装震拳士グラライザー_設定集__8_

ウェイクアップ・クロノス Part12 #刻命クロノ

刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」

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前回のあらすじ
 ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年・暁 一希(イッキ)の目の前で、刻命戦隊クロノソルジャーは怪人ヤミヨの幹部たちとの無謀な戦に挑む。
 ヤミヨの幹部たちの目的は、クロノソルジャーを絶望させ新たな幹部怪人を生み出すことであった。その目論見通りグリーンとブルーが失意に落ち、イエローとピンクが戦闘不能になる中で、イッキは──

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「よぉ、ボウズ。無事か」

 胸の内に、夏彦さんの声が響く。

 僕はまた、逃げるのか。

 僕を守ってくれた人が死ぬのを、ただ見届けるのか。

 僕は。

「わりぃな、少年」

 僕は、あんな想いはもう、したくない。

 拳を握りしめた僕に、巨大テーカクの影が掛かる。見上げた先で、そいつは青い瞳を爛々と輝かせ、牙を剥いて笑っている。

「ンギャハハハ! じゃ、テーカク、ひと思いにぷちっとやっちゃおう!」

 リューズの楽しそうな声が聞こえる。

 ノゾミさんとカオルさんはもう、立ち上がることすらできないようだった。このままでは、彼女たちは殺される。そしてハルさんとメガネさんは、人ではなくなってしまう。だけど。

「俺は、いや、俺たちは、あいつらを倒さなきゃならねぇ。だからここで終わるわけにはいかねぇ」

 ここで終わるわけには、いかない。

 助けなきゃ。

 僕が、助けなきゃ。だって。

「今日から、お前がレッドだ」

 ──だって僕は、レッドだから。

「ンギャハハハ! それではいってみよーう! 判! 決!」

 左の手首が、熱い。

「死刑ッ!」「ヌェぃッ!」

「やめろ!」

 巨大テーカクが拳を放った瞬間、僕は夢中で叫んでいた。同時に──

 ガゴンッ!

 僕の真上から、激突音。

「ぬぅっ……!?」

 巨大テーカクが唸り、睨む先。そこでは、横転していたはずのクロノモービルが手を伸ばしていた。

 手を伸ばす。そう、手だ。正確に言えば、ボンネット部分が半分に割れて機械の腕を成し、巨大テーカクの拳を受け止めていた。

「こ、これは……!?」

 横転していたクロノモービルはいつしか人型のロボットへと姿を変えていた。うつ伏せだったそいつは跳ね起き、その勢いのままに巨大テーカクの頭にソバットを叩き込む!

「ぬごぉっ!?」

「おおぉっ!? またなんかの助けかい!?」

 その時、リューズが、いや、その場にいた全員が空を仰いだ。

 ただ一人、僕を除いて。

「ッあああ!」

 僕は眼前に突き刺さっていたノゾミさんの大剣を手に、地を蹴った。超質量のその大剣を渾身の力で振り上げて、リューズに叩きつける。

「んなッ!?」

 金属音と共に、火花が散る。

「おおぃ少年!? そういう火事場の馬鹿力は逃げるのに──」

 その時、僕の身体は自然に動いていた。

 大剣が受け止められるのと同時に、柄から手を離す。火花と大剣を目眩しにして、僕はリューズの視界から消える。

「──使ったほうが賢いと──」

 そして僕は、大地に伏せた。

 重力に引かれて、大剣が落ちる。それは僕の背中に対して平行に、まるでカメの甲羅のように、僕の背中に覆いかぶさった。

「──思う……んぇっ!?」

 同時に、リューズの視界が開ける。

 その先では、人型となったクロノモービルが、腕先のガトリング銃をリューズに向けていた。

「撃て!」

「待────」

 声をあげる間もあればこそ。

 僕の声に呼応して火を吹いたガトリング銃が、リューズの身体を穴だらけにした。

 ボロ雑巾のようになったその身体はそのまま力を失い、それでもなお弾丸の嵐を浴びながら、吹き飛んでいく。

 左手首が熱い。僕の全身に、力が巡る。

 粉塵が煙る中、僕は立ち上がって左手首の時計に触れた。そしてそこに浮かんだ文字列を──クロノレッド専用武器の名前を、宣言する。

「クロノメタル、ジャケット!」

>>Wake Up:: Chlono-Metal Jacket

 直後、僕の上半身を光が覆った。ハルさんたちが武器を呼び出したのと同じように、その光は一瞬で実体を得る。

 敵も、味方も。戦場の視線が一斉に僕に集まる、そんな中。

「夏彦……くん?」

 その声は、僕の背後から。

 視線を遣ると、地に這いつくばるノゾミさんが、僕のことを眩しそうに見つめていた。その横では、目を覚ましたカオルさんが驚いた様子で声をこぼす。

「しょ、少年……? どしたん、その上着?」

 ばさり、と。

 その真紅の革ジャンが、はためいた。

 病院着の上に羽織ったそれは、夏彦さんの革ジャンと同じものに見える。ただし、はじめから僕の身体に合わせたかのようにぴったりのサイズだ。背中には青空と太陽をバックに、大きな鳥居の絵が描かれていた。

 力強い熱は、いまや左の手首だけでなく、僕の上半身を覆っている。

「大丈夫、お前なら、大丈夫だ」

 夏彦さんの声が、聞こえた気がした。

「なっ……え……は?」「少年……?」

 失意のハルさんが目を見開いた。メガネさんが顔を上げた。彼らの身から立ち昇る黒い靄は、少し減ったようだった。

「予想外だね、ベゼル」

「ええ、予想外ね、ダイヤル」

「おいおい、リューズの奴は大丈夫かあれ?」

「まぁ奴なら死なんでしょう、恐らく。きっと」

 口々に言いながら、ヤミヨの幹部たちが僕を睨み、得物を手にする。僕はその様子を見回すと、震える脚をひと叩きし、大きく息を吸い込んだ。

「ノゾミさん、ハルさん、カオルさん、メガネさん。……お願いです。ゆっくりでいいから、立ち上がってください」

 左腕の時計に手を添える。

 使い方は、さっき見た。竜頭部分のダイヤルを押し込むと、ガコンと歯車が噛み合うような音があたりに響き渡った。

「……その時間は、僕が稼ぎます!」

 そして僕は、クロノスバンドのダイヤルを弾いて。

「ウェイクアップ、クロノス!」

 渾身の力で、叫んだ。

(つづく)


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