市井の人を祝福する物語―『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』

『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』が終わりました。

以下、『石羽』で参ります。

終わりました。終わってしまった…。毎回笑って泣いてきた10週でした。

新井プロデューサー、塚原監督、金曜10時といったら、もうその並びだけで間違いがない、という作品だったわけですが、個人的には始まる前の期待値が既に100中100だったのが、終わった今の感じは10000だった、、というかんじです。

新井プロデューサー、塚原監督の作品としては、『中学聖日記』『最愛』などのラインと、『アンナチュラル』『MIU404』などのラインがあると思われ、『石羽』は後者のライン上にあったと思われます。

ただ、個人的には喫緊の『アンナチュラル』『MIU404』にくらべて、『石羽』には何か突き抜けた爽快感があったように思いました。その爽快感はどこにあったかというと、一見バカ真面目だったり、説教臭かったりするような直球の言葉を直球で投げてくるのだな、という点です。

その姿勢は第1話の「全ての国民は法の下に平等です」という石子さんのセリフとして明確に示されていたように思います。

全ての国民は法の下に平等…

確かに公民の授業では習いました。でもドラマとしてこんなに直球で聞いたことは少なくとも私はありませんでした。

このセリフに代表されるように、当たり前すぎて今までセリフにならなかったような言葉がなんのてらいもなくまっすぐに突きつけられ続けた10回だったなと思います。

それとあわせて10回を貫いていた姿勢が、潮法律事務所のポリシー?モットー?である「真面目に生きる人々の暮らしを守る傘となろう」。オープニングのふたりも傘をさしており、そして最終回に、弁護士倫理をいつも考え、襲われても証拠を守ろうとし、目撃した事故の記憶を消せない、まさに「真面目に生きる」石子さんに羽男さんが傘を差しだしたところからも「守る傘」というのが重要なモチーフだったと言えます。

この、「真面目に生きる人々は守られるべき」ということも、当たり前すぎることながら、真正面から言語化した作品はあまりないのではないかと思います。真面目、という言葉は、場合によってはその対象をバカにしたり茶化したりする文脈にもなります。特に昨今は「ウケる」という形で、そうした真面目さを冷笑したりシニカルにとらえたりする、暑苦しさを忌避するような流れもあるように思います。

でも『石羽』は真面目で何が悪いの、真面目な人は守られるべき、真面目に生きていいんだよ、ということを真正面から直球で、まさに「真面目に」突きつけてくるのです。最終回の、たばこの吸い殻を黙々と集め続ける3人は「バカ真面目」であり、それが結果を変えます。

最後の御子神との対決以降、ずっと泣きながら見ました。

「法律のほとんどは力の弱い人たちの訴えに寄り添ったもの、声をあげた歴史」

「力の弱い者も強い者も同じ世界で平等に生きていくためのルール」

「そもそも力が弱くちゃいけないんですか」

「あなたが弱者と呼ぶ人たちの多くは力が強くなりたいなんて思っていないんじゃないですかね。彼らは誰にも迷惑をかけず、かけられることもなく、ただ普通に日常を送りたいと願う人たちです。そしてそういう人たちこそがこの社会を支えているのです」

こんなに市井に生きる「普通の人」を祝福するセリフってあっただろうかと。大げさな言い方のようですが、あなたも生きていていいんだよ、と言われたような気がしました。

「自助」が求められる時代です。でも自助とはまさに経済的に、精神的に、「強い」人の有り様であるともいえます。また、「夢を持て」「目標を持て」なども、強さを求められているひとつの形であるとも思います。夢を持って良き人生を「送らなければならない」というプレッシャー。

でも『石羽』は弱くていいよ、真面目でいいよ、普通でいいよ、と何度も何度も直球の言葉で伝えてくるのです。そして、そういう人たちは守られないといけないんだよ、とも。「真面目で、普通で、弱い人を守る、それが法でしょ」という強烈なメッセージが生きてきます。

そもそもこれらの言葉を発する石子さん、羽男さん、そして大庭くんがそれぞれに弱さを抱えた真面目な人たちです。

この真面目にも真面目すぎるセリフがたたみかけるように出てくる、そうした姿勢を明確に打ち出してくるところに、作り手の人たちのメディアの力を信じている姿勢を感じて胸が熱くなりました。『アンナチュラル』『MIU404』からも訴えたいものがあることは伝わりました。でもこんなに真正面にわかりやすい言葉ではなかったように思います。同じライン上にある作品に見えて、実は大きく方向転換して、積極的に、とてもよい意味で自分たちの影響力を信じ、そして、見ている人たちを信じ、真っ当なコトを真っ当な方法で言い続けるぞ!という、「バカ真面目」ともいえる気概を感じました。今、社会を変えないといけない、それは強くあることでもシニカルであることでもなく、真面目な市井を生きる人々が穏やかに生きられる、そんなささやかな、でも最大の幸せを守らないといけない、それが法であり、もうちょっと踏み込めばそれがメディアである、という気概とプライドを、私は感じました。

でもそうした自分たちに酔っていない。市井の人たちに迎合してもいない。それが御子神がSNSにより追い詰められていくことを示した最後に表れていたと思います。あの最後はヒヤリとするものがありました。石子さんと羽男さんが圧倒的強者になる可能性を示していたからです。

とはいえ、作り手の気概が体現化したことのひとつとしてT-verで「解説放送版」が視聴できるようになっていたことも挙げられます。「解説放送版」はただ解説するだけでなく、キャストの名前の読み上げがめちゃくちゃカッコいいタイミングで入っているなど、すごく練られています。

今日の最終回は特にしびれました。最後のひとことは…

「石子は前だけを見据え進んでいく」

解説放送版が必要な方たちにもこのドラマの爽快感が十分伝わるように構成されていると思いました。

コロナ禍、空前の円安と明るい話題が少なく、閉塞していく社会の中で、真っ当なことをバカ真面目に伝えるドラマ、という新ジャンルの作品が、この『石羽』という作品だったように思います。

そしてなんといってもコミカル!

10話の大庭くんが釈放されたあとの羽男先生のカットイン!

泣きながら爆笑しました。

大庭くんが犯人でないこと、綿郎さんが黒幕ではないことをさくっと冒頭に出してくれることで、そのあとの物語をかえって集中して見られる、という単純明快さも本作の魅力だったように思います。

最終回の美術館での石子さんはとっても素敵なワンピースを着ていて、大庭くんとちゃんと恋愛をしているんだなと伝わってきたのも胸熱でした。

何より有村架純さん、中村倫也さん、赤楚衛二さんの魅力たるや!

あぁ、ロス、ロスです。

2期を、映画を!お待ちしております!

#石子と羽男 #有村架純 #中村倫也 #赤楚衛二

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