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短編小説【影の契約】

放課後、教室で友人の葉月と話していると、彼が不思議な話を持ち出した。彼は都市伝説について熱心に語りだし、それが僕の興味を引くことになる。

「聞いたことあるか?『影の契約』って都市伝説」

僕は少し首を傾げながら、興味津々で彼に尋ねた。

「影の契約?どんな都市伝説なんだ?」

葉月は謎めいた笑みを浮かべながら、続けた。

「言い伝えによると、深夜の特定の場所で、自分の影に何かを願い事をすると、その願いが叶うんだって。ただし、その願いを叶える代わりに、自分の何かが失われるというんだ」

僕は興味津々で話を聞いていたが、同時に少し不気味さも感じていた。それでも、なぜか試してみたくなっていた。

数日後、僕は葉月と一緒に深夜の公園にやってきた。月明かりがかすかに照らす中、僕は緊張と興奮で心が高鳴っていた。

自分の影に向かって願い事を唱えると、一瞬にして不思議な光景が広がった。影がゆっくりと蠢き、それに合わせて公園の風景が歪んでいく。すると、僕の願いが叶った瞬間、奇妙な力が身体を貫いた。

次の瞬間、僕は自分がいつの間にか別の場所にいることに気づいた。周りは無人の廃墟と化しており、不気味な静寂が漂っていた。この世のものとは思えない体験に、僕は戸惑いを覚えつつも、同時に興奮も感じていた。

しかし、その興奮も束の間、現実の冷たさが僕を襲った。都市伝説には対価が必要なのだということを忘れていた。少しずつ、自分が失っていったものが明らかになっていった。

最初は些細なことだった。鏡を見ると、顔に深いしわやくすみが増えていることに気づいた。そして、日々の生活でも変化が現れ始めた。友人たちとの関係が希薄になり、学校での成績も急激に下降していった。さらに、家族とのコミュニケーションも断絶し、孤独感に苛まれる日々が続いた。

次第に、体の健康状態も悪化していった。体力が低下し、頭痛やめまいが頻繁に訪れるようになった。医師に相談しても、原因がわからないと言われるばかりだった。

絶望感が心を蝕んでいく中、僕は都市伝説の影の契約が原因だと悟った。自分の無謀な興味と欲望が、この不幸を招いたのだという自覚が生まれた。

やがて、僕は自分がもはやこの世界に存在していないことに気づいた。自分の姿は鏡に映らず、声も届かない。影の契約が僕の存在を奪ったのだ。

しかし、僕の消え去ったことにより、都市伝説はより一層広まっていった。人々は「影の契約」という伝説を語り継ぎ、新たな興味と恐怖を抱くようになった。僕の不幸な末路は、他の人々にも警鐘を鳴らす存在となった。

今や、僕はこの世に存在せず、都市伝説の一部となっている。僕が失ったものと引き換えに、世界には新たな都市伝説が生まれたのだ。

この物語は、僕の終わりであり、新たなる始まりでもある。影の契約の存在が、人々の心に畏怖と興味を抱かせ続けた。その都市伝説は口伝えやインターネットを通じて広がり、新たな冒険心を持つ者たちがその禁断の扉を開くことを望むようになった。

しかし、僕が辿った運命のような不幸を知る者たちは、自らの欲望を抑えることを学んだ。彼らは都市伝説を娯楽として楽しむだけでなく、その真実に対する敬意を持ち、自己の無謀な興味を警戒するようになった。

僕が消えた後も、影の契約は都市伝説の一環として続いている。しかし、人々はその真実を冷静に受け止め、自らの選択と行動に責任を持つようになった。

僕の存在は、都市伝説の中で忘れ去られていくだろう。しかし、その背後にある教訓は、永遠に刻まれ続けるだろう。人々は物語から学び、自己の欲望と対価の関係を見極める必要があることを知った。

そして、僕は消えたままでも、この世界に意味を残すことができた。僕の終わりは、他の人々の物語の始まりとなり、新たなる都市伝説が生まれるきっかけとなったのだ。

影の契約は、未だに人々の心を揺さぶり続ける。それは禁断の扉を開けた者たちだけが知ることのできる、不思議で恐ろしい世界の一端に過ぎない。しかし、その背後には対価という厳しい現実が待ち受けていることを忘れずに。

この物語は、忘れ去られた僕の存在から生まれたものであり、人々が自らの運命を把握し、都市伝説の魅力と危険性を理解するための警鐘となることを願って終わりとする。

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