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ベランダバインダーちゃん

 雨の日はお客さんが来なくて暇で、バイト先のチェックシートを挟んだバインダーの裏に落書きをしてみる。午後からの社員さんが通勤してきて目が合って、おはようといって通りすがっていった。それで我に返って、慌てて消しゴムでこする。バインダーは木製だから力をこめたら薄まったけど完全隠蔽には至らなかった。
 
 研究室の窓はいつも閉まっている。窓の向こうには繋がった長い廊下みたいなベランダがあって、そこを歩いてみたい。ゼミの論文は読んでも全くもってチンプンカンプンでいらいらして、気分転換がしたくなった。窓を乗り越えるには先輩のデスクを足場にしなくてはならなかった。窓の向こうに何かが落ちて、パリンといったが死角だから大丈夫。飛び降りて隣の部屋のベランダに移る。パソコンに向かう禿げ頭の後ろ姿が見えた。また隣の部屋へ。ブラインドで何もみえない。次の部屋は学生部屋だった。ちょうど友達がこっちを向いていて、見つかってしまった。大笑いされる。ちょっと気分転換というと、もっと笑われた。大人しく戻ったが、満足していなかった。自分の席からパソコンを持ってきてもう一度窓を出る。ベランダの縁がちょうど人が座れるくらいの幅だった。教授が研究室に入ってきた。急いでベランダの縁に腰をかけ、パソコンを開き、ここで勉強してるんです、といった。教授は、そうか、とだけいって笑いをこらえた顔でどっかいった。


 


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