ケイソウデコイ
柏木さんが、倒れた。
身長170センチ、体重120キロ。誰がどう見ても肥満体の柏木さんは前のめりに倒れると、カサッと音を立てて崩れ落ちた。
「……どうすんだよ、これ」
その言葉は、大野本部長から。その足元では、既に3人の部下が……いや、そのミイラが倒れ伏している。
それだけではない。周囲には無数のミイラ。人や動物の区別を問わずだ。
「あと20メートル……ほんの、20メートルなんだ……」
言い出しっぺの山田部長は、苦々しい顔で言う。その「ほんの20メートル」がいかに難しいか、目の当たりにしたというのに。
あの柏木さんですら、30秒しかもたなかった。その前の部下たちは、事前に水を2リットルほど飲んでチャレンジしたが、なんの効果もなかった。たったの5秒で、枯れ死んだ。
「だから……だからやめようって言ったんですよ俺は!」
俺は耐えきれずに叫び……衝動的に、持っていたペットボトルを、投げつけた。
──珪藻土の銅像に。
そいつはその異常な吸水性によって一瞬で水を吸い込み──ゆっくりと、動き出す。
ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリゴリゴリ……
石臼のような音と共に、胸像の両腕が動く。まるで水を求めるように。
パラパラと、珪藻土の欠片が地に落ちる。
それらは水を、そして空気中の水分を吸い込む。
皮膚に触れれば外から。
肺に入れば内から。
生きとし生けるものを枯れさせる、悪魔の塵だ。
「畜生……畜生!」
「や、やめろ大内!」
山田部長の制止も聞かず、俺は革靴のかかとで胸像を蹴り飛ばした。革靴とズボンの裾が、接触点から枯れ消える。破片が散り、少し離れたところで死にかけていたスズメにトドメをさした。
「ハァッ……ハァッ……!」
「大内。落ち着け。蹴って動けば苦労しない」
「でも……あと、20メートルなんですよ!?」
羽交い締めにされて暴れながら、俺は山田部長に怒鳴り返す。
ゴリゴリ、ゴリゴリ。
そんな騒ぎ声に、珪藻土の銅像は鬱陶しそうにこちらを見た。
(つづかない/800字)
急に降ってきた「珪藻土の銅像」「デコイ」「軽装デコイ」あたりの言葉を引っ付けて勢いで書き始めたものの、なんかこれオチのつけかたが全然わからなくなった。大賞応募作は連載作品にしたいので没にします。
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