商店街
八百屋のおやじが伏魔殿を覗いた夕暮れ時
油の切れた自転車のブレーキが甲高く鳴り響く
粒ぞろいの後悔が小銭入れの中で身を寄せ合って
さびしさを背負わずには歩けなかった商店街
ふるえる夕陽が口腔の割れ目に激しく引火して
言葉はこころを離れて優雅に不幸を泳ぎはじめる
幼い頃に飼っていた犬の毛並みが不意に浮かんで
代わり映えしない活気に混ざり込む見知らぬ人の訃報
安い酒の味とあなたの手のぬくもりだけで
あんなにもおいしかったはずの安売りの塩さば
夢はいつでも寝てから見るものだったから
壊れた私のままでこんな場所まで来てしまった
産み落とされたかなしみかなしみかなしみ数珠繫ぎ誰かの作り笑いにしか縋れなくなった季節の割れ目捨てる神にも拾う神にもさよならをして
サンダル履きでひとり歩いている商店街
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