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山椒魚

山椒魚は悲しんだ。
彼は彼の棲家である岩屋から外に出てみようとしたのであるが、
頭が出口につかえて外に出ることが出来なかったのである。今は最早、
彼にとっての永遠の棲家である岩屋は、出入口のところがそんなに狭かった。
そして、ほの暗かった。強いて出て行こうとこころみると、彼の頭は
出入口を塞ぐコロップの栓となるにすぎなくて、
それはまる二年の間に彼の体が発育した証拠にこそはなったが、
彼を狼狽させ且つ悲しませるには十分であったのだ。
「何たる失策であることか!」

   井伏鱒二『山椒魚』より。  


本来、共感も興味も抱かない山椒魚に
私の心が共振したとき、
山椒魚に、自己投影が可能となる。

こういうハっとした出会い、

それは五感を開いて得る貴重な感覚。

「全身の毛穴をひらいて感じる」と言ったのは
斉藤喜博だったか。

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