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【詩】俳人へのオマージュ

たった十七文字の
無限に広がる深淵に
海女のように勇敢に
潜ってゆく人達がいる

指先を浸し 鼻先を浸し
その底知れぬ感覚とにおいに
慄く詩人を余所に

初めて触れたのは小学校での授業だった
落書きだらけの国語の教科書から
あの時確かに私にも聴こえた
「蛙飛びこむ水の音」が

聞こえのいい比喩に囚われ
使い古しの形容に縋り
言葉の雑木林で迷子になった男

いまひとり行間の樹海に分け入れば
遠く微かに見える真意の光
その聖域で静かに佇む 瑞々しい野花

減量中の拳闘家のように
言葉の脂肪を極限まで削ぎ落とし
八百万の季語たちを
旬の果実のように摘み穫り
肩に止まった言霊たちと
旧友のように興ずる人達

やはり言葉は生き物だったのだ
厭人との紙一重を密かに漂わせながら
厭世と博愛の表裏一体を惜しげもなく晒す
伝統を時に真新しく着こなしながら
光速の伝書鳩を放つ

有り余る時代に飄々と知足を謳歌して
利他と美意識のこの国で
自分らしく咲くすべての俳人への
一詩人からのオマージュ

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