「読書日記  『死刑にいたる病』」(ハヤカワ文庫JA) 感想その3

映画用語にはマクガフィンという言葉があります。
マクガフィンは視聴者を引きつける役割であり、視聴者は「何なんだろう?」と疑問を持ち、物語の入り口に入っていきます。
しかしマクガフィンは、謎を解かれる必要はない存在です。
『死刑にいたる病』では、「根津かおるを殺した真犯人は誰なのか?」がマクガフィンに該当します。
榛村大和本人が自分の手で殺したのか?、榛村大和が金山一輝に命令して根津かおるを殺させたのか?、それとも別の第三者によって殺されたのか?

榛村大和・本人が直接殺したという証拠を警察は発見できていません。
遺体にはDNAなどの物的証拠はありませんでした。
あるのは事件当日に事件現場近くで榛村大和を目撃したという金山一輝の証言だけ。
それに対して金山一輝は榛村大和から根津を殺すことを命令されています(実行したかは不明)。

「第三者が殺した」の線では根津かおりの上司が目黒をストーカーしていました。
しかし根津の上司は事件当日のアリバイがあり、警察の捜査からも早い段階で外されました。

小説版『死刑にいたる病』という宝探しゲームは、「真犯人は誰なのか?」というテーマは、最終ページまで読者を連れて行くための宝物であるのですが、物語の真の目的ではないのです。

この物語の真の目的は、異常者・榛村大和の魅力と、その魅力に引き寄せられた人々の人生を描くことです。

ところで、この小説は主人公・筧井雅也の成長物語でもあります。
小さい頃は優等生だった主人公が今はFランク大学生で、自分や世間を呪いながらコミュ症状態で一人暮らしをしています。
しかし世間的には特別な人間と思われている人物から選ばれて、捜査を依頼されて冒険と対話をすることによって、失われていた自信を取り戻し、周りの評価が大きく変わっていきます。
ダークな成長物語ですが、主人公は闇落ちはしません(途中、闇落ちしそうになるけれど、なんとか戻ってくる)。

しかし幼馴染の彼女とハッピーエンドかと思ったら、「彼女が闇落ちしていた」というオチなので、もし続編があるなら、闇落ちした彼女(加藤灯里)との恋愛物語を読んでみたいです。


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