待ち人
その子は待っていた。静かに、ただ待ち続けた。来るか来ないかも分からない人を、ただ待ち続けた。
秋の風が寂しく吹き付ける。遠くで車のクラクションが鳴り、木枯らしが吹いて足元に枯れ葉が舞った。
かじかんだ手に息を吹きかけ、ジャケットのポケットからスキットルを取り出す。眩しさに顔をしかめる。
灰色の煙が空に溶けていった。
その子は眠っている。ずっと、深い眠りの中にいる。
「手術は成功しました」
「先生、感謝します」
とめどなく涙が流れた。
「お母さん、もう大丈夫だよ」
その子は眠っている。眠りながら泣いている。脳の機能が失われ、延命治療によって生かされているが、二度と目を覚ますことはない。
夕暮れ、その子は待ち続けた。独りきり、たった独りで待ち続けた。事故にあったことも知らないまま、朝方に手術は終わった。
その日、病気で移植を待つ人たちにその子の臓器が提供された。そしてその子は、静かに待つことをやめた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?