない。
──病室には、しばしバイタル音だけが響き続けていた。
***
「湊斗、カラカサ、調子はどうだ」
5分ほど後。病院の屋上にやってきた晴香は、"天気雨予報"を行っていた湊斗とカラカサに声をかけた。湊斗は胡坐をかいたまま振り返り、答える。
「もうちょっとかかるかな」
晴香は手にしたコーヒーを湊斗に手渡し、「よっこらしょ」と隣に座り込んだ。缶コーヒーを開けて、湊斗はカラカサを見上げたまま晴香に口を開く。
「お父さんの様子は?」
「相変わらず寝てやがる」
「そっか」
そんな会話の後、晴香もまた空を見上げる。青い空に浮かぶ真っ赤な番傘は、その場でクルクルと回りながら唸っている。
暫くの沈黙の後、口を開いたのは湊斗だった。
「……ねえ、晴香さん」
「ん」
「親父さんがもし目覚めとして……ちゃんと会話する?」
「…………どうだろうな」
湊斗の問いにそれだけ答え、晴香は視線を空から戻す。自分を見据える湊斗の視線を受け流し、晴香は遠くを見ながら言葉を続けた。
「ガキの頃、芸人の娘だってイジメられてたって話したろ?」
「やり返したって言ってたやつ?」
唐突に始まった昔話にも動じず、湊斗は相槌を打つ。
「そう。タキはああ言っていたけど、実際はちょっと違ってな……イジメやってる所に、親父が乗り込んできたんだよ」
「うん……うん?」
首を傾げた湊斗に笑いつつ、晴香の説明は続く。
「教室で“バカの子”だのなんだの言われて、ぶん殴ろうにも逃げ回るせいでなにもできなくて……悔しくて悔しくて、そんな時に、いきなりあいつが教室に入ってきたんだ。それも、止めようとしてる担任を引き摺ってだぜ? ビビったよあれは」
そうしてやってきたマーベラス河本は、持ち前の芸で全力で滑り倒した。そのあまりの面白くなさで凍りついた教室で、晴香はマーベラス河本を半殺しにした。鬼神の形相で父親をボコボコにする(ついでに担任やイジメっ子も巻き添えを食った)晴香を目の当たりにして──そのせいか、イジメはそれ以来なくなった。
「……まぁ、それをあいつが狙ってやったかはわかんないんだけどさ。なんかそういう正義感っていうか、そういうところだけは持った奴だったんだよな……今も昔も、空回りするけどさ」
呆れたように笑う晴香を見ながら、湊斗が問いかけた。
「今回、ああしてステージに上がったのもそういうことだったってこと?」
「んー。わかんねーけど……」
晴香は空を見上げる。思えば、父親のそういうところだけは好きだった気がする。
「……そうだと良い、とは思うよ」
「そっか」
『終わったよー』
微笑み、湊斗もまた空を見上げた。ほぼ同時に、カラカサの声が聞こえてきて、晴香は──そして湊斗もまた、頭を切り替える。
『んー……やっぱ、ちょっとおかしいね』
「なにがだ?」
妖怪の姿のまま湊斗のそばに降り立ったカラカサの言葉に、晴香が問い返す。
『ハノンの妖気は感じるんだけど、子狐のほうが全然なんだよね……』
「"漏れ出して"こないってことか」
『うん、たぶん……』
カラカサが頷く。晴香は、先日湊斗から聞いた話を思い返した。
──雨狐は天気雨と共に現世に顕現し、雨が止むと姿を消す。姿を消すと人間からは見えなくなるが、それでも雨狐の妖気は現世に対して漏れ出しているらしい。それは残留思念や幽霊のようなもので、カラカサの行う"天気雨予報"はそれを拾い集める行為なのだという。
そう考えると、例の小狐は妖気が漏れ出しておらず……つまり居場所の特定ができない。
妖気が少ないのか、質が違うのかはわからないが、先ほどの出現を予測できなかったのもそういうことなのだろう。
晴香はそこまで思案を巡らし、呟いた。
「厄介だな……」
そんな晴香の言葉に湊斗は「そうだね」と同意した上で、言葉を続けた。
「とりあえずハノンを追っかけてみるしかないね。なんか保護者っぽかったし」
「……それな」
湊斗の言葉に晴香は思案を深める。羽音に縋る素振りを見せた子狐。あれはまるで親に縋るようであった。そしてそれを鉄扇で殴り飛ばしたハノン──
「なぁ湊斗。あの子狐のあの扱い、どう思う?」
「んー……」
晴香のそんな言葉に、湊斗は缶コーヒーを啜って答えた。
「まぁ、少年兵というか……ロクなもんじゃないだろうね」
「無理矢理戦わされてる、とか?」
「いやどうかなぁ……」
湊斗の言葉は煮え切らない。彼がなにかいうより先に、晴香は言葉を続けた。
「だとするとなんか、そっちの意味でも厄介だよな。やりづらいというか……」
「…………うーん」
晴香の言葉に、湊斗はなにやら思案顔だ。首を傾げた晴香の胸元で、通信機が震えた。
『姐さん、湊斗くん。車準備できました』
屋上に、タキの声が響く。晴香は湊斗と視線を交わし、同時に立ち上がった。
「待ってろ、すぐ行く」
***
現場検証を行う警察、騒ぎを聞きつけて集まったマスコミや野次馬──先ほどの広場には、2時間前と同じくらいの人々が集まっている。
「着きました。──はい、はい。わかりました」
雨狐<つたう>は虚空へと言葉を投げ、不可視の何者かと2,3言やり取りする。その声音は、以前にも増して感情のない声だった。
雨狐<つたう>は袖口から取り出した物を空に掲げた。それは日の光を受けて虹色に輝く、ビー玉サイズの球体である。<つたう>はそれを人差し指と親指で握りしめ、砕いた。
パキンと澄んだ音が辺りに響く。
「雨、雨、降れ、降れ、母さんが──」
<つたう>は歌と共に歩き始めた。虹色の欠片が空気に溶けて消え、天気雨が振り始める。カメラや通信機が不能になり、突然の事態に人々は不安げな言葉を口にする。
「あれ……カメラ映んないな?」
「トラブルですか?」
「ん……雨?」
周囲の人々が声を上げ始める中、<つたう>は歌いながら人混みへと近づき──少しの間をおいて、現世に顕現した。
「うわっ!? バケモノ!?」
はじめに声をあげたのは近くにいた警備員だった。その言葉は周囲の人々の注目を集め──一瞬落ちた沈黙の中で、<つたう>は言い放つ。
「こんにちは、人間のひと。そこを退いてもらえますか?」
「ひっ──」
恐怖が、伝染する。
天気雨を介して広がる恐慌と狂乱の波。その中で、<つたう>は広場の中心にあるステージへ向かい歩みを進める。
「ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃっぷ、らんらんらん」
モーセが海を割るかの如く、人波が割れていく。人間たちの恐怖心は高まり続け、互いに殴り合いを始める者や自傷を始める者、失禁する者──様々な恐怖の形が顕現していく。
そんな広場で、歌いながら淡々と歩を進めるその異形はステージ前へとたどり着き、振り返った。
「ハノン様。着きました」
<つたう>は再び、虚空へと声を投げた。
少しの間をおいて、そのなにもない空間が滲み、ガランと下駄の音と共に、羽音(ハノン)が姿を現した。
「はぁい、良くできました。やっぱりこの下?」
「はい、この下です」
頷く<つたう>の言葉に羽音(ハノン)は「オッケー」と笑い、手にした鉄扇を開いた。それをテニスのラケットめいて振りかぶる。
「そぉれ」
羽音(ハノン)は気の抜けた声と共に、それをステージに叩きつけた。
──さしたる力を込めたようには見えなかった。それにも関わらず、辺りには耳が潰れるほどの轟音が響き渡り、鉄パイプと木材で組まれたステージがいとも簡単に弾け、吹き飛んだ。
そしてそれは空中でバラバラになり、広場へと降り注ぐ!
天気雨により恐慌状態にある人々には為す術などない。凄まじい音と共に瓦礫の雨が着弾し、湿った土埃が上がる。
羽音(ハノン)はその様子をしばし眺めていたが、不意に首を傾げた。
「……あら? あらあら?」
天気雨が土埃を洗い、瓦礫の散らばった広場が姿を見せる。瓦礫の雨に貫かれ、多くの人々が血を流し絶命している──と思いきや、なぜか人々は無事である。
「ハノン様、あれを!」
僅かな驚きを滲ませた声と共に、<つたう>が指さす先。そこには、青い空を滑空する謎の物体が見える。
「……なにあれ? 下駄──」
ハノンが眉根を寄せた、その時だった。
羽音(ハノン)の呟きをかき消すように、獰猛なエンジン音が鳴り響いた。
人々が転がるように道を開け、そこに現れたのは、白いミニバン。羽音(ハノン)たちは知る由もないが、それは<時雨>の車である。
雨狐を轢殺せんとフルスピードで突っ込んできたミニバンは、超常の緑風に包まれている。
「あら、あらあら」
妖力を身に纏った質量が高速で突っ込んでくる。しかしハノンは、余裕の笑みと共に首を傾げて。
「奇襲のつもりかしら?」
そのミニバンを、片手で受け止めた。
涼しい顔のハノンの足元に、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。車体は真正面からコンクリートの壁に激突したかの如く、ひしゃげ、潰れ、ついにその動きを止める。
ハノンはそこからミニバンのフロント部分を握り潰すように掴むと、車体を片腕で持ち上げ──
そこで、気付いた。
「あれ、誰も乗ってな──」
刹那。
ひしゃげた自動車の背後から、再度エンジン音が響く!
死角から飛び出したバイクは猛スピードでハノンの傍を通過した。
「なっ──!?」
驚愕の声をあげた羽音(ハノン)の視界の端で、白いレインコートが翻る。
バイクはハノンの後ろに控える<つたう>へと肉薄。ドライバーが手を伸ばし、その襟首を掴んで引き上げた!
「わッ!?」
バイクは速度を落とすことなく、ハノンから急激に遠ざかってゆく。子狐<つたう>と共に!
「っ──待ちなさい!」
ハノンは叫び、後を追うべく踵を返した。そして。
そこに、晴香がいた。
「ッ!?」
「っラァッ!」
晴香が放ったアッパーカットが、ハノンの顎を打ち据える。拳が纏う緑色の風は、ヒットと同時にその出力を最大にし、拳を起点とした竜巻を形作り──ハノンを上空へと吹き飛ばす!
「ガッ……」
呻いたハノンの周囲で、天気雨が消えてゆく。発生源である<つたう>が移動したことにより、雨が移動したためだ。
そしてそれは、ハノンの敗北を意味していた。
「お、おのれ、人間が──」
ハノンは竜巻によって装束を引き裂かれながら、呪詛と共に空に溶ける。
「……一昨日きやがれ」
怪人の姿が消えるのを睨みながら晴香は呟く。湊斗を追って駆け出した。
──合流地点は5キロ先、無人の岩山だ。
時は、5分ほど遡る。
「まずは確認だが」
タキの運転する車の中で、晴香は自ら立案した作戦を説明していた。
「厄介なのは二点。まずは雨を浴びた奴らの恐怖心が増幅されること。暴れているのが雨狐だろうと私らだろうと、ビビる奴はビビる。そんな恐怖心が増幅され、騒ぎが拡大する」
朝とは違い、大型の車両だ。ボックス型の後部座席で膝を突き合わせるのは、晴香、湊斗、そしてカラカサ。無線は切ってある。
「先ほどの被害を思えば、私らが原因で昏睡状態になる奴が出兼ねないし、それは避けたい。……いいな? 特に湊斗」
ジロリと睨んだ晴香の視線を、湊斗は苦笑いで受け流した。
「あっはは……その節はごめん。頭に血が昇っちゃって」
「ったく……」
晴香はため息をひとつ溢し、話を続ける。
「ふたつめは言わずもがな、ハノンの存在だ。あの戦闘力はシャレにならない……そこでだ」
晴香は言葉を切り、親指で車両後部に安置されたモノを指さした。
「私のバイクだ。タキに頼んで、本部から持ってきてもらった。私がこいつで子狐を連れ去る。そうすりゃ、湊斗はハノンとサシでやれるよな?」
『……マジ?』
そう問いかけたのはカラカサだ。
『確かに姐さんは狐に触れるようになったけど……でもそれって』
「危険は承知の上だ」
カラカサの言葉を遮った晴香に向かい、今度は湊斗が口を開く。
「危険もだけど、ちょっとそれだとマズいかも」
「マズい?」
「うん。実は……子狐が移動すると、天気雨も一緒に移動しちゃうんだ」
湊斗曰く、ハノンたち<原初の雨狐>はその強大な妖気ゆえ、自分の”雨”を降らせるのが困難なのだという。そのため、基本的には子分が天気雨を呼び出し、それに相乗りする形で現世に顕現している──
そんな説明を聞いて、晴香は頭を抱えた。
「マジか……てことは、子狐を拉致しても、しばらくするとハノンは消えるのか」
「しばらくっていうか、割とすぐに消えるんじゃないかな。だから多分、ハノンを仕留めるのは難しいと思う。……なので、晴香さんの作戦をちょっと変更しよう」
湊斗は力強い笑顔と共に、人差し指でバイクを指さした。
「あれには俺が乗る。晴香さんはハノンに一撃カマす。一気に引き離せば、すぐにハノンは消えるし、安全。どう?」
「え、お前バイク運転できるのか?」
「一応ね」
カラカサを一瞥しながら答えると、湊斗は再び晴香に視線を戻す。
「子狐はカラカサでも見つけづらい。だから、例えば晴香さんが運搬途中で手を放しちゃったら、そのまま見失うリスクもある。でしょ?」
言って聞かせるような優しい口調で話を続ける湊斗に、晴香は頷いた。
「そりゃ、そうだが……いいのか? ハノンのほうが大物なんだろ?」
その言葉に湊斗は「大丈夫」と微笑み、頷いた。
「……今大事なのは、確実さ、だよ」
晴香の気のせいだろうか。
そう言った湊斗の目は、昼間見た"人形のような目"だった気がした。
***
──そして、現在。
無人の岩山に、天気雨が降り注ぐ。
採石場と思しきその土地では、ショベルカーやクレーン等、様々な重機が天気雨を浴びて輝いていた。周囲の崖城壁のごとく、そんな重機たちを見下ろしている。
湊斗は採石場の中央までバイクを走らせると、そこで急停止させた。
「…………」
そしてその勢いを乗せ、手にしたそれを──もはや動かなくなった子供の雨狐を、崖へと放り投げた。
それは放物線を描いて崖まで飛び、べしゃりと濡れた音を立てて叩きつけられる。
「ぐゥぁッ……」
子狐は小さな呻き声をあげた。
その身体は右腕と右脚が根元から欠如し、左脚は膝から下が失われている。若草色であった装束は泥にまみれ、擦り切れ、もはや見る影もない。
時速120kmで走りながら、地面に何度も何度も押し付けたのだ。
「気を失わないように加減するのに苦労したよ」
湊斗はバイクを降り、冷たく言い放った。そして地面に落下したボロ雑巾のような雨狐に向かい、カラカサを先向ける。
「答えろ。お前らの目的はなんだ。なぜ、あの広場に二度現れた?」
その瞳はどす黒く、なんの感情も浮かんでいない。人形のように。
「…………う…………」
雨狐は答えない。湊斗は目を細め、引き金をひいた。カラカサの先端から放たれた光の弾が、再生しかけていた雨狐の左膝を消し飛ばす。
「ウアアアアッ!?」
「答えろ」
子狐の悲鳴に対しなんの感慨もない様子で、湊斗は威圧的な声と共に再度引き金をひく。放たれた光の弾が、今度は再生しかけの右脚を消し飛ばした。
定期的に発砲しながら、湊斗はズタボロの子狐へと歩み寄る。
「……答えろ」
「っグ……ハァ…………か、欠片……です……」
「欠片?」
「そう……カミサマの……かけら……」
「…………ああ、なるほど」
湊斗は得心したように呟くと、子狐の頭にカラカサを向けて言葉を続けた。
「お前たちはまだ、諦めてないんだな」
そうして湊斗は、引き金に指をかける。
「だいたいわかった。とりあえず今、楽にして──」
「ああ……そうだ……カミサマの……」
湊斗の言葉の途中で、<つたう>が呟く。湊斗は眉を顰めた。子狐の残った左腕が、自らの懐をまさぐっている。
「かけらを……使えば……!」
<つたう>の声に力が籠る。湊斗は瞠目し、引き金をひいた。
「っ……! させるか!」
光弾が放たれる。
しかしそれは、ただ地面を穿っただけだった。
子狐は左手一本で跳躍し、口にくわえたそれを──彼が"カミサマの欠片"と呼んだそれを、噛み砕く。
『ボクは、死なない! 死にたくない!』
拡声器を通したような歪な声と共に、子狐の身体が変異をはじめる!
欠損していた両脚の付け根から黒い大蛇が生え出で、互いに二重螺旋めいて巻き付き、結合し、巨大な一本の蛇へと姿を変える。
その蛇はヒトの胴回りほどの太さを持ち、長さは計り知れない。そいつは子狐の背中越しに鎌首をもたげ、湊斗へ向かって威嚇するように咢を開く。
『湊斗、これって!』
「っ──」
カラカサの問いかけに、湊斗は答えなかった。割れんばかりに歯を食いしばり、その目に浮かぶのは先ほどまでの人形の如き漆黒ではなく、より明確な、憎悪の色。
睨み付ける湊斗の視線の先、子狐の右肩からは別の蛇が複数生え出でた。それらは絡み合い、剣のような形状へと姿を変えた。
──いつしか天気雨は、その雨脚を強めていた。
雨に打たれテラテラと輝く黒い大蛇。その尾先で、<つたう>は白目を剥いてその剣を構える。蜷局を巻いた大蛇はその巨大な顎門を開き、歪んだ声で人ならざる咆哮をあげた。
ビリビリと揺れる大地の中、湊斗は敵を睨み、相棒へと呼びかける。
「…………行くよ、カラカサ」
湊斗はカラカサを天に差し向け、叫ぶ。
「「変身!」」
傘の先から白い光が放たれ、湊斗へと降り注ぐ。
光は天気雨に乱反射して虹となり、その身体に収束。光が収まったとき、そこに白銀の戦士"アマガサ"が佇んでいた。
「俺はアマガサ。この雨を止める、番傘だ!」
アマガサは黒き大蛇……<つたう>の成れの果てへと言い放つ。大蛇はとぐろを巻いたまま鎌首をもたげ、威嚇するように牙を剥いた。
そして先に動いたのは、大蛇である。
「────────!!」
咆哮と共に、大蛇の口から火球が放たれる!
「チッ!」
音速で飛び来たそれを、アマガサは横跳びして回避した。火球はアマガサを掠めて地面に着弾し、融解せしめる。膨大な熱量に天気雨が蒸発し、大量の水蒸気が立ち上る。
アマガサは受け身を取って起き上がると、即座に駆け出した。間をおかず、彼が居た場所に火球が立て続けに着弾、炸裂する。
火球は途切れることなく放たれ、アマガサを追いかけるように降り注ぎ、大地を灼き尽くしていく。
『うひゃあ、キリがない!』
手元でカラカサが悲鳴をあげる。アマガサは走りながら歯噛みし、打つ手を探して思考を巡らせる。
大蛇の姿は、立ち込める白煙の向こうに掻き消えて見えなくなってしまった。隙をついて放った光弾にも手ごたえがない。崖に追い込まれるのも時間の問題だ。
「……仕方ない」
そこまで考えた後、アマガサはそう呟いて、相棒に声をかけた。
「カラカサ、ちょっと我慢」
『うええ。やっぱそうなる?』
カラカサが嫌そうな声をあげる中、黒き大蛇が再び火球を放つ。水蒸気の向こうから、狙いすましたように飛来する火球。アマガサはそれを睨み据えると、傘を開き、火球を受け止める!
衝撃と熱が、アマガサを襲う!
『うひゃあ、痛いし熱い!』
カラカサが悲鳴をあげる中、アマガサは白煙の中心へと進路を変更。立て続けに飛来する火球を時に回避し、時に傘で防ぎながら、白煙の中心付近へと踏み込み──
その時。
『湊斗、伏せて!』
「っ!?」
咄嗟にスライディングしたアマガサの鼻先で、大蛇の咢が咬み合った。
「シュシュシュ……」
大蛇は口惜しそうに声を漏らし、アマガサを睨む。虹色の澱みを湛え、十字の瞳孔が浮かぶ不気味な瞳──
「このォッ!」
至近距離にあるその瞳に向かい、アマガサは拳を突き刺した。
「──────────!!?」
大蛇が不快な悲鳴をあげながら、我武者羅に頭を振るう。アマガサはその頭を蹴って空に身を躍らせる。
「行くよカラカサ。この雨を、終わらせる!」
『妖力解放!』
空中で畳んだ番傘に──その砲身に、妖力が集まる。アマガサは大蛇の頭に狙いを定める。
「明けない夜はない、止まない雨はない」
降り注ぐ天気雨が虹色の輝きに包まれる。虹の帯は、のたうつ大蛇を、そしてその尾先の<つたう>を拘束する。
「──────…………!!!」
「この雨は、俺が止める!」
『全力全開! 撃てェーッ!』
カラカサの声と共に、眼下でもがくへとむかって引き金をひく。
「─────────!! ────…………」
大蛇が、<つたう>が、断末魔の悲鳴を上げた。カラカサから放たれた極白色の光の奔流はその悲鳴すら呑み込み、怪人を、怪物を消滅させる。
──天気雨が、止む。
ただ青いだけの空の下、アマガサはひらりと着地した。そして変身を解除し、黒き大蛇が居た場所へと歩み寄る。と──
「湊斗!」
「ん。晴香さん。お疲れ様」
『おつかれ! 早かったね?』
「ああ。……それより、さっきのデカい蛇はなんだ?」
「んー……」
湊斗は、少しだけ考えて。
「……わからない。<つたう>が突然、変異した」
──嘘を、つくことにした。
「そうか。にしても、厄介だな……」
『…………』
現場検証に当たる晴香と、それを手伝う湊斗。
カラカサはそんな様子を、無言で見つめていた。
- エピローグ -
「湊斗、醤油とってくれ」
「はーい」
『サッパリテレビ! 本日のゲストはー!?』
ずんちゃんずんちゃん。
朝の情報番組の賑やかな音声がダイニングを満たし、湊斗たちはそれを聞き流しながら朝食を口に運ぶ。そうこうしているうちにタキが味噌汁を啜ってムセて、晴香が「お前マジやめろ汚ねぇな!?」とキレている。
そんな、穏やかで平和な団欒のひと時がしばし続き──
「ぐっっっもーにんえぶりわん! 今日も一日頑ブゴアッ!?」
ダイニングに現れたその男──マーベラス河本は、晴香がフリスビーの如く投げ放ったお盆を眉間に喰らい、撃沈した。
「痛っててて……ちょっと、晴香? マイスイート晴香ちゃん?」
「軽々しく名前を呼ぶな」
頭を押さえながらヨロヨロと立ち上がった河本を睨み、晴香は言葉を続ける。
「だいたいお前なんで当たり前のようにここにいるんだ。家に帰れ」
「仕方ないじゃーん! 退院したばっかでさ! 晴香はお見舞いにもきてくれないし! 心配じゃない? だってパパだよ!?」
「今更父親ヅラすんな。殺すぞ」
晴香は冷たく言い放ち、味噌汁をひと啜りする──
湊斗はそんな様子を呆れた表情で眺めつつ、隣にいるタキに小声で話しかけた。
「やっぱまだ、仲直りはできないっぽいね」
「そうだねぇ。ああでもほら、あれ」
言いながらタキが指さす先には、伏せたままの茶碗と箸、そして湯気のたった味噌汁。先ほどタキがよそったものだ。
「ったく……」
湊斗がそちらを見たとき、ちょうど晴香は口論をやめ、その茶碗の方を指さして。
「とりあえず食うならさっさと食え。味噌汁が冷めるだろ」
ぶっきらぼうに、そう言った。
その瞬間、マーベラス河本は花が咲いたような笑顔になる。
「い、いいの!? 食べてっていいの!? 追い出さないの!?」
「あん? 追い出してほしいなら追い出すぞオラ」
「ごごごごめんそんなことない!」
ギャーギャーと喚く親子の様子を見て、タキと湊斗は顔を見合わせて笑いあった。
「ね? ほんのちょっとだけど、前進」
「確かに。大きな一歩かも」
などと言っている間に、マーベラス河本は食卓につき──
「やったー!」
唐突に叫んだ。
「喧しいぞ元春。飯くらい静かに食え」
今度は光晴がオシボリを投げつけるが、当の本人には効果なしだ。
「だって父ちゃん! 晴香が! 晴香がご飯一緒に!」
「だから声がデカいと言うとるんだ!」
「いちいち騒ぐなクソ親父!」
そうして親子三代でギャーギャーと騒ぐ様子を見ながら湊斗は笑う。
「あんたは逃げなさい!」
「お兄ちゃんは、私が守るよ」
「お前はまだ間に合う! 行けェッ!」
──そしてぽそりと、呟いた。
「……家族」
「ん、湊斗くんなんか言った?」
「いや、なんでもないよ」
頭を過ぎった声をかき消して、タキは湊斗に微笑みかける。首を傾げたタキに向かって、マーベラス河本が叫んだ。
「おかわりィーッ!」
「あ、はいはい今すぐ」
「お前米粒飛ばすなバカ! タキ! こんなやつの分よそってやる必要ねーぞ!」
そんなやり取りに、湊斗はカラカサと一瞬目を合わせ、ふっと笑って、呟いた。
「賑やかだね」
『悪くないもんだねー』
「うん、そうだね」
カラカサの言葉に、湊斗は小さく頷いた。
河崎道場の朝食は、賑やかに続く。湊斗は茶碗を空にして、「俺もお代わり!」と声をあげるのだった。
その後、河本が熱々のお茶を零して、浴びたカラカサが悲鳴をあげるのだが……それはまた、別の話。
(第3話終わり。第4話「英雄と復讐者」に続く)
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