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夏の白

夕顔の花は白 夕闇に置き忘れ
翌昼にはもう逢えなかったね
代わりにいま大きないびきで
横たわる真夏の畑の怪物
それこそが包容力の正体だと
信じて疑わない大きな子供
かつてはみそっ歯だらけで
ヨレヨレのランニングシャツ着てた

引かれたばかりの 白線の白に
掌握された夏休みの通学路が淋しい
息巻いて生まれた かき氷の白の
砕かれた体は妙に清々しく
子供のように素直に 原色に染まれば
わた菓子の不思議な生い立ちと
共謀を始める 縁日の嶺で

母は希望を 干してはいなかった
どんなに漂白されたワイシャツにも
母は希望を 盛り付けてはいなかった
おろしたばかりの引出物の食器にも
蒼白の現実に 白目を剥いて
大粒の涙は涸れ 大きなくしゃみをひとつ

波音の白に洗われ 波音の白に攫われ
迎えが来たのがたまたま
私ではなかっただけ
まっさらなシーツを 真っ赤に染めて
夏についえた あなたの言葉
古書店で今日も 炭火のように燻っている

蝉時雨は塗りつぶされてゆく
少しずつ 少しずつ 気づかれず
白い無慈悲な文明たちに
一所懸命なものをこそ
嘲笑う文明たちに

「誰も止める方はおりませんでしたので
見上げる悲しみの分だけ私は大きくなりました」
入道雲に耳打ちされて 晴れない闇と和解する

夏の白 夏の白
きみをこんなに汚したのは
大人になった
わたし自身です

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