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残暑

一匹の蝉の声に貫かれるだろう
一本の遠雷に破られるだろう
一音の風鈴に嗤われるだろう

クーラーの効いた部屋で
「愛は地球を救うんだ」と
信じ込まされたまま
野良犬になった私達の夏は
今年もまた餓死するだろう

凝りもせず
またなにか重大なものを
置き忘れていることに
気づかぬふりをして
寝苦しい夜を
無責任に葬るだろう

斬新だと絶賛された隠喩が
「小さな少年」を
呑み込めずに藻掻いている

最後の球児が見上げたのは
いつの間にか
すり替わっていた空の青

残暑が
知っている者たちの
言い残した言葉に染められて
最後の力を振り絞るだろう

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