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雑記と私#21:”ただの”大魔道士

※当記事は『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』の
ネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。
※長いです(5分前後でよめます)。


『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』

私の「心のバイブル」とでもいうべき作品である。

”ドラクエ”に”ジャンプ漫画”特有の3大要素
(友情・努力・勝利)をプラスする。
さらに原作はドラクエの生みの親、堀井 雄二さんが
「彼だったらいいよ。」とその才能を認め、のちに
・『仮面ライダーW』及び『風都探偵』
・『仮面ライダードライブ』
・『獣電戦隊キョウリュウジャー』
などで脚本・メインライターを務める三条 陸さんだ。
面白くないワケがないのだ。

そんな”ダイ大”の中でしばしば議論になる
物語上での出来事がある。

『ポップはどうやってカイザーフェニックスを
破った(・打ち消した・相殺した)のか』である。

大魔王バーン3大必殺技の1つ『カイザーフェニックス』。
恐ろしく、そして荘厳な美しさを持つ不死鳥の羽ばたきは
立ち塞がる者を一片の灰すら残さず焼き尽くす(ハズ)。

”魔界の神”とまで呼ばれる大魔王バーン。
その神にも比肩する魔力は、最下級の呪文ですら
並の魔法使いが使う高位呪文を軽く凌駕する。

誰しもが炎系メラの最上級呪文”メラゾーマ”だと思った火球が
ただの”メラ”だった・・・大魔王の強大さを示した名シーン。

そんな大魔王が最上級の呪文を放つとどうなるか。
圧倒的な破壊力と他者を魅了する美しさを
兼ね備える”大魔王のメラゾーマ”、それが
『カイザーフェニックス』である。

物語終盤、主人公”ダイ”の仲間で一番の親友でもある
魔法使い”ポップ”は、真の力を解放した大魔王相手に
勇者ダイ共々絶望的な戦いを強いられ、
その魔法力もほとんど使い果たしていた。

それでも抵抗を続けるポップに気圧され始めた
大魔王はポップに向けカイザーフェニックスを放つ。
しかし、ここで大魔王は己の眼を疑うような
光景に遭遇する。
ポップが必殺のハズのカイザーフェニックスを
無力化してしまうのである。

最終決戦におけるポップ屈指の見せ場。
か弱き人間のその”抵抗”に、真・大魔王バーンすら驚愕する。

さて、ここからは私なりの考察に入ろう。
この場面、原作コミックでは

  1. ポップが残りわずかな魔法力を両手に纏わせ、      2本ずつの指を獄炎の不死鳥の口へと突っ込む。

  2. 大魔王バーンが驚愕の表情を浮かべる。

  3. 四散するカイザーフェニックス。

というコマ割りになっている。
このシーン、一見すると各コマのポップの
手の位置などから、まるで
「一瞬のうちに」
「ポップがカイザーフェニックスを引き裂いた」
ような印象を受ける。

しかしよく考えて欲しい。
もし一瞬で引き裂いた(あるいは無力化した)ので
あれば、大魔王バーンが驚愕するのは
「引き裂いた(無力化した)後」になるハズである。

つまり、ポップが不死鳥の口に指を突っ込んでから
その炎が四散するまでの間に、大魔王ですら
驚くような「出来事」があったのではないだろうか。

ではそのコマとコマの間の「出来事」とは何か。
2020年から放送されたアニメ版では、これを補完
(あるいは独自に解釈)しているようなカットがある。

このカット、ポップはカイザーフェニックスに
突っ込んだ手を慌ただしく動かしている。

ポップはカイザーフェニックスの中へと挿し入れた
手を素早く、複雑に動かしている。
それはまるで「印を切る」ような仕草である。

こうは考えられないだろうか。
大魔王の叡智と莫大な魔力によって瞬間的に、
しかし高度に、複雑に練り上げられた魔力の塊である
『カイザーフェニックス』を、ポップは練成とは
逆の手順で「解きほぐし」無へと帰した、と。

例えるならば、数億桁の計算が出来る
スーパーコンピュータ”バーン”が導き出した
難解な方程式を、数学者”ポップ”が紙と鉛筆を
手に、物凄いスピードで逆の手順で辿り
証明してみせた、そんなところだろうか。

ファンタジー世界における魔法の概念として
「術式」や「(魔力の)練成」といったものは
割と一般的な考え方である。
その代表的なものが「詠唱」や「動作」などだ。
”ドラクエ”ではゲームのテンポや煩雑化などもあり
消費MP以外の要素は取り入れられていないが、
”ダイ大”においては少し話が違ってくる。

例えば作中では「破邪系」の呪文を使用する際に
特定の魔法陣や複数人の魔法力を必要とするなど、
儀式的な手続きが必要となっている。
また「閃熱ギラ系」の最上級呪文「極大閃熱呪文ベギラゴン」を
唱える際には、両手に大きく魔力を蓄え、
印を結んでそれを放出する描写がなされている。

”魔軍司令”ハドラーと”ポップの師匠”マトリフによる
極大閃熱呪文ベギラゴンの撃ち合い。

また作中では、大魔王バーンはその尋常ならざる
魔力により、あらゆる魔法を”タメなし”で使う事が
出来ると明言されている。
カイザーフェニックスは大魔王バーンだからこそ
他の呪文同様の速度で放てるというだけで、
仮に他の魔法使いが使用出来るとしたならば
複雑な動作や長時間の魔力の蓄積による
練成が必要だと考えられるわけだ。

ポップは「メラ系」呪文が得意という描写もある。
さらに言えば、このシーンまでにポップは数度
カイザーフェニックスを”見て”いる。
何なら一度はその身に”受けて”さえいる。
(その時はあらゆる魔法を跳ね返す魔法の盾
『シャハルの鏡』を用いて難を逃れた。)
ポップはカイザーフェニックスの「構造」を見抜き、
ぶっつけ本番で「解体」してしまったのだ。

これが私なりに導き出した結論である。
如何であろうか。


この話題になるとよく
「ポップはただの武器屋の息子なのに」
という意見も散見するのだが、これは違う。
そもそもポップの父”ジャンク”は、決して
”ただの”辺境の武器屋などではない。

ジャンクは元を辿れば”軍事大国”ベンガーナ王国の
お抱えの武器職人であった。
それはかなりの腕前であるハズだ。
しかしある日、気に入らない大臣を殴ったため
職を辞し、辺境の村で武器屋を営んでいるのである。
「魔界の名工」と言われ、作中でも活躍した
数々の武具を作成した”ロン・ベルク”でさえ、
ダイの剣を製作する際には助力を頼んだほどである。

分野は違えど、父子ともに並外れた才能を
持っていると考えれば、何ら不思議ではない。

”ダイの大冒険のもう一人の主人公”ポップ。
ダイの彼への評価は正しかったのだ。

ここから物語はクライマックスへと突き進む。

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