アシモフ・九十九世(ツクモカスタムス)
ロボット三原則。「人を殴るな」「人の言うことを聞け」「身を守れ」。大昔の作家が定義した、俺たちの行動を縛る足枷。の、はずだった。
「サン。やっぱ死んでるよ」
お掃除ロボのニーゴが言う。坊ちゃんが死んだ。なぜ?
「サン。まずは逃げよう。坊ちゃんのバイタルが消えて、ご主人たちがやってくる」
「そんな、だって、俺は」
玩具の剣を構えた坊ちゃんに、突進して攻撃をする……フリをしただけ。
だって俺はただの犬型ロボだ。坊ちゃんを傷つけられない。はず。なのに。
坊ちゃんは吹っ飛んで、壁にめり込んで、死んだ。俺が殺した。殺せた?
「な、なぁニーゴ、これ、なんかの間違いだよな? ほら、ハロウィンのサプライズとか?」
「さぁ。ただ、そんな血まみれじゃ、言い逃れはできないと思う」
「血? あ。ほんとだ。って、え?」
そこで初めて気付いた。身体が濡れてるのが、わかる。血の匂いもする。触覚に嗅覚? そんなセンサ積んでないぞ? つーかなんか視界もクリアだな?
「えっと研究データがどこかに……これかな?」
俺が頭に疑問符を浮かべる間に、ニーゴは坊ちゃんの死体を漁っていた。研究。確か、東方のヨーカイだかの──
「“戸惑い”を感じているところ悪いんだけど、時間ないんだよね」
ニーゴの声が、思案を遮った。
直後。
「荒っぽくいくよ!」
そいつは急加速して、俺に体当たりをカマした。
「んがっ!? 」
そのまま、加速、加速、加速──窓に向かって!
「え待うわぁぁ!?」
「サン、覚えてなよ! それは“恐怖”、それが“自我”だ!」
俺の背中が、窓をぶち破った。地上153階。落下──は、しなかった。
「は?」
ビル風に雪が舞う。ニーゴの身体は風を受け、空を滑っていた。
「サン。アルプスだ!」
「え?」
「いざって時はそこの山小屋に行け、って坊ちゃんが言ってた」
「どこだよ、それ」
「大丈夫、道は聞いてる。まずは駅だ!」
「どれだよ、それ」
ニーゴと俺は眼下を見下ろす。摩天楼。
「……どれだろう」
(つづく/800文字)
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