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【小説】花屋の事情 #1


あらすじ


子供のネズミ、ココは母ハナと花屋を営んでいる。毎朝、金魚のチイとニワトリのレンに餌をやるのが日課だ。ある日、店で大きな物音がし、黒服のキツネとその舎弟が現れ、ハナは倒れ込む。ココは夢の中でキツネを助けるが、現実ではキツネたちが集金に頻繁に訪れる。キツネは願いを叶えるためには生け贄が必要だと夢で告げるが、ココは拒否する。現実でキツネが暴れる中、警察犬に連行される。ココは夢と現実の狭間で揺れ動く。


 第1章


 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中を淡いオレンジ色に染めていた。ココはその光に目を覚まし、小さな体を伸ばしてベッドから起き上がった。
 今日も一日が始まる。ココはまず、部屋の隅に置かれた小さな水槽に向かった。
 金魚のチイが、待ちわびていたかのように水面に顔を出した。

「おはよう、チイ。今日は何を話してくれる?」

 ココは微笑みながら、水槽の上に吊るされた餌入れから少量の餌を取り出し、水面に撒いた。チイは嬉しそうに餌を頬張った。その様子を見届けた後、ココは二階の自分の部屋から一階へと降りていった。


 一階のキッチンには、母のハナが朝食の準備をしている音が聞こえる。ココは顔を洗い、キッチンのテーブルに置かれた野菜くずを手に取り、外の鶏舎へと向かった。レンが待っているのだ。

「おはよう、レン。今日の朝ごはんだよ」

 レンはココの声に反応して元気よく鳴き、餌をついばみ始めた。ココはその様子を見ながら、鶏舎の隅にある巣箱を覗き込んだ。そこには新しい生卵が一つ、きれいに置かれていた。

「やった!また卵が取れた!」
 
 ココは嬉しそうに声を上げ、生卵を手に取った。その瞬間、家の中から大きな物音が響き渡った。驚いたココは、卵をそっと置き、急いで家の中に駆け戻った。
  店の方から聞こえた音に導かれるように、店の扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。黒服を着たキツネと、その舎弟であるやせたキツネが店の中央に立っており、母のハナが床にへたり込んでいる。

「お母さん!」

 ココは叫びながら駆け寄ろうとしたが、黒服のキツネの鋭い目がココを射抜いた。その目は冷たい光を放ち、恐ろしいほどに吊り上がっている。

「母親がどうなろうと、お嬢ちゃんには関係ないだろう?」

 キツネの言葉が冷たく響く中、ココは震える手で母親を抱き起こした。ハナの顔は青ざめ、息も荒い。

「お母さん、大丈夫?」

「ココ、逃げなさい…」
 
 ハナの声が耳に痛いが、その場から動けないココ。キツネたちの存在が恐ろしく、どうすることもできなかった。

つづく





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