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雑記と私#54-2:表札の抜けた穴[後編]

Mちゃんには小学校のころから仲のいい友達が
2人いた。R子とS美だ。
この3人、教室では常に一緒だった。
特にMちゃんとR子は休み時間になるといつも
教室のオルガンを連弾していた。
これがまた上手くて「6年2組の名物」だった。

そんな光景を

ほわーん。

としながら眺めてた小学校時代のバカ私。


中学に上がってMちゃんとはクラスが別れたが、
R子とS美とはまた同じ学級になった。
さらには成り行きで私とR子は図書委員を
やらされることになってしまった。

当番の日になるとお昼休みは図書室で本の
貸出や返却の受付だ。
そこで2人になると、R子からあるツッコミを
度々受ける。

「アンタMちゃんとはどうなん?どうすんの?」

どどど、どうするも何も、そんなんちゃうし!

無意味な抵抗。とっくにバレバレである。

「・・・ふーん。まぁええけど。」
そうして冷たい目で見られるのがお決まりの
パターンだった。


中学に入り、私は小学校の頃からやっていた
卓球部に入部。Mちゃんは理科部だった。

Mちゃんとはクラスも離れ、弟たちを迎えに
行くようなこともなくなり、まともに話をする
機会がすっかりなくなってしまっていた。

唯一のチャンスは下校時だ。
とはいえ2人ともそれぞれ部活もあり、帰りも
仲のいい部員たちと一緒に帰ることが多い。
いくら帰る方向が同じとはいえ、なかなか
そんなタイミングには恵まれない。

それでもテスト期間中など、何度か帰りが
同じになる時があり、その時は小学生の頃と
変わらずお互いの部活のことやテストの出来など
あれこれ話しながら、Mちゃんの家の近くまで
一緒に歩いたりした。
その時間が楽しくて、1人で帰る時はいつも
どこかにMちゃんが居ないかきょろきょろ
しながら下校していた。挙動不審者か

ただ、以前と比べると何処と無くMちゃんの
態度がよそよそしい、そんな違和感も覚えた。

小学校の頃に同じクラスだった友達を中心に
色々とウワサされているのは知っていた。
お互いに、たぶん、両思いなんだろうな、という
意識はあったんだと思う。
R子がお節介を焼きたがるのもこういう事かな、
そんな風に考えていた。

まぁでも、いつかこの思いは伝えないと・・・。

残念ながら、そんな”いつか”は”来なかった”。

いや、考えればいくらでもその”いつか”は
手の届く所にあったハズなのだ。
ただ、それを掴む勇気がなかっただけ。


冬休みが明けた頃くらいから、R子のお節介が
激しくなった。おっとりした性格でそれまでは
口を出さなかったS美にまで煽られ始めた。

「何も知らない」私は流石に鬱陶しさを
感じていた。
なんで外野にここまでああだこうだと口を
挟まれなきゃならないのか。
当人同士の問題なんだから放っておいてくれよ。

その後もなかなかMちゃんと話す事も出来ずに
日々過ごしていた。


春休みに入ったある日。
春季大会に向けての練習で部活に向かう途中、
私は通学経路にあるMちゃんの家の前に
差し掛かったところで信じられない状況に
しばし立ちすくんだ。

表札が・・・ない。


その門柱には四角い穴だけがあった。

え?何、どういう事?
そういえば弟がオカンと何か話してたな・・・。

身の入らない練習もそこそこに家に帰ると、
弟に仲の良かったMちゃんの弟くんの事を
聞いてみた。

「転校するって・・・引っ越しちゃった。」
寂しそうに答える弟。

全部察した。
何となくよそよそしい態度。
度が過ぎるほどのお節介。

自分の幼稚さにウンザリした。


春休みが明け、別のクラスになったR子と廊下で
すれ違った時、人目を憚らず思いきりなじられた。

「だから言うたやん!どうすんのよ!」

まったく何も言い返せなかった。
ただ「ごめん」という言葉だけが口をついて出た。

以降、R子とS美とは口をきいてもらえなかった。


こうしてヘタレん坊の最初の恋は儚く散った。

たったひと握りの勇気さえあれば、結果は
違ったのかもしれない。
とはいえ、所詮は”たられば”のお話。

それからの私はずっとMちゃんの幻影を追い掛け
続けていた。いつまで経ってもウジウジした
ヤツである。

それは高一の夏、あの”浴衣姿”に見惚れるまで
続いた。

おしまい。

続きっぽいもの。


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