「先生、こっち向いてよ」

まだ自分が小学生だった頃、転校生がやって来た。こんな田舎に転校生が来てくれるなんて久しぶりの事で、皆んな興味津々の様子だった。
転校する事に慣れているのか、はたまた度胸が座っているのか、転校してきた初日からよくお喋りをする子だった。
暫くたった頃、国語の授業で大切な人に手紙を書いてみようという授業があった。皆んな、それぞれに考えに考えて手紙を書いた。次の授業で発表する事になり、皆んながモジモジしてる中、その子が真っ先に手を挙げ、堂々と手紙を読み始めた。
「僕は転校してまだ少ししかたっていません。おじいちゃんもおばあちゃんも僕にとても優しいです。だから、安心して下さい。一つだけ残念なのは、担任の先生が僕が手を挙げていても、なかなか当ててくれない事です。僕は新しい学校でも頑張って一杯手を挙げてる事を手紙に書きたいから一生懸命手を挙げてるんやけど、先生は全く気づきません。先生、お願いだから、こっち向いてよ。」
少しだけ教室が静かになった瞬間だった。
子供達の授業参観に行くと、様々な子達が元気に手を挙げる。その子達を見る度に、何故かあの転校生の男の子を思い出してしまう。一緒に授業を受けたのは2ヶ月程ですぐにまた転校して行ったけど、元気に暮らしてくれているといいなと思う。


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