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補遺6: WIRED連載『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』第6回「互助の感性が生み出す新しいネイバー」

雑誌『WIRED』Vol.41(2021年6月14日発売)掲載の『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』第5回「互助の感性が生み出す新しいネイバー」の補遺です。
紙面の都合上、掲載できなかった脚注、参照文献等をここで扱わせていただきます。


注1)

Alphbet Workers Union (AWU)のミッション・ステートメントとバリュー・ステートメントはこちら。
https://alphabetworkersunion.org/principles/mission-statement/

注2)

テック企業の労働組合のなかには、アマゾンの物流倉庫でのワーカーの労働条件・環境の改善を求める動きや、ウーバーの運転手・配達員などのギグワーカーたちが「労働者」に該当するか否か等の労働者を巡る古くて新しい問題も依然として存在していることは指摘しておかなければならない。

注3)

新しく成立した労働者協同組合法のなかで争点となっているのが、同法20条1項で、組合員(業務執行組合員や理事のみの職務を行う組合員、監事は除く)との間で労働契約の締結が義務づけられたことの是非である。
協同組合は活動目的を共有する相互扶助組織であるため、いわゆる「やりがい搾取」的な構造に陥りやすく、ワーカーズ・コープやワーカーズ・コレクティブと呼ばれるような組織において、低賃金・長時間労働等の労働環境に対する懸念が指摘されてきた。そのため、新法では組合員との間で労働契約の締結が求められることになった。
しかし、ワーカーズ(労働者協同組合)には「資本が労働を雇うのではなく、労働が資本を雇う」という有名なテーゼがあるように、主体的な労働、雇われない働き方を追及することに意義がある一方で、このように労働者性が前景化することで、最低賃金をみたすことができないのではないかという不安や、ワーカーズの意義がかえって失われてしまうのではないかという懸念等が指摘されている。今後、新法がどのように運用されていくのか、注視していきたい。

注4)

本稿でも述べているとおり、従来から株式会社に協同組合的な手法や要素を取り入れる手法や取組みはいくつかあり、例えば、日本だとテレビ番組等の制作会社であるテレビマンユニオンがある。
株式会社ではあるが、「ユニオン」の名が示すように、メンバー全員が株主であり、役員はメンバーの互選で選ばれるといった「メンバーシップ制」と呼ばれる、組合的な会社運営がなされる。また、組織の基本三原則として「合議・対等・役割分担」を置いている。このあたりは、テレビマンユニオン創設期の経緯や思想が記された萩元 晴彦、村木 良彦、今野 勉による『お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か』を参照のこと。

注5)

「Bコープ互助宣言(THE B CORP DECLARATION OF INTERDEPENDENCE)」の「interdependence」は「相互依存」「相互扶助」という翻訳が当てられることが多いが、ここではあえて「互助互恵」という訳語を与えている。「依存」という日本語にあるネガティブなニュアンスがそぐわないこと、「相互扶助」という言葉がイデオロギーに染められてしまっているように感じられることから別の訳語を当てたいと考えた。
ここでのinterdependenceは、わたしたち人間が一人では生きていけないこと、人間のみでは生きていけず外部環境に依存していること、それゆえ過去に依存し、未来の人間や地球環境に対して責任を負っているという意味である(Ryan Honeyman、Tiffany Jana著『The B Corp Handbook, Second Edition: How You Can Use Business as a Force for Good』参照 )。
自律的な人間像や人間中心主義に対する懐疑であり、社会のなかで誰にも迷惑をかけず自立的に存在しているような感覚に自省を迫る「ケア」の概念に近いのではないだろうか。ここでいう「ケア」の概念については、ジョアン・C・トロント著(岡野八代訳)『ケアするのは誰か? 新しい民主主義のかたちへ』を参照。

注6)

本稿に決定的な影響を与えているメアリ・メロー、ジャネット・ハナ、ジョン・スターリング著(佐藤紘毅、白井和宏訳)『ワーカーズ・コレクティブ その理論と実践』には、「協同組合は資本主義と社会主義の中間に位置するものである。」という一節がある(『ワーカーズ・コレクティブ』P332)。

注7)

ここでいう新しいネイバーのイメージとしては、プラットフォーム協同組合主義(Platform Cooperativism)、物理的な距離は離れていても心理的な距離は近い共同体「ディスタントネイバーフッド(遠くのご近所)」等、本号のWIREDの特集『NEW NEIGHBORHOOD』をご覧いただきたい。

注8)

本稿の労働組合、協同組合、Bコープなどの流れを、「互助」や「互恵」という言葉を通して「新しいネイバー」と位置づける想像力をくれたのは、インディーズ雑誌「つくづく」vol.3(特集:友だちと互助会)である。
その前提としては、リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』における互恵的利他主義や、サミュエル・ボウルズ、ハーバート・ギンタスによる「互恵的人間(ホモ・レシプロカンズ)」の議論を参照している。詳しくはサミュエル・ボウルズ、ハーバート・ギンタス著(竹澤正哲、大槻久、高橋伸幸、稲葉美里、波多野礼佳訳)『協力する種:制度と心の共進化 (叢書《制度を考える》』を参照のこと。


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