装震拳士グラライザー_設定集

ウェイクアップ・クロノス Part13 #刻命クロノ

刻命部隊クロノソルジャー
第1話「ウェイクアップ・クロノス」

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前回のあらすじ
 ここは常夜の呪いがかけられた日本。クロノレッドこと鳥居夏彦が命を賭して守った少年は、暁 一希(イッキ)という。
 怪人ヤミヨの襲撃により、イエローとピンクは戦闘不能、ブルーとグリーンは失意の底で怪人の人柱となりかけていた。クロノソルジャー、全滅の危機。その時、イッキは──

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 僕は、クロノスバンドのダイヤルを弾いて。

「ウェイクアップ、クロノス!」

 渾身の力で、叫んだ。

 僕の全身を、陽光の如き光が包み込む。真っ白になった視界の中、僕の全身をスーツが覆ってゆく。それは確かな熱を持って僕の命を震わせる。

「イッキくん!?」

「ぬぅ!? あの童も変身するのか!?」

 クロノソルジャーの面々が、そしてヤミヨの幹部たちが、口々に色めき立つ。それを聞きながら、僕は光の中から歩み出した。

「僕は……僕たちは、あいつらを倒さなきゃならない。だから、ここで終わるわけにはいかない」

 カチ、カチ、ガコン。歩調とリンクするかの如く、時計の音が鳴り響く。

「だから、無理言ってごめんなさい。立ってください。諦めないでください」

 数歩進んで立ち止まる頃には、僕の全身を真紅のスーツが包み込んでいた。

 それは、夏彦さんが遺したもの。

 僕に、託されたもの。

「……ヤミヨ。クロノレッドは、クロノソルジャーは、死なないぞ」

 月の光を一身に浴び、ヤミヨたち、ノゾミさんたち、なにより自分自身に言い聞かせるために。そして、夏彦さんに届けるために。

 僕は、ありったけの声で、叫んだ。

「今から僕が……クロノレッドだ!」 

 夜の闇を切り裂いて、僕の声が街を揺らす。警戒するように得物を構えるヤミヨたちの中で、鬼の少女・ビジョーが不敵に笑ってみせた。

「その意気や良し。……ユーカク、遊んでやんな!」

「ハッ!」

 ビジョーの声に応え、ユーカクが一歩踏み出した。石柱の如きハンマーを手に、彫刻の如き巨人はずしんと地を踏みしめて──

 刹那、その姿がかき消えた。

「変身しようと、中身は素人よなぁ」

 次の瞬間には、ユーカクは僕の背後にいた。

「今ここで! 殺ォす!」

「っ……!」

 振り返るが、時すでに遅し。ユーカクの石柱の如きハンマーが、僕の頭に向かって迫りくる!

 僕は、来たる衝撃に備えて身を固くした。しかし──それよりも早く訪れたのは、ぐいっと引っ張られるような感覚だった。

 死の予感で鈍化する主観時間の中、僕の身体はひとりでに動いていた。

 振り返った姿勢から、ハンマーに添えるように左手が伸びた。更に軸足は残ったまま、反対の足がすいと後ろに下がる。そうして小さく身を退いた僕の鼻先を、ハンマーが掠めていく。

 僕の主幹時間が元に戻ったのは、アスファルトが砕けて礫が身体を打つ頃だった。ヘルメットのバイザーにはいつの間にか、[Assist Mode]と赤い文字が浮かんでいる。

「ほう、避けおるか! だが、まだまだァッ!」

「わっ!?」

 獰猛な笑みと共に、ユーカクが今度はハンマーを振り上げる。しかし、それに反応するように、僕の上半身はひとりでに仰け反った。

「やるではないか童ァッ!」

「うわっ!? わわわ!? ちょっ!?」

 立て続けに放たれるユーカクの攻撃を、僕は紙一重で回避してゆく。その間も、バイザーの片隅では[Assist Mode]の赤い文字が点滅を続けていた。どうやらこのスーツは、僕の身体をある程度勝手に動かしてくれるらしい。

「そ、それなら……!」

 スーツの回避機構に身体を委ね、僕は拳を握りしめた。途端に、バイザーの正面に[ATTACK]の文字が浮かぶ。照準はユーカクの右肩だ。

 僕は覚悟を決めて、そこに拳を突き出さんとする。同時に、またもや全身に引っ張られるような感覚がした。

 回避の姿勢から、僕の重心がずしりと落ちる。両脚は大地を踏みしめ、そして拳が引き絞られ──放つ!

「このっ!」

「ヌゥッ!?」

 ユーカクはその拳を、身を捩って回避した。ブオンッと風の音と共に、ユーカクの肩布が裂ける。

「おわっ!?」

 僕は殴った勢いのままつんのめった。そのまま2,3歩進んでバランスを取りつつ、ユーカクとの間合いを取る。

 全身が、嫌な汗をかいていた。怖い。もし回避機構がなかったら、僕は今だけで何度死んでいただろうか。

 ……などと僕の意識が逸れた、その時だった。

「意外とやるね、ベゼル」

「ええ、意外とやるわね、ダイヤル」

「ッ!?」

 僕の左右から、双子の声。同時に、バイザーに[CAUTION]の文字が浮かぶ。視界の片隅で、双子が突っ込んでくるのが見えた。ロケット頭突き。咄嗟に回避を念じるが……間に合わない!

 ゴギン。

 僕の身体から、そんな音がした。

 遅れてやってきた衝撃は、小さい頃に交通事故に遭ったときと同じかそれ以上にひどいものだった。 

「がッ……」

 口の中に血の味が広がる。全身が痛い。浮遊感。身体が宙を舞っている。くるくる。痛い。落下。叩きつけられて。バウンド。痛い。怖い。痛い。

「早めにとどめを刺すよ、ベゼル」

「ええ、早めにとどめを刺しましょう、ダイヤル」

 呻き声すら上げられずに這いつくばる僕の上空から、双子の声がする。再び訪れた死の恐怖。動けぬ僕の耳に、刃物が鳴る音が響く。

 二人は情けも容赦もなく、僕に向かって急降下をはじめて。

「クロノバスター!」

 その時、ハルさんの声がした。

 少し遅れて、発砲音と双子が「「わっ!?」」とあげた声が聞こえた。同時に僕の身体に誰かが覆いかぶさり、ゴロゴロと転がされる。

「……!?」

「少年、息はあるか!」

 がばっと起き上がったのは、メガネさんだった。双子の一撃から僕を逃がしてくれたようだ。心配そうに僕を見つめる彼の向こうでは、ハルさんが双子とヤミヨの一団に向かって光線をばら撒いている。

「ッ……は、はい……なんとか……」

 僕はふらふらと立ち上がりながら、答えた。全身が痛い。メガネさんに肩を借りて立ち上がったその時、ハルさんが僕らの傍にやってきた。

「夏彦さんにゃ程遠いが、根性あるじゃねぇかガキ」

「すまなかったな、無理をさせて」

 僕のそばに、ハルさんとメガネさんが並び立つ。

「痛ったたた……あーもう、帰ってお風呂入りたーい!」

「そうね、早く帰ろう。イッキくんも、ユーリちゃんも、一緒に」

 僕の後ろから、カオルさんとノゾミさんの声。ズタボロの二人は、それでも力強く僕の肩を叩いて、同じく並び立った。

 ヤミヨの一団と、クロノソルジャーが睨み合う。そんな中、ノゾミさんは僕のほうを振り仰ぎ、微笑みと共に言葉を続けた。

「早く帰って、歓迎会しなきゃだしね!」

「皆さん……!」

「啖呵切ったからにゃ、お前も覚悟を決めろよ、ガキ」

 ぶっきらぼうに声を投げ、ハルさんが時計に触れる。腕輪が鳴らすガコンという音を聞きながら、僕はふと言い返してみた。

「イッキです」

「あん?」

「僕の名前。暁一希(アカツキ・イッキ)です!」

「……ヘッ」

 ハルさんが不敵に笑い、他の3人もどこか吹っ切れた様子で時計に触れる。ガコン、ガコンと歯車が噛み合って、力強い音が僕らの周囲に響き渡る。

「イッキに負けんなよお前ら! 行くぜ!」

「上等だ」

「うん、行こう!」

「レッツゴー!」

 そして彼らは声を揃え、ありったけの声で叫ぶのだった。

「「ウェイクアップ・クロノス!」」

 ──天国まで、届くように。

(つづく)


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