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歌人へのオマージュ

生あたたかな風を吹かせて
あなたはもうそこには居ない
切り取ったばかりの
情景を残して

天然にも人工にも隔てなく愛着を深め
ちぎれた雲もやぶれた紙も
こころのほこらに匿っている

あらゆる感情を鮮やかに染め上げ
手懐けた時代の着丈に仕立てる
偽善をあっさりと袋小路へ追いやって
無常を感性の舌で愛撫してゆく

日常も異常も私情も非情も
若竹のようにしなやかに
受けとめ 抱きしめ

修羅も慈愛も恋慕もウイットも
三十一文字に絹繊維のように
するりと納める

悠久を色褪せることなく
泳ぎ続ける静止画は
蝶のように軽やかに
数多のいまを止まっては彩る

あなたはとどまらない
とどまらないのがあなた
みやびなうしろ姿で
幻のように未来へ行き過ぎる

その残り香でいつも
言葉なく包んでくれる
すべての歌人への
一詩人からのオマージュ

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