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19話 もう一つの約束3

19話 もう一つの約束3


「ーーお前はッ?!」

 人影の姿を見たカインは驚きの声を上げた。


「よう。久しぶりだな、カイン」

「イークじゃないかっ!」

 片手をあげ人懐こそうな笑みを浮かべて彼の名を呼び、カインもまた嬉しそうに笑う。
 ダガーを懐にしまい互いに再開の握手を交わした。


「お前、どうしてここに?」

「ハンターの情報網(じょうほうもう)、舐めるなよ」

 そう言うイークは親指を立ててニヤリと笑った。


 カインとイークは、カインがまだ賊として駆け出しの頃に知り合ったハンターだ。彼は、斡旋所に席を置きその地域だけの依頼を請ける正規ハンターではなく、どこにも身を置かない流浪(るろう)ハンターだった。


「何か金になりそうな『におい』を嗅かぎつけてティエラ港まできたら、大々的に『賊狩(ぞくが)り』をしてるじゃないか」

「……もう港まで伝達されてるのか」

 イークの言葉にカインは驚きを隠せなかった。


(……俺がジャスティスと別れて三日目くらいだろ? 騎士団の賊狩りや、港まで包囲網(ほういもう)を敷いてやがるーー随分と手際が良すぎるな。それ程までに価値があるのか、理(ことわり)の指輪ってのは)


 カインは内心密かにそう思う。ディザイガ城の騎士や、各所のコンタール斡旋所への依頼。その用意周到(よういしゅうとう)さが、いかにも必死すぎる気がした。


「カイン、お前何かしたのか?」

 そんなカインの胸の内を見透かすように聞くイーク。


「ディザイガの大臣に嵌(は)められたって話」

 カインが端的に言えばイークは瞳を少し輝かして、

「……詳しく聞かせろ」


 ――カインは、これまで起きた事をイークに簡単に伝えた。



「ーーで。それが『理の指輪』って訳か」

 イークはカインが持って見せる、【正義】を司(つかさど)りペリドットの宝玉が埋め込まれた指輪を目を細めて見た。指でちょいちょいっとするとカインから手渡される。

 手にした指輪を角度を変えつつ見定めるイーク。


「……失われた言語(カオスワーズ)か」
 内側に刻まれた不可解な文字を見て呟くイーク。その事にカインは再び驚きの声をあげる。
「お前、それ読めるのか?!」


「ああ、まあな」

 事もな気に頷くイーク。

 博識だとは聞いていたが、失われた言語(カオスワーズ)を解読出来るとは、カインすら知らなかった。


「……なんて書いてあるんだ? それ」

 言いつつ息を呑むカイン。

 そんなカインをちらりと一瞥し微かに笑ったイークは静かに指輪に刻まれた文字を読み上げた。


「……【正義】を司りしエレメント。象徴するは太陽、連なりし属性は地」


「……」
 カインは神妙な表情をしているが、
「どう言う意味なんだ、それは」
 と、眉間に皺寄せて首を傾げた。


「……やけに抽象的な言い回しだが、きっと何か意味があるんだろうさ」

 刻まれた文字をそのまま読んだだけのイークもまた苦笑いをして指輪をカインに返した。


「カイン。お前これからどうする? 手配書が回ってるならティエラ港には行けないぜ?」

「……」

 イークにそう言われてカインは顎に手をあて考え込む。

「ーーいや。港にはどうしても寄らなければならない」

 力強く言い放ったカインにイークは訝しげな顔をする。
 
「なんかあるのか?」


「ああ」
 短く頷くカイン。そしてイークを見据え、
「イーク。お前に頼みたいことがある」

 笑みを見せるカインに、イークもまた不敵な笑みを返したのだった。

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