見出し画像

絵本探求講座 第3期、第4回講座を終えて

2023年6月25日(日)絵本探求講座 第3期(ミッキー絵本ゼミ)第4回講座の振り返りをします。


1冊持ち寄った受賞作品について、チームブレイク後、ミッキー先生から賞ごとに解説があった。

1.国際アンデルセン賞について

国際アンデルセン賞(Hans Christian Andersen Award)は、1953年に創設された国際児童図書評議会(IBBY)によって選定し、授けられる賞で、その選考水準の高さから、よく「小さなノーベル賞」ともいわれている。画家賞が設立されたのは、1966年で、第1回画家賞受賞者はスイスのアロイス・カリジェ(1902~85)である。以来、世界中の優れた画家の全業績に対して、2年に一度授与されている。

『ベーシック絵本入門』生田美秋、石田光恵、藤本朝巳・ミネルヴァ書房より

2.私が選んだ1冊は…『百年の家』(原題:The House)

作:J.パトリック・ルイス 
絵:ロベルト・インノチェンティ 
訳:長田 弘
講談社 2010年
2008年 国際アンデルセン賞画家賞


3.選書理由

  • 長女が結婚した時に知人からプレゼントされた。その2週間後に母が亡くなり、家族の嬉しいこと、悲しいことを経験した直後だったので、思い入れがあり選んだ。

  • ロベルト・インノチェンティの絵は、独学であることに驚いた。

  • 人々の暮らしを家が見守り続ける。細部まで描き込まれた緻密な絵は、どのページも見応えがあり、人の生きる力を感じる。

4.あらすじ

100年という時の流れの中で、僅かも動かないまま、人の世を見続けてきた家の物語

5.J.パトリック・ルイス(J. Patrick Lewis)について

1942年生まれ。児童詩などの軽妙な詩で知られるアメリカの詩人・散文家。 1974年から1998年まで経済学教授を務めた後、執筆活動に専念。

6.ロベルト・インノチェンティ(Roberto Innocenti)の略歴

イタリアの画家
1940年、イタリア、フィレンツェ近郊の小さな町に生まれる。13歳の時から鋳鉄工場で働き、18歳の時、ローマに出て、アニメーションスタジオに入り、イラストレーターの道にすすむ。専門的な美術教育を受けたことはなく、独学で世界的なイラストレーターとしての地位を確立。アニメーション、映画や劇場のポスター、本のデザイン、挿絵などで活躍。

7.主な受賞歴

・BIB(世界絵本原画展)金のりんご賞
1985年『ローズ・ブランシュ』
1991年『クリスマス・キャロル』に対して)
・ボストングローブ・ホーンブック賞
1986年『ローズ・ブランシュ』
・ケイト・グリーナウエイ賞特別推薦作品
1988年『ピノキオの冒険』
・銀の絵筆賞
1989年『ピノキオの冒険』
・ボローニャ・ラガッツィ賞フィクション部門特別賞
2003年『ラストリゾート』
国際アンデルセン賞画家賞
2008年 『百年の家』

7.時代背景

バブル経済の崩壊を迎えた1990年代の中盤から、スマホなど情報機器も急速な発達と普及によってSNSが隆盛を誇る2010年代中盤までの20年間は、絵本の多様なアート性に目を開かれた時代であり、同時に絵本が人と人を結ぶメディアとしての働きをもつことを強く意識するようになった時代ということができる。バブルにしても情報にしても目に見えないものに動かされていく不安な日常に、人々の価値感は揺らぎを見せる。そんな時代を生き抜く知恵をナンセンスやファンタジーに託した。(中略)
絵本でこそ語りうる物語とは何か。絵本だからこそできる表現とは…。絵本は何を成し遂げるのか。それらへの探求と模索のたゆまぬ努力が、さまざまなことを絵本は可能にしてきた。その一つが、絵本の「時」への希求であったかもしれない。悠久の時と一瞬の時と。子どもの時と大人の時と。自己存在のゆるぎない時が描かれる。

『BOOKEND2017』より”創作(物語)絵本”石井光恵

8.作品を読んで

  • 1900年、廃屋だった家を子どもたちが見つけるところからお話は始まる。板には1656年と記されている。ペストが大流行した年だった。この家は、石造りということで、家の土台や石は、変わらない。

  • 表紙の絵は、1945年の第二次世界大戦時の家が描かれている。よく見ると裸足の人が多く、下着の人など着の身着のままで逃げてきた人の様子がわかる。眼下の街は燃えていて、その戦火が反射しているのだ。山の中腹にあるこの家は、最後の避難所になった。インノチェンティは、「子どもの頃に見たあの戦争のごくわずかな部分の強烈な光景を鮮明に覚えている」という。

  • 自然の力で大きくなっていく木もあれば、人間の都合で人間の手によって切られる木もあり、文は少ないが絵からたくさんメッセージを受け取ることが出来る。

  • ブドウの収穫、昔ながらの道具でワインが作られている。井戸がポンプに変化し、時代によって服装の変化もわかる。牛が荷車を引いていたが、戦争中は戦車が登場、戦後の自動車も時代の変化と共にモデルが変わる。

  • 『百年の家』の原題は『The House』。静かにそこにある家は、人々が一日一日を紡いできたその月日の積み重ねが100年の歴史をつくっている。”百年の”と修飾することで、歴史を感じる。

  • 『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン 作、絵/石井桃子訳 1954年)の、周りの環境が変わって、家が田舎へ引っ越して、幸せに暮らすというお話とは違う。

9.ミッキー先生の解説から

  • 賞は、いい絵本を選定するということもあるが、出版社や街の都合、企業の誘致とかいろいろな目的で賞が設定されている。選考基準を設け、選考委員を選び、賞に権威を与えていく。賞自体に力をつけていくのは、実績次第である。

  • 賞をみることは、いい絵本をみつけるきっかけである。ひとつの切り口で絵本をみていくと、いろんな疑問が出てくる。その時に、問いを立てることが大切。プロが選んだ賞を基準にする→これを鵜呑みにするのではなく、その基準と自分の頭で考えた直観で感じたことを比較して、良いとこ取りをして、自分の選書眼、眼力を育てていく。

  • 賞を見た時に、自分のリアクションがある→なぜだろうと考える→それをうめるために調べる→学びを得て、自分の引き出しが実力になっていく。それの繰り返し。

  • 賞はひとつの手段。ひとつの自分の尺度として取り入れる。

10.まとめ(考察)

この作品は、百年の歳月を、家とそこに住む家族に託して描いている。幸せな結婚、家族が死を迎える悲しみ、戦争が起こり悲劇を生き抜く家族。その家族の歴史はそのまま時代の歴史でもあり、人が生き続けることの尊さを静かに語っている。家は、人が住んでいることでこそ生かされることがわかる。これからもこうして人々の生活と時は紡がれていくことを私達に考えさせてくれる。【100年という歳月を、絵本では一目瞭然で語りうる力を持っている】
左側に小さな挿絵と年、右側に四行の文章のページと、その年に対応して見開きで家と周りの風景を描いたページで構成されている。そのため、それぞれのページの変化がわかりやすい。細部に描き込まれた畑や動物、季節の移り変わりにも目を奪われる。【絵と短いことばを使って表現し、バランスよく共存しながら物語が語られている・構成がしっかりしている】
石造りの家の視点で展開し、一人称で書かれている。定点観測している。【骨格がしっかりしている】
収穫、戦争、結婚式、復活祭や、お葬式など、家とそこに住む家族の物語を共に生きることで、読者は様々な感情を体験していく。老若男女問わず、感銘を受ける絵本だと思う。【見えないものを見える形にして、心にとめていく。絵本は想像力を育てる源になっている】
この作品を考察していく中で、インノチェンティの描く緻密で細部にわたってリアルな絵の力は大きい。そして、人々の表情が豊かに表現され、人々の暮しそれぞれにドラマを感じる。テキストと絶え間なく対峙し、時代考証を時間をかけて研究し、忠実に描き混んでいく作業を想像する。忍耐強く、体力気力のいる作業。独学で力をつけてきたインノチェンティの生き様と重なる。ページをめくるごとに、人間の生きる力が深く感じられる。
それぞれの時代の見開きページの絵は、絵画作品として額に入れて鑑賞したいほどだ。アニメやゲームなど子ども達には(大人も)人気かもしれないが、一つの絵とじっくり向き合って、観る機会が少なくなってきていると思う。「絵本は総合芸術」とよく言われる。私は、『百年の家』を読んでそのことを改めて感じている。感動の心を劣化させないためにもいい絵本に出会っていきたい。そのきっかけとなる賞について、第3期ゼミで学べたので、今後の活動に活かし、届けていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?