第3話 受け入れがたい現実 1534文字
🌻 前回までのあらすじ 🌻
たまたま受けた人生初の人間ドック。腎臓にしこりがあることが分かり、大学病院で精密検査を受けることに。私は不安と動揺を感じながらも、結果を聞くために再び病院へ。第3話では、自分について学び始めるキッカケとなったエピソードに迫る(1528文字)。
1.父
私が6歳の時に父はくも膜下出血を発症し、3年後にこの世を去りました。
父に関する記憶は限られていて、断片的なものばかりです。
記憶のなかには年月の経過とともに薄らぎ、ぼやけてしまうものもあります。
そのたびに、大切な何かが消えてしまうような切なさを感じるようにもなりました。
ですが、父の愛情を身にしみて感じるようになったのは、死別後30年以上も経ってからのこと。
全ては腎臓がんの告知を受けたことに始まります。
私は長い間、自分にも亡き父に対しても、葛藤を抱えながら生きてきました。
それでも、
「過去を振り返る勇気」が芽生え、
「自分について学び始める」ようになりました。
父に関する記憶の中で、どうしても思い出せないことがあります。
それは父のぬくもりです。
当時、保育園に通っていた私は、送迎バスを利用していました。
父はバイク通勤をしており、私を後部座席に乗せては、乗り合いの場所まで送ってくれていました。
私はバイクから落ちないように、父の背中にしがみついていたと思います。
でも、父のぬくもりを思い出すことができません。
もし、あの頃に戻れるのであれば、もう一度父親の運転するバイクに乗ってみたいと思うのです。
2.泣き虫
幼い頃の私といえば「泣き虫」でした。
私のベッドは2階の子ども部屋にあったので、寝るためには階段を上がり、奥にある部屋までたどり着く必要がありました。
日中は日差しが差し込む空間であっても、夜になると暗闇に包まれていたため、部屋に行くまでの道のりが怖くてたまらなかったのです。
もちろん、電気をつければその場は明るくなるものの、それでもあの頃の私は、親の手を必要としていました。
私を抱きかかえながら、ベッドまで運んでくれた父の姿が今も記憶に残っています。
私が布団の中にもぐりこんで、おやすみの言葉を交わすその時まで、父はずっと見守ってくれていました。
見守られているという安心感によって心の中が満たされると、私は静かにまぶたを閉じることができたのです。
それから数年後、私は病院のベッドで横たわる父のもとへ、会いに行くことになりました。
3.変わり果てた姿
小学1年生だった私は、母親に連れられ、入院直後の父に会いに行きました。
けれども、会うことができませんでした。
なぜなら、病室のドアに 「面会謝絶」という札がかけてあったからです。
言葉の意味するところはわからなかったけれど、異様な雰囲気を感じました。
幼心に、おどろおどろしかったのを覚えています。
父は開頭手術を受け、その時には輸血も必要とし、術後は植物状態に陥りました。
遺された母親が、その後どんな人生を歩むことになったのか……。
歴史を辿ればたどるほど、私の胸は締めつけられるのです。
父が倒れた日。
もぬけの殻となった薄暗い部屋の中で、私はひとり立ち尽くしていました。
これは、私が覚えている記憶の一片です。
母親の話によれば、寝室を共にしていた父親の異変に気づき、夜中に救急車を呼んだとのこと。
次に父を見た時には、病院のベッドの上で変わり果てた姿になっていったのです。
『お父さんだけどお父さんじゃない…… 』
その衝撃は私の心を凍りつかせました。
父のイメージが矛盾と喪失感を含むものに変わり、とてつもない違和感を覚えたのです。
別人と化した父の姿は、間違いなく病気と闘い続けている「証」でしたが、幼い頃の私には受け入れがたい現実でもあったのです。
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