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学祭公演『おとしもの』2
女性は戸惑いを隠せない様子だったが、それを振り払うように頭を振って、青年を一点に見つめた。
「私も探します、あなたの名前」
「信じてくれたんですか?」
「いいえ・・・自分でも不思議なんですが、あなたのこと助けないといけない気がしてるんです」
「そうですか・・・では、お言葉に甘えさせてもらいます」
少し間があって女性はあることに気がついた様子で言った。
「それで・・・名前を探すって言ってもどうやって探せばいいんですか?」
「実は僕もどうすればいいのかわからないんです。とりあえず、この辺りに落ちてないかと思って探してたんですが・・・」
「こういうところに落ちてるものなんですか?」
「この辺には落ちてなさそうですね。場所を変えましょう」
そう言って2人は歩き出した。
舞台は暗転する。
数人の観客が立ち上がり、そろそろと出て行く姿があったが、それでも講堂にはまだ多くの観客が残っている。
名前を落としてしまった青年とそれを手助けする女性という荒唐無稽な設定にほとんどの観客はまだついていけていない様子だった。
舞台が明転すると先程の青年と女性が立っている。
少しばかり後ろのセットが変わっているため、移動してきたということなのだろう。
「この辺りで探しましょうか」
「ここは・・・?」
「僕の母校。小学校です」
「・・・小学校に名前が落ちてるんですか?」
「それが分かったら苦労はしません。とりあえず僕にゆかりのある場所を訪ねてみれば何かヒントがあるかと思いまして・・・とりあえず、教室に行ってみましょうか」
「勝手に入って怒られませんか?」
「大丈夫です。母校だし」
舞台が暗転し、明転すると学校の教室を彷彿とさせるセットに変わった。
2人は教室の後ろの方に並び黒板を眺めている。
そこへ男が入ってきて教壇の前に立った。
「えー、出席を取るぞ。赤井悟・・・上田孝宏・・・岡崎翔平・・・」
2人は並んで教師の姿を眺めている。
「出欠を取りはじめましたね」
「もしかしたら、この中に僕の名前が転がっているかもしれません」
当然、青年がこの小学校に通っていたのは数年前のことだから、卒業した今、出欠確認で呼ばれるはずはない。
しかし、この青年の言動は既に謎で満ちていたので、女性も受け流すことにしたようだ。
教師の方を見つめながら、出欠確認の中に青年の名前が落ちていないか、聞き逃さないように集中している。
しかし、女性には元々青年の名前が分からないのだから確認のしようがないはずだ。
この女性は名前を探そうとしているというより、青年を見守っているという方が正しいのかもしれない。
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