残念でならない話
サラリーマン時代の直属の上司であり、役員だった人と会った。
待ち合わせ場所に現れたのは、見るも無惨な老人だった。
おそらく70歳を少し過ぎた頃だろう。
あの頃、50万円以上はするオーダーメイドのスーツに30万円はする磨き上げられた赤茶の革靴。
ネクタイ一本でも5万円では買えないであろう代物。
背は高くないものの、醸し出す雰囲気はその人を大きく見せていた。
待ち合わせ場所に来たその見るも無惨な老人は、痩せこけた身体にサイズの合わなくなったスーツ、何年も磨かれていないであろう革靴。襟の汚れたワイシャツ。
それでも目一杯気取っているのだろう、満面の笑顔で、「久しぶりだな。元気だったか?」と。
居酒屋に入り、乾杯。私はウーロン茶だ。
思い出話に花が咲く。
当時の私は事業部の次長。
役員報酬は、2500万円もあったそうだ。
オレも辞めなきゃよかったな、なんて思いながら話を聞く。
65歳になったときに、突然役員を下ろされたそうだ。
抵抗しようにも、どうにもならなかったらしい。
そして、月50万円で一年契約の顧問へと。
それでも一般的には恵まれている。
一年が経ち、再契約は無し。
地方の代理店が月30万円で営業部長として招いてくれたそうだ。
この時点で、奥さんに離婚を突き付けられ、独り身になったそうだ。
飲む打つ買うが酷く、その上で家族を養えないとして、戸建ての家と預金の80%を取られたそうだ。
地方での独り暮らしのせいで体を壊し、一年でクビになり、地元に戻ってきた。
今は安アパートで年金暮らし。
年金は、どうやら40万円程度はあるらしい。(2ヶ月でだ)
私が年金を貰うころはその半分も出ないだろう。まぁどうでもいいが。
やめられないタバコと酒。
ギリギリでの生活。
70歳を過ぎて独り暮らし。
孫にも子供にも会えない。
今の楽しみは、昔を思い出すことだけ。
食事をご馳走することだけが、今の私にできること。
あの頃のあの人は今はもういない。
残念でならない。
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