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補遺5: WIRED連載『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』第5回「食料主権と「制度化」」

雑誌『WIRED』Vol.40(2021年3月13日発売)掲載の『新しい社会契約(あるいはそれに代わる何か)』第5回「食料主権と「制度化」」の補遺です。
紙面の都合上、掲載できなかった脚注、参照文献等をここで扱わせていただきます。


注1)

会食の欠如による文化の衰退については、ジャック・アタリ『食の歴史』(プレジデント社、2020)を参照。


注2)

「持続可能な開発」という概念は1987年の国連ブルントラント委員会報告において提示されたと言われている。米国でも、1990年農業法において「持続可能な農業」という概念が提起され、それ以前からの総合防除(IPM)のもとで取り組まれてきた低投入持続型農業(LISA)などの取組が強化された。だが、大きな進展としては、地球サミット(1992年)で採択された「アジェンダ21」の存在が大きい。「アジェンダ21」の第14章「持続可能な農業・農村の開発の促進」(SARD)があり、農業という営みと農村という暮らしが切り離せないものであるという認識が示されている。「アジェンダ21」はSDGsのルーツと言えるものである

食とSDGsとの関係については、吉沢広祐『食・農・環境とSDGs: 持続可能な社会のトータルビジョン』(農山漁村文化協会、2020)参照。


注3)

食料主権については、村田武編著『食料主権のグランド・デザイン』(農山漁村文化協会、2011)、上記吉沢、マーク・エデルマン/サトゥルニーノ・ボラス・Jr.『国境を超える農民運動 世界を変える草の根のダイナミクス』(明石書店、2018)を参照。

なお、food sovereingtyは「食料主権」という訳語が使用されることが一般的であるが、この概念を生み出し、推進してきた農民運動やフードムーブメントの「food」に込めた複合的な意味を踏まえると「食料」よりも「食」と訳すべきという見解について、マーク・エデルマン/サトゥルニーノ・ボラス・Jr.『国境を超える農民運動 世界を変える草の根のダイナミクス』P13を参照。筆者も「食の主権」「食に関する主権」と訳すのがニュアンスとして正しいと考えるが、すでに「食料主権」の言葉が一定の範囲で流通しているため、本稿でも「食料主権」の訳語を採用した。


注4)

国際的な小農組織「ビア・カンペシーナ」の歴史と活動については、上記マーク・エデルマン/サトゥルニーノ・ボラス・Jr.『国境を超える農民運動 世界を変える草の根のダイナミクス』を参照。また、ビア・カンペシーナが食料主権概念の提示と両輪で進める、小規模の、多様な作物による「アグロエコロジー」活動については、ピーター・ロセット/ミゲル・アルティエリ『アグロエコロジー入門 理論・実践・政治』(明石書店、2020)、吉田太郎『地球を救う新世紀農業 アグロエコロジー計画』(ちくまプリマー新書、2010)を参照。


なお、本稿では、新しい社会契約という観点から、ビア・カンペシーナから始まった食料主権概念やアグロエコロジーの思想が国連(厳密には国連食糧農業機関(FAO))等の政策に取り込まれていく過程を(比較的に)好意的に評価している。だが、このような概念の安易な「流用」に対しては、上記ピーター・ロセット/ミゲル・アルティエリ『アグロエコロジー入門』の第5章「アグロエコロジーの政治学」(P125)において、苛烈に批判されていることは指摘しておくべきであろう。同書の「訳者解説」における「穏健派の立場、戦略的な観点からみたラディカリズムの功罪」(P148)もご参照いただきたい。


注5)

「制度化」については、ソフィー・ナイト「ハッキング・アムステルダム──マータイン・デ・ヴァールと考える都市のコレクティブ」(『MOMENT』第1号、リ・パブリック、2019)、Liesbeth Huybrechts, Henric Benesch, and Jon Geib “Institutioning: Participatory Design, Co-Design and the public realm”, in CoDesign 13, 3, July 2017を参照。

また、最近、筆者が都市と制度化について書いた『タクティカル・アーバニズムとルールメイキング』もご覧いただきたい。

なお、食料主権の制度化の事例としては、すでに南米やアフリカで憲法や法律に組み込んでいる事例があるが(2020年現在、7カ国と言われている)、先進国の事例としては、2018年に成立したフランスの「新農業・食糧法(正式名称は「農業及び食料分野における商業関係の均衡並びに健康で持続可能で誰もがアクセスできる食料のための法律」)」が食料主権の概念を取り込んだ法律として注目されている。

また、日本の生活クラブは、SDGsの指標に紐付けられた7つの目標と、SDGsに留まらない独自の目標を1つプラスした計8つの重要目標「第一次 生活クラブ2030行動宣言」を掲げている。その1つの目のスローガンは「食料主権の考え方を基軸とした、国内生産の追求と、公正な調達を行ないます」としている。


注6)

最終段落の「農村部のみならず都市部においても食料生産が環境と両立するかたちで小規模で成立可能だと明らかになってきている」旨の記載は、南條史生編著『人は明日どう生きるのか ―未来像の更新』(NTT出版、2020)収録の、舩橋真俊『メタ・メタボリズム宣言』で記述されている協生農法のビジョンを参照。


注7)

「自律分散型のフードシステム」という言葉については、Rin「食料問題を解決するために、私は自律分散型のフードシステムをつくる」を参照。


注8)

本稿とは直接関係ないが、食文化の創造性に寄与するオープンソース性や規制のあり方等について語った下記記事もご覧いただきたい。


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