万雷の手拍子をもう一度
「百万円?」
「そう、三日で!」
「いや絶対詐欺っすよそれ」
「いやマジなんだって!」
呆れる俺に金澤センパイはニカッと笑って、自信満々で言葉を続けた。
「三日で百万円集めれば、一億円もらえるんだって!」
三年前と変わらない、小汚くも爽やかな笑顔。相変わらず前歯が1本と、ついでに猜疑心と警戒心と、計画性と知能も欠けている。
「で、それでコンビニで暴れてたんスか」
「いつまでも店員が金出さねーのが悪りぃよあれは」
「いや多分、マジでなんて言ってんのかわかんなかったんすよ」
パトカーの音がする。……コンビニ強盗未遂、か。一緒に逃げちゃったし、俺も共犯だと思われてんのかなぁ。
「とりあえず逃げましょ。俺、チャリでいいっすか?」
「おう、走るわ! はは、なんか久々だな?」
「……。つーかその包丁、目立つから隠してくださいよ」
「あー。どうしよ。鞄とか持ってねぇんだ。あ、カゴ入れとくな!」
「いやレジ袋に裸で入れないで! 危ないから!」
チャリのカゴに放り込まれたビニール袋に、慌ててカバンを載せる。畜生。あとで絶対捨てる。
それにしても。結構頑張って漕いでいるんだが、センパイは平然と並走している。……昔からこうだ。脳みそまで筋肉が詰まっていて、滅茶苦茶やって。そんで。
「そうだ、おめーも手伝ってくれよ! 山分けで!」
「え、嫌っすよ。ケンカとはワケが違うっつーか──」
「まぁそう言うなって! センボンガハラさんには俺から口きいてやっからよ!」
「え?」
センボンガハラ? 千本ヶ原っつったか今この人?
「うおっ!? いきなり止まんなよお前!」
「……その千本ヶ原って?」
「ん? 俺にこの話を持ってきた人だよ。若けーのにしっかりしてて──」
その話は、殆ど耳に入ってこなかった。
千本ヶ原。そんな名前の奴が二人も三人も居てたまるか。
ウチの、元ベーシスト。メジャーデビュー資金を持って、失踪しやがったクソ野郎。あんときの百万円があれば今頃は──ん? あ!?
(続く)
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